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[S02P-02] Applying simple hypocenter determination method using the back-propagating wavefront to real observed arrival times
2022年連合大会で発表したように、地震波到着時刻情報のみを使いP波S波関係なく観測点からP波とS波両方を伝播させ、波面がたくさん重なった点を震源と推定する簡便な震源決定方法を開発した。理論的な読み取り値に適用して計算時間も短く精度よく震源決定ができることを示した。今回はこの手法を実際の読み取りデータに適用したのでその結果を報告する。 通常、観測点での地震波P相やS相の到着時刻の読み取り値を使って震源決定をするが、その際には、地震毎に読み取り値をまとめることや位相の分別をしなければならない。連続して地震が発生している場合はこのようなことが困難なことが多い。そこで今回開発した手法では、地震波は波線理論に基づいて各観測点からの走時をあらかじめ計算しておく。次に観測点ごとに実際の観測読み取り値の時刻をもとに、時刻をさかのぼって対象領域の波が届いている地点にポイントを与える。高スコアところが震源である可能性が高いので、適切な閾値を設定してこのスコアから震源を推定する。実際には時間も位置も離散化されており各格子点でスコアを評価する。 さて、各格子点にポイントを与えるという単純な処理が必要になるが、処理すべき格子点の数が多いので実行上はここが最も計算時間がかかるところとなる。スコアを元に震源を抽出するところはさほど計算時間が必要ではない。ここでは読み取り値と計算値が一致するところに1ポイントを与え、ほかは0ポイントとし、ポイントを与える格子点だけに処理対象を絞れたので、処理時間を大幅に短縮できた。読み取り値と計算値の差が最小の点を探す、という通常の震源決定で用いられる基準を採用すると全格子点を処理対象にする必要が出てくるので、時間がかかりすぎてしまう。また、ポイント付与処理のところにはOpenMPによる並列化も適用しさらなる計算時間短縮を図っている。 まず、日向灘で2022年1月22日に発生した地震に適用してみた(図参照)。格子間隔は0.01°,1km, 0.1sとした。観測点は周辺のHi-net16点、本震から約10分間の手動読み取り値を使用した。この間29個の地震がルーチン処理では決定されている。うち読み取り値が重なっている地震は21個(72%)ある。今回の手法を適用した結果、29個すべての地震を推定することができた。ルーチン処理の地震との差は平均0.75格子間隔、処理時間は49sであった。 次に日本列島全体を対象に、特に際立った地震活動がない時期として2015年1月1日0時から4時までの読み取り値に本方法を適用してみた。観測点はHi-netのみとした。格子間隔は0.1°, 10km, 1s とした。この間34個の地震がルーチン処理では決定されている。うち読み取り値が重なっている地震は10個(29%)ある。今回の手法を適用した結果、34個すべての地震を推定することができた。ルーチン処理の地震との差は平均1.93格子間隔、処理時間は3m18sであった。 最後に2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の本震から4時間の東北日本の読み取り値に本方法を適用してみた。観測点はHi-netのみ231点とした。格子間隔は0.1°, 10km, 1s とした。この間527個(領域外を含む)の地震がルーチン処理では決定されている。うち読み取り値が重なっている地震は462個(88%)ある。今回の手法を適用した結果、267個(領域内の地震425個に対して63%)の地震を推定することができた。ルーチン処理の地震との差は平均4.60格子間隔、処理時間は7m42sであった。 ある程度限られた領域で集中して地震が発生した場合、日常的な地震活動の場合については、活動の概略を把握するには十分良い精度で震源決定ができると期待される。東北地方太平洋沖地震のように広範囲で多くの地震が発生する場合は、検出率が6割強と落ち、精度も悪化してしまう。検出されたほとんどの地震は実際の震源位置周辺に求められているがいくつかの地震は太平洋はるか沖合に決まってしまう傾向が見える。観測点が地震の西側に偏っていることが関係しているのかもしれない。このような傾向をあらかじめ理解しておけばこのような地域でも地震活動の把握に利用できる可能性がある。