4:15 PM - 4:30 PM
[S06-10] Detailed structure of the uppermost part of the Philippine Sea Plate beneath the Kii Peninsula
はじめに
紀伊半島は南海トラフ沿いで発生する海溝型巨大地震の震源モデルを検討する上で極めて重要な地域である.Shiomi & Park (2008, doi: 10.1029/2007JB005535) は,紀伊半島内の防災科研Hi-net/F-net各観測点で得られたレシーバ関数 (RF) のスタックから,フィリピン海プレート内海洋モホ面の位置や傾斜方向を推定し,スラブ内で発生する地震活動やテクトニック微動活動との関係を議論した.その後,様々な機関による観測データの蓄積も進み,解析に使用できる遠地地震データが格段に増加した.本研究では,紀伊半島内に設置された各機関の観測点で得られたRFにHarmonic Decomposition解析法 (HD法.e.g., Bianchi et al., 2010, doi: 10.1029/2009JB007061) を適用することにより,観測点下の海洋モホ面の傾斜方向分布をより高精度かつ高密度に把握するとともに,海洋地殻相当深さ付近における異方性構造を推定し,その特徴について検討を行った.
データ・解析方法
解析には,紀伊半島及びその周辺に設置された防災科研Hi-net/F-netに加え,大学,気象庁,産業技術総合研究所の地震計並びに国土交通省による振動センサーで収録された遠地地震 (M≥5.8) による波形記録を用いた.自動あるいは目視によりS/Nの悪い波形を除去したのち,観測波形に1.0 Hzの低域通過フィルタを適用し,RFを推定した.各観測点で得られたRFから顕著な正の振幅を有する変換波を抽出し,Matsubara et al. (2019, doi: 10.5772/intechopen.86936) による地震波速度構造に基づき,この変換波が励起された速度不連続面の深さを求めた.解析対象とした地震波速度不連続面は太平洋岸から内陸部に向かって深くなる傾向が見えることから,フィリピン海プレート内海洋モホ面と判断した.変換面の深さ分布は,既存のモデル (e.g., Shiomi et al., 2008, doi: 10.1111/j.1365-246X.2008.03786.x) と矛盾しない.次に各観測点で求めた海洋モホ面深さを対象としてHD法を適用し,調和成分の抽出を行った.この際,各観測点で得られたRFに対して500回のブートストラップ抽出を行い,その結果から平均値ならびに標準偏差σを求めた.各抽出に対するHD法の結果において,非モデル成分のRMS振幅がモデル成分のRMS振幅よりも大きい場合,その結果は不採択とした.500回の抽出を経ても200回の採択結果が得られない観測点及び200回の採択が得られても±2σが45度を超える観測点は「結果不安定」とした.なお,モホ面傾斜方向の推定には調和成分の1次項 (k = 1) の−0.2~0.2秒,海洋地殻相当層の異方性の特徴推定には2次項 (k = 2) の−0.7~−0.3秒を対象とした粒子軌跡の主軸方位を用いた.
結果
海洋モホ面傾斜分布から,紀伊半島は大きく以下の4つの領域に分割可能であった:①北東傾斜を示す和歌山県南部~三重県南部地域.②北傾斜を示す和歌山県北部~奈良県南部地域.③北西傾斜を示す三重県中部~奈良県北部地域.④結果不安定な観測点が集まる三重県北部地域.領域①のうち,和歌山・三重県境付近に位置するE.KTUでは北西傾斜,E.HGUでは南東傾斜と,周辺とは異なる方位を示した.この2点を結ぶ直線の北西延長部には深部微動のギャップが位置するほか,スラブ内地震活動度が変化する場所とも対応しており,何らかの微細な構造的特徴を検出した可能性がある.一方,領域①の北端部は和歌山県内で発生する深部微動域の南端と一致するが,領域③では深部微動活動域とそれ以外で傾向の変化は見られない.領域④では近接する5観測点で結果不安定となったが,Shiomi et al.(2008)を見ると,この地域のスラブの等深線間隔はやや広く,スラブがほぼ平坦になっている可能性が考えられる.海洋地殻相当層の異方性構造は,深部微動域よりトラフ軸側では概ねスラブ等深線と平行に速い軸が分布する.深部微動域直下からdown-dip側を見ると,三重県北部~奈良県北部では引き続き北東-南西方向に速い軸を持つ分布が見られるが,奈良県南部~和歌山県北部では南北方向を中心に,結果がばらつく傾向にある.プレートが湾曲している影響を受けている可能性も考えられるが,速い軸の方位がばらつく領域はスラブ内地震の活動域が海洋地殻から海洋マントル内に遷移する領域と概ね対応しており,スラブ内の鉱物の組成変化を捉えている可能性もある.
