11:45 AM - 12:00 PM
[S03-15] Study on viscus flow and rheological heterogeneity caused by large earthquake along the Nankai trough
・はじめに
南海トラフ沿いでは、100~200年の間隔でプレート境界での大規模地震が繰り返し発生している。「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会(内閣府)」(平成29年8月)では、防災対応を検討するケースとして4つの典型的ケースに整理している。このうち、想定震源域の東側(片側)だけで大規模地震が発生しば場合(ケース1)、想定震源域で一回り小さいM7クラスの地震が発生した場合(ケース2)では、大規模地震の発生につながる可能性を検討するために、プレート境界の固着状態(=余効すべり)の正確な把握が必要となる。従来、初期の余効変動の主要因は余効すべりに起因すると考えられてきた。しかし、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動に関する解析では、地震後の粘性緩和の影響を考慮した場合としなかった場合とで、推定される余効すべりの場所と大きさが大きく異なることが分かってきた。従って、余効すべりを正確に推定するためには粘性緩和の見積もりが重要であり、その見積もりには適切な地下の粘弾性構造と粘性率が必要である。最終的には粘弾性構造と粘性率の見積もりが重要であるが、本稿ではその前段階として、1944年東南海地震と1946年南海地震の断層モデルを参考に南海トラフ沿いで発生する大規模地震の地震時の変動を計算し、粘性緩和による変動が、粘性構造のどの領域が地表のどの場所の変動に、どのように影響するのかについて報告する。
・各粘弾性領域における変動の特徴
南海トラフ沿いの粘弾性構造は大きく2つの領域に分けられる。一つは陸域の大陸プレート下に位置するウェッジマントル、もう一つはフィリピン海プレート下の海洋アセノスフェアである。これら2つの粘弾性領域における粘性緩和は、ほぼ真逆の変動を引き起こす。1946年南海地震を想定した場合、ウェッジマントルの粘性緩和は、日本海側を中心として海溝軸に向かう南東方向の水平変動と日本海側を中心として陸域でわずかな隆起を引き起こす。一方、海洋アセノスフェアの粘性緩和は、ウェッジマントルの粘性緩和とはほぼ真逆で、太平洋側の海域から陸域の一部では海溝軸から離れる北西方向の水平変動、太平洋側の海域で隆起、陸域でわずかな沈降を引き起こす。ただし、日本海側の陸域ではウェッジマントルの粘性緩和と同じく、海溝軸に向かう南東方向の水平変動が生じる。太平洋側の陸域における水平変動の方向や隆起、沈降の境界は、地震時のすべり分布に強く依存し、太平洋側の陸域でも海溝軸に向かう南東方向の水平変動が引き起こされる場合もある。
次に1944年東南海地震を想定した場合、1946年南海地震の場合と概ね同じ傾向である。ウェッジマントルの粘性緩和は陸域を中心として海溝軸に向かう南東方向の水変動が卓越する。一方、海洋アセノスフェアの粘性緩和はほぼ海溝軸から離れる北西方向の水平変動が卓越し、太平洋側の海域で隆起、陸域でわずかな沈降を引き起こす。1946年南海地震の場合に見られた日本海側の陸域での南東方向の水平変動はほとんど見られない。
フィリピン海プレートは低角で沈み込んでいるために粘性緩和を引き起こすウェッジマントルの領域が狭い。そのため、海洋アセノスフェアの粘性緩和の影響の方が顕著であると考えられる。また、フィリピン海プレートの厚さが30~40kmと太平洋プレートに比べると薄いことも、海洋アセノスフェアの粘性緩和の影響が顕著になる一因であると考えられる。従って、南海トラフで発生する大規模地震の粘性緩和の影響を評価する上では、ウェッジマントルよりも海洋アセノスフェアの粘性率の方が重要と考えられる。今後、1944年東南海地震および1946年南海地震後の地殻変動の観測データを精査し、適切な粘弾性構造と粘性率を推定していく。また、2004年紀伊半島南東沖の地震の余効変動データも粘性率を制約するには有効だと考えている。
南海トラフ沿いでは、100~200年の間隔でプレート境界での大規模地震が繰り返し発生している。「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会(内閣府)」(平成29年8月)では、防災対応を検討するケースとして4つの典型的ケースに整理している。このうち、想定震源域の東側(片側)だけで大規模地震が発生しば場合(ケース1)、想定震源域で一回り小さいM7クラスの地震が発生した場合(ケース2)では、大規模地震の発生につながる可能性を検討するために、プレート境界の固着状態(=余効すべり)の正確な把握が必要となる。従来、初期の余効変動の主要因は余効すべりに起因すると考えられてきた。しかし、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動に関する解析では、地震後の粘性緩和の影響を考慮した場合としなかった場合とで、推定される余効すべりの場所と大きさが大きく異なることが分かってきた。従って、余効すべりを正確に推定するためには粘性緩和の見積もりが重要であり、その見積もりには適切な地下の粘弾性構造と粘性率が必要である。最終的には粘弾性構造と粘性率の見積もりが重要であるが、本稿ではその前段階として、1944年東南海地震と1946年南海地震の断層モデルを参考に南海トラフ沿いで発生する大規模地震の地震時の変動を計算し、粘性緩和による変動が、粘性構造のどの領域が地表のどの場所の変動に、どのように影響するのかについて報告する。
・各粘弾性領域における変動の特徴
南海トラフ沿いの粘弾性構造は大きく2つの領域に分けられる。一つは陸域の大陸プレート下に位置するウェッジマントル、もう一つはフィリピン海プレート下の海洋アセノスフェアである。これら2つの粘弾性領域における粘性緩和は、ほぼ真逆の変動を引き起こす。1946年南海地震を想定した場合、ウェッジマントルの粘性緩和は、日本海側を中心として海溝軸に向かう南東方向の水平変動と日本海側を中心として陸域でわずかな隆起を引き起こす。一方、海洋アセノスフェアの粘性緩和は、ウェッジマントルの粘性緩和とはほぼ真逆で、太平洋側の海域から陸域の一部では海溝軸から離れる北西方向の水平変動、太平洋側の海域で隆起、陸域でわずかな沈降を引き起こす。ただし、日本海側の陸域ではウェッジマントルの粘性緩和と同じく、海溝軸に向かう南東方向の水平変動が生じる。太平洋側の陸域における水平変動の方向や隆起、沈降の境界は、地震時のすべり分布に強く依存し、太平洋側の陸域でも海溝軸に向かう南東方向の水平変動が引き起こされる場合もある。
次に1944年東南海地震を想定した場合、1946年南海地震の場合と概ね同じ傾向である。ウェッジマントルの粘性緩和は陸域を中心として海溝軸に向かう南東方向の水変動が卓越する。一方、海洋アセノスフェアの粘性緩和はほぼ海溝軸から離れる北西方向の水平変動が卓越し、太平洋側の海域で隆起、陸域でわずかな沈降を引き起こす。1946年南海地震の場合に見られた日本海側の陸域での南東方向の水平変動はほとんど見られない。
フィリピン海プレートは低角で沈み込んでいるために粘性緩和を引き起こすウェッジマントルの領域が狭い。そのため、海洋アセノスフェアの粘性緩和の影響の方が顕著であると考えられる。また、フィリピン海プレートの厚さが30~40kmと太平洋プレートに比べると薄いことも、海洋アセノスフェアの粘性緩和の影響が顕著になる一因であると考えられる。従って、南海トラフで発生する大規模地震の粘性緩和の影響を評価する上では、ウェッジマントルよりも海洋アセノスフェアの粘性率の方が重要と考えられる。今後、1944年東南海地震および1946年南海地震後の地殻変動の観測データを精査し、適切な粘弾性構造と粘性率を推定していく。また、2004年紀伊半島南東沖の地震の余効変動データも粘性率を制約するには有効だと考えている。