11:30 〜 11:45
[S06-07] 後続波を用いた茨城県北部における地殻内反射面の推定
2011年東北地方太平洋沖地震以降,茨城県北部および福島県浜通りでは地殻内地震の活動が活発化している.これらの地域では深さ10 km以浅の活動に加えて,地殻内地震の発生深度としてはやや深い,深さ15-20 kmでも地震の発生が確認されている.また,この深さ付近ではS波反射面が存在することを指摘している[臼田・他, 2020, JpGU].
産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)では2016年6月から茨城県北部で臨時観測網を展開し,地震観測を実施している.この臨時観測網は茨城県常陸太田市・高萩市にまたがって,5 km程度の間隔で設置された7つの観測点で構成される.この臨時観測網においても,S波反射と解釈される明瞭な後続波が観測された[椎名・他, 2022, JpGU].そこで本研究ではGSJ臨時観測網および周辺の定常地震観測網において観測される地殻内地震のS波反射波を用いて,特に茨城県北部下において,地殻内部に存在するS波反射面の詳しい分布を検討した.
本研究ではまず,茨城県北部および福島県浜通り付近で発生した地震の震源位置と同地域の1次元速度構造の推定を行った.解析には,2003年から2021年に発生したマグニチュード3.5-4.5の地震767個を用い,P波およびS波の到着時刻を手動で検測した.これらの地震の発生深度は0-30 kmである.震源位置と1次元速度構造はShiina and Kano [2022, GJI]の手法により再決定した.次に,GSJ臨時観測点および周辺のHi-net観測点(N.THGH,N.KIBH/N.KI2H,N.JUOH)でS波反射波を同定し,その到達時刻を読み取った.ここでは2016年6月以降に発生した地震50個を対象とした.観測波形からS波反射波に対応する振幅増加区間を読み取り,その中央時刻をS波反射波到達時刻として扱う.この値はS波反射波の最大振幅の到達時刻におおよそ一致する. そのうえで,事前に決定した震源位置と速度構造のもと,MCMC法(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を用いてS波反射波の到達時刻を説明する反射面の分布を推定した.
結果として,深さ13 km程度を上端とし,ほぼ北落ちに30度程度の傾斜を持つ反射面が茨城県北部地域下に存在することが示唆された.このような反射面は同地域の地殻内地震活動と相補的な分布であるとともに,臼田・他 [2020]の結果におおむね整合する.臼田・他 [2020]は逆VSP解析に基づくイメージング結果から地殻内反射面の分布を解釈しているのに対し,本研究ではS波反射波の到達時刻から直接反射面の推定を行っている.したがって,本研究の結果はより精緻な地殻内反射面のモデルを与えるものであろう.また,推定した反射面は低速度[e.g., Tong et al., 2012, Solid Earth]かつ低比抵抗[Umeda et al., 2015, JGR]な領域の直上に位置する.以上から,茨城県北部地域の下部地殻付近には強い不均質構造が存在し,それがS波反射波の励起に大きく寄与していることが推察される.
謝辞: 本研究では気象庁一元化震源カタログおよび防災科学技術研究所Hi-netの観測波形データを使用しました.また,本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト) [JPJ010217]ならびにJST CREST [JPMJCR1763]の支援をいただきました.記して感謝申し上げます.
産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)では2016年6月から茨城県北部で臨時観測網を展開し,地震観測を実施している.この臨時観測網は茨城県常陸太田市・高萩市にまたがって,5 km程度の間隔で設置された7つの観測点で構成される.この臨時観測網においても,S波反射と解釈される明瞭な後続波が観測された[椎名・他, 2022, JpGU].そこで本研究ではGSJ臨時観測網および周辺の定常地震観測網において観測される地殻内地震のS波反射波を用いて,特に茨城県北部下において,地殻内部に存在するS波反射面の詳しい分布を検討した.
本研究ではまず,茨城県北部および福島県浜通り付近で発生した地震の震源位置と同地域の1次元速度構造の推定を行った.解析には,2003年から2021年に発生したマグニチュード3.5-4.5の地震767個を用い,P波およびS波の到着時刻を手動で検測した.これらの地震の発生深度は0-30 kmである.震源位置と1次元速度構造はShiina and Kano [2022, GJI]の手法により再決定した.次に,GSJ臨時観測点および周辺のHi-net観測点(N.THGH,N.KIBH/N.KI2H,N.JUOH)でS波反射波を同定し,その到達時刻を読み取った.ここでは2016年6月以降に発生した地震50個を対象とした.観測波形からS波反射波に対応する振幅増加区間を読み取り,その中央時刻をS波反射波到達時刻として扱う.この値はS波反射波の最大振幅の到達時刻におおよそ一致する. そのうえで,事前に決定した震源位置と速度構造のもと,MCMC法(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を用いてS波反射波の到達時刻を説明する反射面の分布を推定した.
結果として,深さ13 km程度を上端とし,ほぼ北落ちに30度程度の傾斜を持つ反射面が茨城県北部地域下に存在することが示唆された.このような反射面は同地域の地殻内地震活動と相補的な分布であるとともに,臼田・他 [2020]の結果におおむね整合する.臼田・他 [2020]は逆VSP解析に基づくイメージング結果から地殻内反射面の分布を解釈しているのに対し,本研究ではS波反射波の到達時刻から直接反射面の推定を行っている.したがって,本研究の結果はより精緻な地殻内反射面のモデルを与えるものであろう.また,推定した反射面は低速度[e.g., Tong et al., 2012, Solid Earth]かつ低比抵抗[Umeda et al., 2015, JGR]な領域の直上に位置する.以上から,茨城県北部地域の下部地殻付近には強い不均質構造が存在し,それがS波反射波の励起に大きく寄与していることが推察される.
謝辞: 本研究では気象庁一元化震源カタログおよび防災科学技術研究所Hi-netの観測波形データを使用しました.また,本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト) [JPJ010217]ならびにJST CREST [JPMJCR1763]の支援をいただきました.記して感謝申し上げます.