日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06] AM-1

2022年10月24日(月) 09:45 〜 10:45 C会場 (8階(820研修室))

座長:椎名 高裕(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

10:00 〜 10:15

[S06-02] 南海トラフ浅部沈み込み帯における地震学的構造の時間変化とスロー地震との関連

*利根川 貴志1、悪原 岳2、山下 裕亮3、杉岡 裕子4、篠原 雅尚2、武村 俊介2、辻 健2 (1. 海洋研究開発機構、2. 東京大学、3. 京都大学、4. 神戸大学)

南海トラフ域の熊野灘から紀伊半島沖にかけて、沈み込み帯の浅部において2020年末から1ヶ月ほど活発なスロー地震活動が発生した(例えば、Takemura et al. 2022; Yamamoto et al. 2022; Ogiso and Tamaribuchi 2022)。Tonegawa et al. (2022)は南海トラフ域においてDONETのノイズ記録を用い、6〜10年間に渡って地震波速度構造と不均質構造の2種類の時間変化を推定した。この期間には2020年末のイベントも含まれている。その結果、2020年末のイベント中に地震波速度が低下してそれがイベント後も残る一方、不均質構造はイベント中に変化し、その後イベント前の元の状態に戻ることを指摘した。これらは地震波速度と不均質構造の変化を引き起こしている現象の時間スケールが異なっていることが原因と考えられる。そこで、本研究では、DONET1とDONET2の間に設置され、かつ、2020年末のイベントを観測した海底地震計の記録を使用することで、これらの地震波速度および不均質構造の時空間変化のマッピングを行う。また、これらの結果から、2020年末のイベントの背景にある現象を理解することを試みる。
海底地震計は短周期地震計を使用しており、連続記録の期間は2019年9月〜2021年5月である。相互相関関数の計算には上下動成分を使用し、周波数領域でスペクトルホワイトニングを行った。また、相当する期間のDONET1&2の上下動成分も使用した。周波数帯域は0.5–2.0 Hzである。それらを30日間毎にスタックし、リファレンス波形は全期間スタックした波形を使用した。地震波速度構造の時間変化の抽出にはストレッチング法を用い(Wegler and Sens-Schönfelder, 2007)、不均質構造の時間変化の抽出には相互相関係数を用いた(Obermann et al. 2013)。それぞれの空間マッピングにはObermann et al. (2013)の手法を用いた。
結果では、DONET1とDONET2の間でも地震波速度が低下してイベント後も継続し、不均質構造はイベント中に変化してその後もとに戻るという現象が確認された。空間マッピングでは、熊野灘において、速度低下は浅部超低周波地震の分布と良い一致を示したが、その一方で、不均質構造の変化は浅部超低周波地震の分布とややずれるという結果となった(図参照)。
これらを解釈すると、不均質構造の時間変化は震源域内もしくはその周辺から上昇してきた流体の移動によるもの(Tonegawa et al. 2022)で、地震波速度の時間変化は上盤側の浅部の応力場がスロー地震によって変化したものと考えられる。つまり、不均質構造が流体の移動によって変化したのであれば(図右側)、同じ場所で速度が低下するべきだが、観測ではそのようになっていない(図左側)。また、それらの時間スケールも異なる。そのため、地震波速度の低下はスロー地震活動によって引き起こされた応力場の変化に対応していると考えられる。つまり、応力場の変化によってクラックの配向やアスペクト比、もしくは、付加体浅部のimbricate thrustに起因する亀裂の変形などが起こったと考えられる。

謝辞
DONETデータを使用しました。
Data citation DONET: doi:10.17598/NIED.0008