日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

[S02] PM-1

2022年10月26日(水) 13:30 〜 14:45 C会場 (8階(820研修室))

座長:吉見 雅行(産業技術総合研究所)、大林 政行(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

14:30 〜 14:45

[S02-05] 新幹線布設光ファイバーにおける駿河湾周辺の長期間DAS観測と自然地震観測への応用

*吉見 雅行1、井出 哲2、江成 徹平3、田屋 大輝3、岩田 秀治4 (1. 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門、2. 東京大学大学院理学研究科、3. 東京大学地震研究所、4. 東海旅客鉄道株式会社)

東海道新幹線の軌道沿いに布設された通信用光ケーブルを用いて,約三ヶ月間(2021年8月30日から11月23日)にわたるDAS観測(AP sensing製 N5226A)を実施した.新幹線や交通車両等による振動に加え,複数の地震記録が取得された.本発表では,計測の概要,光ケーブル設置条件と観測記録の特性,地震計記録との比較,テンプレートマッチングによる火山性低周波地震の検出試行結果を報告する. 測定対象は小田原―掛川区間であり,このうち熱海―静岡区間(約75km)で74日間,熱海―小田原区間,静岡―掛川区間でそれぞれ2日間および3日間程度の連続観測を実施した.DAS観測に並行して,新丹那トンネル内の3箇所,富士川橋梁上,および,沿線の3箇所にて広帯域地震計もしくは加速度計による観測を行った.DASの計測パラメータは,機器が設定を許す最大のサンプリングレートおよびゲージ長(空間サンプリング5.1m,ゲージ長40.8m,サンプリング周波数は熱海―静岡区間では1000Hz,それ以外では2000Hz)とした.1分間のデータ量は,熱海―静岡区間(約75km:約15000ch)で1.72GB,静岡―掛川区間(約45km:約9000ch)で2.1GB,熱海―小田原間(約19km:約3800ch)で0.87GBであり,観測期間全体で200TBあまりのデータ量となった. 測定区間の新幹線軌道は,トンネル,橋梁,高架橋,盛土,掘割,自然地盤など様々な地盤・構造物上に設置されている.光ケーブルは,トンネルでは壁面に架けられ,それ以外の場所では線路脇等の配線箱もしくは配線棚に格納されている.新幹線通過時には位相跳びによる振幅の頭打ちが生じるものの,新幹線による振動が記録され,設置環境による振動特性の違いが明瞭であった.トンネル区間では,新幹線の突入に伴う微気圧波による振動が音速で伝搬する様子も観測された. 観測期間中には房総沖,千葉中部,静岡県中部等を震源とする地震(有感)が発生し,これらのDAS計測波形が取得された.P波,S波のオンセットは概ね明瞭であった.後続波群は地震に関わらず場所ごとにほぼ同一の周波数帯域に収斂し,構造物−地盤系の振動特性を反映しているものと推察される. 計測区間北方には富士山の火山性低周波地震の震源域がある.低周波地震のシグナルが明瞭に認識できるDAS計測波形のうち10秒区間をテンプレートにして,Matched Filter解析を実施した.約360万個の相互相関値のうち6σ以上のもの(112個)の中に,富士山の火山性低周波地震は21個(テンプレート地震含む)含まれていた.同じ期間の気象庁カタログに含まれるもの23個のうち12個,含まれないものも9個検出された.M0.5を超える低周波地震は概ね検出でき,また約5分間続く低周波地震活動も検出できていた. 構造物設置の光ケーブルを用いたDAS観測は,当該構造物の振動特性把握など工学的に有用であるばかりでなく,地震検知など理学目的の自然地震観測にも有用である.