謝辞:本研究を実施するにあたって,気象庁,東大地震研,京大防災研,産総研,国土交通省による観測データを使用いたしました.記して感謝致します.
紀伊半島は南海トラフ沿いで発生する海溝型巨大地震の震源モデルを検討する上で極めて重要な地域である.Shiomi & Park (2008, doi: 10.1029/2007JB005535) は,紀伊半島内の防災科研Hi-net/F-net各観測点で得られたレシーバ関数 (RF) のスタックから,フィリピン海プレート内海洋モホ面の位置や傾斜方向を推定し,スラブ内で発生する地震活動やテクトニック微動活動との関係を議論した.その後,様々な機関による観測データの蓄積も進み,解析に使用できる遠地地震データが格段に増加した.本研究では,紀伊半島内に設置された各機関の観測点で得られたRFにHarmonic Decomposition解析法 (HD法.e.g., Bianchi et al., 2010, doi: 10.1029/2009JB007061) を適用することにより,観測点下の海洋モホ面の傾斜方向分布をより高精度かつ高密度に把握するとともに,海洋地殻相当深さ付近における異方性構造を推定し,その特徴について検討を行った.
データ・解析方法
解析には,紀伊半島及びその周辺に設置された防災科研Hi-net/F-netに加え,大学,気象庁,産業技術総合研究所の地震計並びに国土交通省による振動センサーで収録された遠地地震 (M≥5.8) による波形記録を用いた.自動あるいは目視によりS/Nの悪い波形を除去したのち,観測波形に1.0 Hzの低域通過フィルタを適用し,RFを推定した.各観測点で得られたRFから顕著な正の振幅を有する変換波を抽出し,Matsubara et al. (2019, doi: 10.5772/intechopen.86936) による地震波速度構造に基づき,この変換波が励起された速度不連続面の深さを求めた.解析対象とした地震波速度不連続面は太平洋岸から内陸部に向かって深くなる傾向が見えることから,フィリピン海プレート内海洋モホ面と判断した.変換面の深さ分布は,既存のモデル (e.g., Shiomi et al., 2008, doi: 10.1111/j.1365-246X.2008.03786.x) と矛盾しない.次に各観測点で求めた海洋モホ面深さを対象としてHD法を適用し,調和成分の抽出を行った.この際,各観測点で得られたRFに対して500回のブートストラップ抽出を行い,その結果から平均値ならびに標準偏差σを求めた.各抽出に対するHD法の結果において,非モデル成分のRMS振幅がモデル成分のRMS振幅よりも大きい場合,その結果は不採択とした.500回の抽出を経ても200回の採択結果が得られない観測点及び200回の採択が得られても±2σが45度を超える観測点は「結果不安定」とした.なお,モホ面傾斜方向の推定には調和成分の1次項 (k = 1) の−0.2~0.2秒,海洋地殻相当層の異方性の特徴推定には2次項 (k = 2) の−0.7~−0.3秒を対象とした粒子軌跡の主軸方位を用いた.
結果
海洋モホ面傾斜分布から,紀伊半島は大きく以下の4つの領域に分割可能であった:①北東傾斜を示す和歌山県南部~三重県南部地域.②北傾斜を示す和歌山県北部~奈良県南部地域.③北西傾斜を示す三重県中部~奈良県北部地域.④結果不安定な観測点が集まる三重県北部地域.領域①のうち,和歌山・三重県境付近に位置するE.KTUでは北西傾斜,E.HGUでは南東傾斜と,周辺とは異なる方位を示した.この2点を結ぶ直線の北西延長部には深部微動のギャップが位置するほか,スラブ内地震活動度が変化する場所とも対応しており,何らかの微細な構造的特徴を検出した可能性がある.一方,領域①の北端部は和歌山県内で発生する深部微動域の南端と一致するが,領域③では深部微動活動域とそれ以外で傾向の変化は見られない.領域④では近接する5観測点で結果不安定となったが,Shiomi et al.(2008)を見ると,この地域のスラブの等深線間隔はやや広く,スラブがほぼ平坦になっている可能性が考えられる.海洋地殻相当層の異方性構造は,深部微動域よりトラフ軸側では概ねスラブ等深線と平行に速い軸が分布する.深部微動域直下からdown-dip側を見ると,三重県北部~奈良県北部では引き続き北東-南西方向に速い軸を持つ分布が見られるが,奈良県南部~和歌山県北部では南北方向を中心に,結果がばらつく傾向にある.プレートが湾曲している影響を受けている可能性も考えられるが,速い軸の方位がばらつく領域はスラブ内地震の活動域が海洋地殻から海洋マントル内に遷移する領域と概ね対応しており,スラブ内の鉱物の組成変化を捉えている可能性もある.
謝辞:本研究を実施するにあたって,気象庁,東大地震研,京大防災研,産総研,国土交通省による観測データを使用いたしました.記して感謝致します.