11:00 AM - 11:15 AM
[S06-05] Shallow crustal structure and slip tendency of bend-faults in the outer rise of the Japan Trench
沈み込んでいく海洋プレートの性質は,沈み込んだ後に海溝型巨大地震に大きく影響する.実際に,日本海溝付近では,海溝型巨大地震が発生した後に,巨大津波を引き起こすアウターライズ地震が発生した(例えば,1896年明治三陸沖地震と1933年昭和三陸沖地震).これらの地震の発生様式を解明するために,日本海溝アウターライズの浅部地殻構造を調査することは重要な課題である.そのため,東京大学大気海洋研究所の「可搬式反射法地震探査システム」を学術研究船「新青丸」に搭載し,2019年4月にKS-19-05次航海と2020年9月にKS-20-14次航海でマルチチャンネル反射法地震(Multi-channel seismic; MCS)探査を実施した.
MCSデータを処理した結果,岩手沖及び宮城沖の測線では,海底面から下方へ遠洋性堆積物・チャート・音響基盤層(玄武岩)の三つの層から成していることが確認できた.太平洋プレートが日本海溝へ沈み込む際に,プレートの折り曲げにより正断層群が発達し,明瞭なホルスト・グラーベン(地塁・地溝)構造が発達している.岩手沖及び宮城沖の両方の測線ともプチスポット火山(Hirano et al., 2006)の存在が確認されている.プチスポット火山と海溝の相対位置によって,正断層の発達パターンが異なっていることが分かった.更に,Hirano et al. (2006)のプチスポット火山Site Aが存在する岩手沖の測線では,海溝軸から海側75 kmの範囲内でチャート層の反射面が消失し,音響基盤層の最上部の反射極性が反転していることが判明した.プチスポット火山の存在によってMCS測線の音響基盤がかく乱されている現象は多数の先行研究でも報告されているが,このように広範囲で均一の反射極性反転が発見されたのは初めてである.この現象をより詳しく調べるため,同海域での他の測線の観測結果を参照する必要がある.本研究では,「新青丸」のMCSデータに加え,JAMSTECが1997年から取得したMCSデータの再処理を行い,日本海溝のアウターライズにおいて広域的な地殻構造の解釈を行っている.
日本海溝アウターライズに発達する正断層群の活動性を評価するため,Morris et al. (1996)で提唱されたSlip tendency (Ts)を利用する.Tsは各断層面に作用するせん断応力と垂直応力の比であり,Ts値が大きいほど断層は再活動し易く,地震発生のリスクも高いことが報告されている.Tsの計算方法としては,まずYamaji et al. (2006)で提唱された応力インバージョン法を利用し,2012年7月から2022年7月までの岩手沖及び宮城沖のアウターライズで発生した浅部地震の震源メカニズム解を用い断層周辺の応力場を推定する.その後,MCS深度断面図及び海底地形図を利用し断層の方位角及び傾斜角を測定することで,せん断応力と垂直応力を求め,Tsを計算した.また,断層の開口性を評価するため,Ferrill et al. (1999)で提唱されたDilation tendency (Td)を計算した.
予察的な結果として,1) 岩手沖において,他のMCS測線も「新青丸」MCS測線と同様に,広範囲に渡ってチャート層の反射面が消失する現象が確認された.2) 日本海溝アウターライズにおいて,音響基盤が不連続な部分が存在する.音響基盤が断続的にチャート層の上に偏移し,それらの反射波の周波数が低下していることが確認された.この現象は,アウターライズが隆起し始めた場所に多発している.3) 岩手沖及び宮城沖の両方とも西傾斜(海溝方向)を持つ正断層が高いTsを持つ傾向を示す.これは,この二つの地域において推定された応力場がいずれも最大主応力軸がほぼ鉛直からわずかに東に傾斜し,最小主応力軸が水平からわずかに西に傾斜していることが原因として考えられる.4) Tdの変化パターンはTsとほぼ同様に,西傾斜(海溝方向)を持つ正断層で高いTdを持つ傾向を示している.5) 高いTsと大きい断層変位と一致しないため,断層変位がそのままTsの大きさによるものではないと考えられる.
MCSデータを処理した結果,岩手沖及び宮城沖の測線では,海底面から下方へ遠洋性堆積物・チャート・音響基盤層(玄武岩)の三つの層から成していることが確認できた.太平洋プレートが日本海溝へ沈み込む際に,プレートの折り曲げにより正断層群が発達し,明瞭なホルスト・グラーベン(地塁・地溝)構造が発達している.岩手沖及び宮城沖の両方の測線ともプチスポット火山(Hirano et al., 2006)の存在が確認されている.プチスポット火山と海溝の相対位置によって,正断層の発達パターンが異なっていることが分かった.更に,Hirano et al. (2006)のプチスポット火山Site Aが存在する岩手沖の測線では,海溝軸から海側75 kmの範囲内でチャート層の反射面が消失し,音響基盤層の最上部の反射極性が反転していることが判明した.プチスポット火山の存在によってMCS測線の音響基盤がかく乱されている現象は多数の先行研究でも報告されているが,このように広範囲で均一の反射極性反転が発見されたのは初めてである.この現象をより詳しく調べるため,同海域での他の測線の観測結果を参照する必要がある.本研究では,「新青丸」のMCSデータに加え,JAMSTECが1997年から取得したMCSデータの再処理を行い,日本海溝のアウターライズにおいて広域的な地殻構造の解釈を行っている.
日本海溝アウターライズに発達する正断層群の活動性を評価するため,Morris et al. (1996)で提唱されたSlip tendency (Ts)を利用する.Tsは各断層面に作用するせん断応力と垂直応力の比であり,Ts値が大きいほど断層は再活動し易く,地震発生のリスクも高いことが報告されている.Tsの計算方法としては,まずYamaji et al. (2006)で提唱された応力インバージョン法を利用し,2012年7月から2022年7月までの岩手沖及び宮城沖のアウターライズで発生した浅部地震の震源メカニズム解を用い断層周辺の応力場を推定する.その後,MCS深度断面図及び海底地形図を利用し断層の方位角及び傾斜角を測定することで,せん断応力と垂直応力を求め,Tsを計算した.また,断層の開口性を評価するため,Ferrill et al. (1999)で提唱されたDilation tendency (Td)を計算した.
予察的な結果として,1) 岩手沖において,他のMCS測線も「新青丸」MCS測線と同様に,広範囲に渡ってチャート層の反射面が消失する現象が確認された.2) 日本海溝アウターライズにおいて,音響基盤が不連続な部分が存在する.音響基盤が断続的にチャート層の上に偏移し,それらの反射波の周波数が低下していることが確認された.この現象は,アウターライズが隆起し始めた場所に多発している.3) 岩手沖及び宮城沖の両方とも西傾斜(海溝方向)を持つ正断層が高いTsを持つ傾向を示す.これは,この二つの地域において推定された応力場がいずれも最大主応力軸がほぼ鉛直からわずかに東に傾斜し,最小主応力軸が水平からわずかに西に傾斜していることが原因として考えられる.4) Tdの変化パターンはTsとほぼ同様に,西傾斜(海溝方向)を持つ正断層で高いTdを持つ傾向を示している.5) 高いTsと大きい断層変位と一致しないため,断層変位がそのままTsの大きさによるものではないと考えられる.