2:00 PM - 2:15 PM
[S02-03] Simultaneous observation of passing vehicles using DAS, a video camera, and a broadband seismometer on National Route 4
DAS(Distributed Acoustic Sensing)は既存の光ファイバーケーブルに計測装置を接続するだけで,数m間隔で数十kmにわたるケーブル軸方向の歪みまたは歪み速度を計測できることから,近年地震学において導入が進んでいる.我々のグループは,2020年に宮城県内を通る国道4号線沿いに埋設されている通信用の光ファイバーケーブルを利用してDAS観測を行った(江本・他,2020,地震学会).矢武・他(2021,地震学会)では車両が励起する表面波の分散曲線を用いて浅部S波速度構造を推定した.しかし,位相だけではなく振幅も含めたDASの歪み波形を解釈するためには,車両が振動を励起する過程を詳しく理解する必要性を痛感した.そこで今回,DASの観測を再び行うにあたり,測線の中間地点近くの大衡村の1か所において,ビデオカメラ,広帯域地震計を用いた観測も並行して実施した.本発表では,その観測の概要と,映像から得られる通過する車両の特徴とDAS歪み波形記録,広帯域地震計記録との関係についてこれまでに分かったことを紹介する.
Sintela社のDASの計測装置(ONYX)を国土交通省古川国道維持出張所内に2022年3月から4月の約1ヶ月間設置し,そこから南の仙台方向に国道4号線に沿って伸びている約 50 kmの光ファイバーケーブルに接続した.ゲージ長は 9.57 m,チャンネル間隔は 6.38 m,サンプリング周波数は 200 Hzとした.本観測機器の出力信号は歪みである.ビデオカメラと広帯域地震計は,大衡村の国道4号線沿道の民家の敷地内に設置した.近傍の車道は片側1車線ずつの計2車線であり,観測場所と車道中央までの距離は約 9 m,光ファイバーケーブルは観測場所から遠い方の車線の深さ約 2.3 m に埋設されている.広帯域地震計はナノメトリクス社の広帯域3成分速度計 Trillium Compact を使用し,計測技研の HKS-9700でデータを連続収録した.ビデオカメラはパナソニック社 HC-VZX990M-W を使用し,観測期間中の数日間において断続的に車道方向の映像を記録した.
映像において車両を確認できた際には,広帯域地震計やDASに車両の通過に伴う地面の振動が記録されている.図は,大型トラックが通過した際の各記録の例である.DASの波形記録と映像とを比較すると,車両が最も光ケーブルに近づいたと考えられる時刻に歪み記録は伸びのピークを示し,その前後では縮みを示した.また,表面波の伝播によると考えられるより高周波の振動も捉えられた.コーナー周波数 5 Hz のローパスフィルタをかけた地震計記録には,同時刻の上下動成分にランプ状の波形が見られることが多かった.一方,水平成分は常に脈動と思われる周期状の波形が見られることが多かった.
映像記録から,軽自動車,普通自動車,普通貨物自動車・マイクロバス,大型貨物自動車・バス,超大型貨物,の5つに分類することができる.そこで,それぞれの車両通過に伴う最大ひずみ量を車両種別ごとに算出した.
その結果,最大ひずみ量の平均値は,各車種カテゴリーの代表的な荷重の大きさにほぼ比例し,また,光ケーブルの直上の車線を走行する場合の方が,より大きいことがわかった.パルス幅については,大型の車両ほど長くなる傾向にあるが,同じ車両種別でもそのばらつきは大きいことがわかった.
これらの結果を定量的に解釈するため,半無限媒質表面の鉛直荷重に対する変位応答を計算する Boussinesq 問題の解を利用した.車両が一定速度で観測点を通過すると仮定すると,理論DAS波形を水平方向にゲージ長分離れた観測点間の Boussinesq 解による変位の水平成分の差と走行速度を用いて表すことができる(Jousset et al., 2018).この時,荷重は映像を基に求めたタイヤの位置に等しく分配されているとした.観測波形は,理論波形の形状に類似していることから,各車種カテゴリーの代表的な荷重と最大ひずみ量の平均値を基に,観測地点付近の地盤の弾性パラメータは,剛性率 800 MPa 程度,ポアソン比 0.35 程度と推定された.また,パルス幅が同じ車両種別でもばらつくのは,走行速度が異なるためであると解釈できる.さらに,このパラメータを用いて地震計の理論波形を同様に求めた.水平動成分は他のノイズが乗っていることが多かったものの,上下動成分の速度は複数の車両に対して観測値をよく説明することができた.
