15:30 〜 18:00
[S01P-07] MeSO-net観測点におけるリアルタイム震度時系列の特徴
本研究では、MeSO-net観測点における連続観測記録の時系列的な特徴を、地震時および非地震時を含めて考察し、その時系列の予測可能性に関する議論を行う。非地震時のMeSO-net連続観測記録を解析した研究としてはYabe et al. (2020)やNimiya et al. (2021)が挙げられる。それらの研究では2020年以降を対象として、主に数Hz以上の周波数帯域における振動レベルに着目した解析を行うことで、コロナ禍における首都圏の社会活動の変化との対応を調べている。先行研究と本研究の違いとしては、本研究では2011年東北地震も含める形で観測点設置時からの記録を扱う点がまず挙げられる。また本研究では地震波形記録そのものでなく、それから求めたリアルタイム震度(功刀ほか2008)の時系列を解析対象とする。震度およびリアルタイム震度は0.5~2 Hzの周波数帯域に高い感度を持つ地震動指標であり、先行研究とは着目する周波数帯域が異なると言える。
時系列データは次の流れで作成した。各MeSO-net観測点の1日間の連続波形記録3成分から、功刀ほか(2008)に従って1秒ごとのリアルタイム震度時系列を求めた。そして1時間ごとの最大値および中央値を算出し、それらを複数年分まとめた。以下ではE.ICEM(東京都江戸川区一之江)における観測記録での結果を示す。
1時間ごとの中央値の時系列からは、昼間の振動レベルが高く、夜間の振動レベルが低いという日変動が見て取れる。また平日は振動レベルが高く、日曜の振動レベルが低いという傾向も見られた。これらの傾向は、24時間および168時間(7日間)で自己相関係数および偏自己相関係数の絶対値が大きくなるという自己相関解析の結果と整合する。また日曜だけでなく、休日も振動レベルが低くなる傾向が見られ、特に正月を挟む年末年始・春の大型連休・お盆の期間における振動レベルの低下は顕著である。日曜および休日の日変動の幅は平日のそれよりも小さい。これらの結果はより高い周波数帯域に着目していた先行研究の結果と整合する。なお先行研究で見られたコロナ禍での振動レベルの低下は、今回の解析では明瞭には見られなかった。この違いは解析対象としている周波数帯域の違いを反映している可能性があるが、他の観測点での解析も行い、さらなる検討を行う必要がある。最大値時系列も日変動および週変動、休日の振動レベル低下の傾向を有するが、それらは中央値時系列よりも相対的に弱い。また地震による擾乱が顕著にあり、多くは瞬間的な増加として見られる。2011年東北地震およびその後しばらくは、活発な余震活動の影響を受けたことによる最大値時系列の増加およびそれの緩やかな減衰の傾向が見られており、その上がり幅は非地震時の日変動を大きく超えている。同様の傾向は中央値時系列でも見られたが、通常の変動に戻るまでに要する時間は中央値時系列の方が短く、最大値時系列の方がより長いタイムスケールで影響が見られた。各時系列の差分の平均はどの期間でもほぼゼロであり、差分のばらつきは最大値時系列の方が大きい。
以上の結果は、中央値時系列は日変動・休日変動を加味することでの予測が可能であることを意味する一方で、最大値時系列は日変動・休日変動を加味したとしても地震起因の地震動の影響が大きく、予測が難しいことを意味する。またLippiello et al. (2019)やSawazaki (2021)などで予測が試みられている大地震後の振動レベルの増加およびその減衰の傾向がリアルタイム震度の中央値および絶対値の時系列でも見られた。ただしMeSO-netのE.ICEMにおいては2011年東北地震の後に明瞭に見られたのみで、他の期間では確認できなかった。
謝辞:本研究は、文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです。
時系列データは次の流れで作成した。各MeSO-net観測点の1日間の連続波形記録3成分から、功刀ほか(2008)に従って1秒ごとのリアルタイム震度時系列を求めた。そして1時間ごとの最大値および中央値を算出し、それらを複数年分まとめた。以下ではE.ICEM(東京都江戸川区一之江)における観測記録での結果を示す。
1時間ごとの中央値の時系列からは、昼間の振動レベルが高く、夜間の振動レベルが低いという日変動が見て取れる。また平日は振動レベルが高く、日曜の振動レベルが低いという傾向も見られた。これらの傾向は、24時間および168時間(7日間)で自己相関係数および偏自己相関係数の絶対値が大きくなるという自己相関解析の結果と整合する。また日曜だけでなく、休日も振動レベルが低くなる傾向が見られ、特に正月を挟む年末年始・春の大型連休・お盆の期間における振動レベルの低下は顕著である。日曜および休日の日変動の幅は平日のそれよりも小さい。これらの結果はより高い周波数帯域に着目していた先行研究の結果と整合する。なお先行研究で見られたコロナ禍での振動レベルの低下は、今回の解析では明瞭には見られなかった。この違いは解析対象としている周波数帯域の違いを反映している可能性があるが、他の観測点での解析も行い、さらなる検討を行う必要がある。最大値時系列も日変動および週変動、休日の振動レベル低下の傾向を有するが、それらは中央値時系列よりも相対的に弱い。また地震による擾乱が顕著にあり、多くは瞬間的な増加として見られる。2011年東北地震およびその後しばらくは、活発な余震活動の影響を受けたことによる最大値時系列の増加およびそれの緩やかな減衰の傾向が見られており、その上がり幅は非地震時の日変動を大きく超えている。同様の傾向は中央値時系列でも見られたが、通常の変動に戻るまでに要する時間は中央値時系列の方が短く、最大値時系列の方がより長いタイムスケールで影響が見られた。各時系列の差分の平均はどの期間でもほぼゼロであり、差分のばらつきは最大値時系列の方が大きい。
以上の結果は、中央値時系列は日変動・休日変動を加味することでの予測が可能であることを意味する一方で、最大値時系列は日変動・休日変動を加味したとしても地震起因の地震動の影響が大きく、予測が難しいことを意味する。またLippiello et al. (2019)やSawazaki (2021)などで予測が試みられている大地震後の振動レベルの増加およびその減衰の傾向がリアルタイム震度の中央値および絶対値の時系列でも見られた。ただしMeSO-netのE.ICEMにおいては2011年東北地震の後に明瞭に見られたのみで、他の期間では確認できなかった。
謝辞:本研究は、文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです。