日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06] PM-2

2022年10月24日(月) 16:00 〜 17:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:利根川 貴志(海洋研究開発機構)

16:45 〜 17:00

[S06-12] 屈折法地震波探査による鬼界カルデラ地下の地震波速度構造の推定

*長屋 暁大1、藤江 剛2、小平 秀一2、田中 聡2、山本 揚二朗2、杉岡 裕子4,1、宮町 宏樹3、松野 哲男4、大塚 宏徳4、鈴木 啓太4,5、島 伸和1,4 (1. 神戸大学大学院 理学研究科 惑星学専攻、2. 海洋研究開発機構、3. 鹿児島大学大学院 理工学研究科、4. 神戸大学 海洋底探査センター、5. 日本海洋事業株式会社)

鬼界カルデラは鹿児島県薩摩半島の南部約60 kmに位置する海底火山であり、過去に噴火を繰り返してきた.その中でも最も直近の噴火である鬼界-アカホヤ噴火は7300年前に発生した日本列島で最も新しい巨大なカルデラ噴火である.2016年~2017年に神戸大学「深江丸」によって行われた探査航海により、二重のカルデラ構造や、熱水活動などが明らかになり、カルデラ噴火以降に成長した溶岩ドームの下にマグマ溜まりの存在が示唆されている(Tatsumi et al., 2018).また、火山ガスやメルト包有物の研究(Kazahaya et al., 2002)によって、地下のマグマ溜まりのモデルが提案されている.一方で、そのモデルを検証できるような地震波速度構造は、これまで推定されていなかった.

そこで、2021年7月19日~8月1日に海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」を用いたKM21-05航海では屈折法地震探査が実施された.本研究では、探査によって得られたOBSデータに初動走時トモグラフィー解析(Fujie et al., 2006, 2013)を適用し、鬼界カルデラ地下の二次元P波速度構造を推定した.初動走時トモグラフィー解析には、38台の海底地震計(OBS)の鉛直成分のデータから読み取った約12,200個の初動走時を使用した.

初動走時トモグラフィー解析の結果、鬼界カルデラを東北東-西南西方向に横切る測線直下のP波速度構造が得られた.鬼界カルデラ周辺には速度構造の特徴が異なる四つの構造が見られた.一つ目はカルデラ壁両側近傍(測線西端からの距離40 km~80 km、105 km~115 km)直下で、P波速度5.5 km/sの等値線が深さ3 km~4 kmまで盛り上がっている構造である.二つ目は測線西部(測線西端からの距離0 km~25 km)直下で、 深さわずか4 kmで P波速度が6 km/sに達する大きい速度勾配である.三つ目は測線東部(測線西端からの距離115 km~175 km)直下、深さ約2 kmにおいて5 km/s であるP波速度が深さ約7 kmで5.5 km/sまで増加する、緩やかな速度勾配である.上述した三つの構造は、本研究の測線と交差するECr11測線(Nishizawa et al. 2019)の地震波速度構造にも見られた.特筆すべきは四つ目の構造である.鬼界カルデラ(測線西端からの距離80 km~100 km)直下の深さ3 kmから8 kmにおけるP波速度は、周囲より0.5 km/s~1 km/s遅く、その水平方向の広がりは約25 kmに達する.この構造はECr11測線の速度構造には見られず、この火山特有の構造を反映していると考えられる.これらの特徴は複数の初期構造を与え、初動走時トモグラフィー解析を行った場合でも、同様の構造が再現された.また、チェッカーボード解像度テストによって、最終的な速度構造の空間分解能の評価を行い、深さ10 kmまでは水平方向15 km、垂直方向5 kmの空間分解能があり、深さ5 kmまでは水平方向7.5 km、垂直方向2.5 kmの空間分解能があることを確認した.以上のように、構造的特徴の再現性、空間分解能の評価から、鬼界カルデラ直下の深さ約3 km~8 kmには、周囲よりも5 %~10 %地震波速度が遅い領域が存在することが明らかになった.