11:00 〜 11:15
[S03-12] 日本海溝及び千島海溝における短期的スロースリップイベントの系統的検出
スロースリップイベント(SSE)は低速の断層すべりが数日間から数年間継続する現象であり、通常の地震と比べ時間スケールが長いスロー地震の一種である。オホーツクプレートの下に太平洋プレートが沈み込む日本海溝及び千島海溝では、活発なスロー地震活動が報告されている(e.g., Baba et al., 2020; Nishikawa et al., 2019)。一方で日本海溝ではいくつかの先行研究によってSSEの観測事例が報告されているものの(e.g., Ito et al., 2013; Nishimura, 2021)、千島海溝を含む領域全域におけるSSEの規模・継続期間や時空間分布といった活動様式は依然として不明である。本研究では継続期間が数日間から数週間である短期的SSE(S-SSE)に着目し、陸域のGNSSデータを用いた系統的検出を行うことで、この地域のS-SSEの活動様式の解明を試みる。 本研究では国土地理院、海上保安庁、国際GNSS事業により東北日本に設置された529のGNSS連続観測局の1996年12月1日から2021年11月30日までの期間の日座標値を検出に用いた。ノイズを低減するための事前処理として、保守作業等に起因する人為的なオフセット、通常の地震に起因する地表変位、季節変動成分、及び共通誤差成分を取り除いた(Cleveland et al., 1990; Tobita, 2016; Wdowinski et al., 1997)。 本研究ではS-SSE系統的検出手法(Okada & Nishimura, in prep.; Okada et al., 2022)を用いてイベントの検出を行った。この手法では、初めに測地マッチドフィルター(Rousset et al., 2017)をGNSSデータの水平成分に適用することでS-SSEの候補となる非定常変位イベントを検出する。続いて、非定常変位イベントの矩形断層モデルと継続期間を推定し(Matsu’ura & Hasegawa, 1987; 宮岡・横田, 2012; Rousset et al., 2017)、これらの推定結果に基づき非定常変位イベントをS-SSEへと分類する。本研究ではS-SSEの可能性の高いイベントをclass 1 SSE、S-SSEの可能性があるイベントをclass 2 SSEとそれぞれ分類した。また本研究では上記の分類条件に加えて、M6.5以上の通常地震と時空間的に近接する変位イベントを地震に関連するイベントとして取り除いた。
予備解析の結果、25年間で114個のS-SSEの検出に成功した。検出したイベントの多くは関東地方東部の直下及び沖合に分布している(図1)。この地域では先行研究(e.g., Nishimura, 2021)で活発なS-SSEの活動が報告されており、浅部側と深部側に分かれてS-SSEが分布するといった特徴もNishimura (2021)と共通している(図1b)。2017年5月に関東沖合で検出されたイベントは、テクトニック微動(Nishikawa et al., 2019)との間の時空間的同期が確認された。また関東地方ほど活発ではないものの、小規模なS-SSEクラスターが宮城県沖と十勝沖に分布している。このうち、十勝沖で検出されたS-SSEの中には、超低周波地震(Baba et al., 2020)やテクトニック微動(Nishikawa et al., 2019)と時空間的に同期するイベントが確認された。本解析では十勝沖におけるS-SSEは必ず超低周波地震と時空間的に同期するという仮定の下、14件の超低周波地震のバーストを基準にGNSS座標時系列をスタックし矩形断層を推定した。その結果、平均的な断層モデルは2003年十勝沖地震の震源域(Yamanaka & Kikuchi, 2003)の浅部延長に推定された。
一方で予備的な検出結果の中には、明らかに誤検出と考えられる断層すべりで変位パターンを説明し難いイベントや、M6以上の通常地震の地震時変位またはその余効変動をSSEとして検出したと考えられるイベントが多数含まれている。地震に関連する地殻変動の補正とSSEとその他の非定常イベントの分類を解析の中で行ってはいるものの、S-SSEとそれ以外の非定常変位イベントの正確な分類は今後の課題である。
謝辞
本研究では国土地理院、海上保安庁、国際GNSS事業より提供されたGNSS RINEXファイルを使用した。本研究で用いたプレート境界モデル(Iwasaki et al., 2015)は、国土地理院の数値地図250mメッシュ(標高)、日本海洋データセンターによる500mメッシュ海底地形データ(J-EGG500, http://www.jodc.go.jp/data_set/jodc/jegg_intro_j.html)及びアラスカ大学アラスカ地理情報ネットワークの地形・水深データ(Lindquist et al., 2004)から作成したものである。
予備解析の結果、25年間で114個のS-SSEの検出に成功した。検出したイベントの多くは関東地方東部の直下及び沖合に分布している(図1)。この地域では先行研究(e.g., Nishimura, 2021)で活発なS-SSEの活動が報告されており、浅部側と深部側に分かれてS-SSEが分布するといった特徴もNishimura (2021)と共通している(図1b)。2017年5月に関東沖合で検出されたイベントは、テクトニック微動(Nishikawa et al., 2019)との間の時空間的同期が確認された。また関東地方ほど活発ではないものの、小規模なS-SSEクラスターが宮城県沖と十勝沖に分布している。このうち、十勝沖で検出されたS-SSEの中には、超低周波地震(Baba et al., 2020)やテクトニック微動(Nishikawa et al., 2019)と時空間的に同期するイベントが確認された。本解析では十勝沖におけるS-SSEは必ず超低周波地震と時空間的に同期するという仮定の下、14件の超低周波地震のバーストを基準にGNSS座標時系列をスタックし矩形断層を推定した。その結果、平均的な断層モデルは2003年十勝沖地震の震源域(Yamanaka & Kikuchi, 2003)の浅部延長に推定された。
一方で予備的な検出結果の中には、明らかに誤検出と考えられる断層すべりで変位パターンを説明し難いイベントや、M6以上の通常地震の地震時変位またはその余効変動をSSEとして検出したと考えられるイベントが多数含まれている。地震に関連する地殻変動の補正とSSEとその他の非定常イベントの分類を解析の中で行ってはいるものの、S-SSEとそれ以外の非定常変位イベントの正確な分類は今後の課題である。
謝辞
本研究では国土地理院、海上保安庁、国際GNSS事業より提供されたGNSS RINEXファイルを使用した。本研究で用いたプレート境界モデル(Iwasaki et al., 2015)は、国土地理院の数値地図250mメッシュ(標高)、日本海洋データセンターによる500mメッシュ海底地形データ(J-EGG500, http://www.jodc.go.jp/data_set/jodc/jegg_intro_j.html)及びアラスカ大学アラスカ地理情報ネットワークの地形・水深データ(Lindquist et al., 2004)から作成したものである。