本研究では動画を併用したことで車両の特定を行うことが可能となり,多様な荷重源を基に弾性パラメータの推定精度を高めることができた.また,DASの解析結果を地震波形を用いて検証することもできた.さらに今後,この地点で求めた各車両の荷重を基に,車両が移動した先の映像記録がない地点においてもDAS記録を用いて弾性パラメータを求める予定である.
(謝辞)国土交通省所有の光ファイバーを使用させていただいた.観測に当たって,仙台河川国道事務所の方々に便宜を図っていただいた. また,地震計とカメラの設置については,大衡村の石川敏氏様に多大なご協力をいただいた.
Sintela社のDASの計測装置(ONYX)を国土交通省古川国道維持出張所内に2022年3月から4月の約1ヶ月間設置し,そこから南の仙台方向に国道4号線に沿って伸びている約 50 kmの光ファイバーケーブルに接続した.ゲージ長は 9.57 m,チャンネル間隔は 6.38 m,サンプリング周波数は 200 Hzとした.本観測機器の出力信号は歪みである.ビデオカメラと広帯域地震計は,大衡村の国道4号線沿道の民家の敷地内に設置した.近傍の車道は片側1車線ずつの計2車線であり,観測場所と車道中央までの距離は約 9 m,光ファイバーケーブルは観測場所から遠い方の車線の深さ約 2.3 m に埋設されている.広帯域地震計はナノメトリクス社の広帯域3成分速度計 Trillium Compact を使用し,計測技研の HKS-9700でデータを連続収録した.ビデオカメラはパナソニック社 HC-VZX990M-W を使用し,観測期間中の数日間において断続的に車道方向の映像を記録した.
映像において車両を確認できた際には,広帯域地震計やDASに車両の通過に伴う地面の振動が記録されている.図は,大型トラックが通過した際の各記録の例である.DASの波形記録と映像とを比較すると,車両が最も光ケーブルに近づいたと考えられる時刻に歪み記録は伸びのピークを示し,その前後では縮みを示した.また,表面波の伝播によると考えられるより高周波の振動も捉えられた.コーナー周波数 5 Hz のローパスフィルタをかけた地震計記録には,同時刻の上下動成分にランプ状の波形が見られることが多かった.一方,水平成分は常に脈動と思われる周期状の波形が見られることが多かった.
映像記録から,軽自動車,普通自動車,普通貨物自動車・マイクロバス,大型貨物自動車・バス,超大型貨物,の5つに分類することができる.そこで,それぞれの車両通過に伴う最大ひずみ量を車両種別ごとに算出した.
その結果,最大ひずみ量の平均値は,各車種カテゴリーの代表的な荷重の大きさにほぼ比例し,また,光ケーブルの直上の車線を走行する場合の方が,より大きいことがわかった.パルス幅については,大型の車両ほど長くなる傾向にあるが,同じ車両種別でもそのばらつきは大きいことがわかった.
これらの結果を定量的に解釈するため,半無限媒質表面の鉛直荷重に対する変位応答を計算する Boussinesq 問題の解を利用した.車両が一定速度で観測点を通過すると仮定すると,理論DAS波形を水平方向にゲージ長分離れた観測点間の Boussinesq 解による変位の水平成分の差と走行速度を用いて表すことができる(Jousset et al., 2018).この時,荷重は映像を基に求めたタイヤの位置に等しく分配されているとした.観測波形は,理論波形の形状に類似していることから,各車種カテゴリーの代表的な荷重と最大ひずみ量の平均値を基に,観測地点付近の地盤の弾性パラメータは,剛性率 800 MPa 程度,ポアソン比 0.35 程度と推定された.また,パルス幅が同じ車両種別でもばらつくのは,走行速度が異なるためであると解釈できる.さらに,このパラメータを用いて地震計の理論波形を同様に求めた.水平動成分は他のノイズが乗っていることが多かったものの,上下動成分の速度は複数の車両に対して観測値をよく説明することができた.
本研究では動画を併用したことで車両の特定を行うことが可能となり,多様な荷重源を基に弾性パラメータの推定精度を高めることができた.また,DASの解析結果を地震波形を用いて検証することもできた.さらに今後,この地点で求めた各車両の荷重を基に,車両が移動した先の映像記録がない地点においてもDAS記録を用いて弾性パラメータを求める予定である.
(謝辞)国土交通省所有の光ファイバーを使用させていただいた.観測に当たって,仙台河川国道事務所の方々に便宜を図っていただいた. また,地震計とカメラの設置については,大衡村の石川敏氏様に多大なご協力をいただいた.