09:45 〜 10:00
[S06-01] 南海トラフ室戸沖におけるプレート境界断層の詳細構造とプレート境界地震
日本列島下にフィリピン海プレートが沈み込む南海トラフでは、M8を超える巨大地震のほか、微小地震や各種スロー地震(低周波微動、超低周波地震、非地震性滑りなど)まで、多様なプレート境界断層滑り現象が発生している。巨大地震とスロー地震の関係性はまだよく分かっていないところもあるが、たとえば超低周波地震は巨大地震震源域より浅い側(トラフ軸側)と深い側(陸側)に分布するなど、同じプレート境界断層の滑り現象でありながら、通常の地震とスロー地震では発生場所を棲み分けていると考えられている。したがって、両者の発生場の構造的な特徴を把握できれば、プレート境界滑り現象の多様性を決定付ける要因、すなわちプレート間固着を決定付ける要因の理解に繋がると期待される。
海洋研究開発機構では南海トラフ沈み込み帯におけるプレート間固着・すべり分布の現状把握とモニタリングを目指し、海底観測ネットワークの構築を進めるとともに、2018年度から大規模な海域構造探査によりプレート境界断層の実態把握研究を進めている。この一環で、2019年末、我々は浅部超低周波地震(sVLFE)が活発な室戸岬沖で制御振源(エアガン)と稠密な海底地震計アレイ(2km間隔)を用いた構造調査観測を実施した。調査海域には、土佐碆と呼ばれる海底地形上の高まりと、その高まりを横切る土佐碆海盆と呼ばれる谷地形が顕著に発達しているのが特徴である。土佐碆海盆は海底地形の窪地であり、プレート境界断層はその下約10kmに位置するが、以下のように土佐碆海盆付近においてプレート境界断層滑り(固着・すべり)が大きく変化していることが知られている。まず、土佐碆海盆付近を境に海側(トラフ側)ではsVLFEが多数発生する一方、陸側ではsVLFEはほとんど発生していない。また、地殻変動観測研究では、土佐碆海盆付近を境に海側は固着が弱く、陸側は固着が強い傾向が示されている。したがって、土佐碆海盆直下のプレート境界部では、断層の固着・すべり状態が変化していることが期待される。
実際、土佐碆海盆直下には顕著な構造不均質性があることが最近の海洋研究開発機構の解析研究からも明らかになってきた。Nakamura et al. (2022, GRL)は潮岬から室戸岬にかけた広域で実施した稠密な地震波反射法データを解析することで、土佐碆海盆直下はプレート境界断層の形状か上盤内の地震波速度の異常帯に相当する可能性が高いことを指摘している。しかし、反射法データのみではプレート境界断層の確からしい形状やその周辺の物性を解き明かすことはできないため、断層固着・滑りを決定付けている構造要因についてはよく分かっていない。そこで、本研究では、反射法データのみからでは精度よく決定することができないプレート境界断層付近の詳細なプレート境界断層形状や断層付近の物性(地震波速度)を高い解像度でイメージングすることを目指して、海底地震計で観測される屈折波を活用して、下記の手順で高解像度地震波速度構造モデルを構築した。まず、初動走時トモグラフィによって長波長地震波速度構造モデルを構築し、その結果を初期構造として波形インバージョン(周波数領域、音響場、Full-waveform Inversion, FWI)によって短波長不均質をモデル化した。
FWIの結果から、土佐碆海盆付近を境に、プレート境界(ここでは沈み込む海洋地殻の表面とする)の上側の物性(地震波速度)が顕著に変化することが明らかになった。すなわち、スロー地震(sVLFE)が卓越する海側では、プレート境界直上の地震波速度は低い一方で、プレート固着が強い陸側ではプレート境界直上(上盤プレートの底面)の地震波速度が高い。これは、スロー地震が発生する浅部側のプレート境界面付近には沈み込むプレートが持ち込む堆積物などに由来する柔らかい物質が厚く分布している一方で、スロー地震が観測されていない深部側ではプレート境界面付近には柔らかい物質が失われていることを示唆していると考えられる。したがって、南海トラフ域におけるsVLFE発生域と固着域(通常の地震が発生する領域)を隔つ要因の一つは、プレート境界断層付近の物性(低速度物質の分布)であると考えられる。
海洋研究開発機構では南海トラフ沈み込み帯におけるプレート間固着・すべり分布の現状把握とモニタリングを目指し、海底観測ネットワークの構築を進めるとともに、2018年度から大規模な海域構造探査によりプレート境界断層の実態把握研究を進めている。この一環で、2019年末、我々は浅部超低周波地震(sVLFE)が活発な室戸岬沖で制御振源(エアガン)と稠密な海底地震計アレイ(2km間隔)を用いた構造調査観測を実施した。調査海域には、土佐碆と呼ばれる海底地形上の高まりと、その高まりを横切る土佐碆海盆と呼ばれる谷地形が顕著に発達しているのが特徴である。土佐碆海盆は海底地形の窪地であり、プレート境界断層はその下約10kmに位置するが、以下のように土佐碆海盆付近においてプレート境界断層滑り(固着・すべり)が大きく変化していることが知られている。まず、土佐碆海盆付近を境に海側(トラフ側)ではsVLFEが多数発生する一方、陸側ではsVLFEはほとんど発生していない。また、地殻変動観測研究では、土佐碆海盆付近を境に海側は固着が弱く、陸側は固着が強い傾向が示されている。したがって、土佐碆海盆直下のプレート境界部では、断層の固着・すべり状態が変化していることが期待される。
実際、土佐碆海盆直下には顕著な構造不均質性があることが最近の海洋研究開発機構の解析研究からも明らかになってきた。Nakamura et al. (2022, GRL)は潮岬から室戸岬にかけた広域で実施した稠密な地震波反射法データを解析することで、土佐碆海盆直下はプレート境界断層の形状か上盤内の地震波速度の異常帯に相当する可能性が高いことを指摘している。しかし、反射法データのみではプレート境界断層の確からしい形状やその周辺の物性を解き明かすことはできないため、断層固着・滑りを決定付けている構造要因についてはよく分かっていない。そこで、本研究では、反射法データのみからでは精度よく決定することができないプレート境界断層付近の詳細なプレート境界断層形状や断層付近の物性(地震波速度)を高い解像度でイメージングすることを目指して、海底地震計で観測される屈折波を活用して、下記の手順で高解像度地震波速度構造モデルを構築した。まず、初動走時トモグラフィによって長波長地震波速度構造モデルを構築し、その結果を初期構造として波形インバージョン(周波数領域、音響場、Full-waveform Inversion, FWI)によって短波長不均質をモデル化した。
FWIの結果から、土佐碆海盆付近を境に、プレート境界(ここでは沈み込む海洋地殻の表面とする)の上側の物性(地震波速度)が顕著に変化することが明らかになった。すなわち、スロー地震(sVLFE)が卓越する海側では、プレート境界直上の地震波速度は低い一方で、プレート固着が強い陸側ではプレート境界直上(上盤プレートの底面)の地震波速度が高い。これは、スロー地震が発生する浅部側のプレート境界面付近には沈み込むプレートが持ち込む堆積物などに由来する柔らかい物質が厚く分布している一方で、スロー地震が観測されていない深部側ではプレート境界面付近には柔らかい物質が失われていることを示唆していると考えられる。したがって、南海トラフ域におけるsVLFE発生域と固着域(通常の地震が発生する領域)を隔つ要因の一つは、プレート境界断層付近の物性(低速度物質の分布)であると考えられる。