The 2022 SSJ Fall Meeting

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Poster session (2nd Day)

Regular session » S02. Seismometry and monitoring system

[S02P] PM-P

Tue. Oct 25, 2022 2:00 PM - 5:30 PM ROOM P-1 (10th floor (Conference Room 1010-1070))

2:00 PM - 5:30 PM

[S02P-07] Realtime Tsunami Inundation Predicting System Using S-net Data for Chiba Prefecture

*Narumi TAKAHASHI1, Masahiro OOI1, Mitsutsugu IGARASHI2, Kaoru YOSHIOKA2, Shoichi SHIOZAKI2, Kazumi ASAO1, Wataru SUZUKI1 (1. NIED, 2. Chiba Pref.)

千葉県では、日本海溝海底地震津波観測網(以下、S-net)を用いた津波浸水予測システムを構築し、現在運用されている。このシステムは和歌山県や三重県、中部電力に導入したシステムと同様のもので、S-netで津波を観測すると、その津波高さの空間分布に従い、各予測対象地点の津波到達時刻、津波高、浸水深分布と浸水エリアを即時的に示すものである。
 千葉県では、2011年の東北地方太平洋沖地震のみならず、1677年の延宝地震、1703年の元禄地震など、これまでに多くの津波被害を繰り返し受けてきた。これらの経緯を踏まえ、想定する津波は、日本海溝から伊豆・小笠原海溝にかけての海域、ならびに、相模トラフ沿いの海域を対象としている。この海域にマグニチュード(M)7.5から8.5まで、深度と傾斜にばらつきを持たせ、2600ケース超の断層モデルを設定した。浅い断層モデルも設定しているため、浅部で海底地すべりが発生して局所的に大きな津波が発生したとしても、S-netで観測できれば予測に反映することができる。使用したS-net観測点は、運用コスト低減を念頭に、福島県沖以南の観測点のみとした。予測対象地点は、南房総市から銚子市に至る九十九里・外房地域としている。千葉県のシステムは、基本的な予測手法は既に実装している和歌山県や三重県と同じであるが、いくつかの点でシステムに機能を追加して予測への信頼性を強化した。
 1つめは、観測点のノイズ対策である。このシステムは、長時間平均と短時間平均をリアルタイムで計算し、その比を取ることでトリガーをかけている。この方法により、長周期のノイズが混入しても、津波を適切なタイミングでトリガーをかけることが可能である。しかし、S-netは浅海から深海まで幅広い範囲に設置しているため、各観測点のノイズレベルがまちまちであること、インラインシステムとして水圧計を取り付けているため、ケーブルの回転に伴い津波の周期に近いノイズが混入することに対応する必要があった。また、津波のトリガーがかかると、その時刻からの相対水位が津波の観測値となるため、線形的に観測値のオフセットが増加するような観測点は予測の過大評価につながる。これらを踏まえ、各観測点のノイズの特徴を抽出し、津波予測に不適な観測点、高いノイズレベルにより観測値の誤差が大きいと考えられる観測点、精度の高い観測が実現できている観測点に分け、それぞれのノイズに対する閾値などのパラメータを設定した。津波の周期に近いノイズの混入については、混入直後の即時的な判断は困難であるため、観測した津波高の空間的な比較と、津波伝播の状況からノイズと判断できれば、津波トリガーをキャンセルする形を採用している。
 次に、予測情報の可視化の高度化である。通常、県庁内にサーバを設置、各市町のユーザーからクライアントして接続することで、津波到達時刻や津波高、浸水深マップなどの予測情報を地域と共有するシステムとして運用している。しかし、これらの予測情報共有のための仕組みは、ユーザーの通常の業務形態や、端末の設置数、サーバとユーザー間の回線環境など、様々な要素の影響を受ける。今後は、消防をはじめとする地域防災を支える人材への展開を念頭におき、行政機関の建物内だけの可視化ではなく、支援に出た現場でも確認できるようにする必要がある。そのため、作成した予測情報や観測情報をクラウドに伝送し、千葉県職員が所有するスマートフォンやタブレット等のモバイル機器上でも確認できるアプリケーションを作成、ユーザーに配布する体制を技術的に構築した。また、サーバからクラウドまでは一般のインターネット回線を使用するため、伝送するデータ量やタイミングを最適化し、回線の混雑にも耐えられる耐障害性を強化した。加えて、モバイル機器から写真をアップロードできる機能も追加し、発災時に現地からの情報を収集しやすい機能を付与している。システムの運用にあたっては、観測の現状、予測情報作成の現状、回線の状態をユーザーが即時的に把握できる必要がある。これらを確認した上で、予測情報の信頼性を理解し、今後起こりうることを想定することができる。また、気象庁からのアデス情報や、アデス情報による配信制御、潮位計による予測値の検証も同時に可視化できるようにした。さらに、県内の震度計を用いた地震被害予測システム(大井ほか、本学会)とも連携し、地震被害予測と津波浸水予測の統合も進めた。この統合されたシステムを用いて、毎年、避難訓練を千葉県下で実施し、発災時でのスムーズな運用に備えることとしている。
 本システムの構築は海洋研究開発機構、和歌山県、三重県との連携によって、実現されました。ここに厚く感謝の意を表します。