日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

[S03] AM-2

2022年10月26日(水) 11:00 〜 12:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:岡田 悠太郎(京都大学)、中村 優斗(海上保安庁海洋情報部)

11:30 〜 11:45

[S03-14] 南海トラフの巨大地震による粘弾性変形に対するリソスフェア-アセノスフェア境界の低粘性領域の影響

*村上 颯太1、橋間 昭徳2、飯沼 卓史2、藤田 航平1、市村 強1、堀 高峰2 (1. 東京大学地震研究所、2. 海洋研究開発機構)

プレート沈み込み帯における巨大地震後の地殻変動については、アセノスフェアにおける粘弾性応力緩和と余効すべりの影響が考えられる。2011年に発生した東北沖地震に際しては、海底測地観測点において、地震直後から陸向きの大きな地殻変動が主破壊域直上で観測されており、陸側プレート下のマントルウェッジや海洋プレート下のマントルの粘性を考慮するだけでは説明ができない。この海底観測データの説明としてlithosphere-asthenosphere boundary(LAB)と呼ばれるプレート沈み込み帯下の低粘性領域をモデル化することが提案されている。過去、2004年スマトラ-アンダマン地震や2010年チリ地震といったプレート沈み込み帯の巨大地震においてはLABの検出に足る海底測地観測はなされていない。しかし、将来の海底観測網の充実によりプレート沈み込み帯におけるLABの普遍的な存在が認められる可能性がある。プレート沈み込み帯の一つであり、今後数十年以内に巨大地震の発生が危惧されている南海トラフにおいては、日本海溝と同様な海底測地観測網が備わっている。しかしながら、過去の地震においては、LABに対する感度が高い海底測地観測はなされていない。そこで、本研究では、想定される南海トラフにおける巨大地震に対し、LABの低粘性が地震後の地殻変動にどのような影響を与えるかを定量的な評価を行った。 本研究では、南海トラフの現実的な地下構造モデルを考慮した粘弾性応力緩和による地殻変動解析を実施した。現実的な地下構造を考慮するために、対象領域を2500km x 2500km x 1100kmとし、最小要素サイズを500mとした4.2×109自由度の大規模な有限要素モデルを作成した。このような大規模なモデルによる解析においては、多大な計算コストを要するため、計算コストを著しく削減可能な地殻変動解析手法(Ichimura et al.,2016)を導入することで、粘弾性解析を実現している。マントルウェッジと海洋マントルにおいて粘性率が異なる場合やLABの粘性率の異なるケースにおける、地震時すべりに対する4年間の地表面応答を計算した。 計算の結果、LABの粘性率が2.5×1017 Pasと低粘性が著しい場合、2011年東北沖地震の場合と同様に、海域で陸向きの非常に大きい水平変位が生じた。また、鉛直変位については、ケースによって隆起と沈降の分布が変わる複雑な挙動が見られた。これらの変形は、時間経過とともに急速に減衰していくことから地震後初期での観測が有効であることが分かった。具体的には、地震後1年間において、GNSS音響結合方式(GNSS-A)の海底観測点の観測精度を上回る非常に大きな値を持つことから、検知できる可能性が高いことがわかった。一方で、LABの粘性率が2.5×1018 Pas程度である場合、LABが存在せず海洋マントルの粘性率を1.0×1019 Pasで一様とした場合と似た変形パターンが見られた。この場合、現状の観測精度を上回る差が生じないことから、検知が難しいことがわかった。ただし、GNSS-Aにおける高頻度観測や、DONETにおける観測精度向上など、海底観測技術の進展により検知できる可能性がある。なお、今回は南海トラフのいわゆる全割れ破壊を想定した場合の地表面応答を計算したが、半割れでの地震が発生する可能性があることや、実際のより複雑なレオロジー構造によって応答が異なる可能性がある。こうした複数の地震シナリオやレオロジーによる応答の違いを調べることで、LABの検出可能性を検討することが今後の課題である。