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[S06P-01] Estimation of S-wave seismic velocity structure by using OBS data around the Nankai Trough
海域地震の震源位置決定、海域で発生する地震による地震動の予測や地震発生シミュレーションの精度及び信頼性の向上のためには、海底下のP波速度(Vp)だけでなくS波速度(Vs)の情報が必要不可欠である。南海トラフ巨大地震震源域における地震・津波ハザード評価の実現には喫緊の課題であり、特に、高精度震源決定のためのDONET観測点の堆積層補正や、長周期地震動予測のためには海洋堆積層のVs構造を精度良く推定する必要がある。しかし、現時点では、地震探査においてS波を射出可能な制御震源の活用が困難であり、海域におけるVs構造の詳細な把握の事例は限られている(例えばTakahashi et al., 2002)。 本研究では、P波からS波に変換されたPS変換波や常時微動を利用した解析など、主にS波に着目した手法を用いて、南海トラフ域の海洋堆積層におけるVs構造を推定することを試みた。 まず、2018年に紀伊水道域で実施された稠密OBS(自己浮上式海底地震計)を用いた地震探査データにレシーバ関数解析を適用し、堆積層内におけるPS変換波を抽出し、反射法地震探査断面でイメージングされているP波反射面分布との相関から変換面・反射面を同定した。その結果、比較的陸域に近い水深1500m~2000m程度の海域では、海底下500m程度までの浅層のVp/Vsが4~5程度と推定された。 一方で、2011年に紀伊半島沖で実施されたOBSを用いた地震探査と地震観測期間中にOBSで記録された常時微動データを用いた地震波干渉法解析により、2次元の地震探査測線下のVs構造推定も試みた(Liuほか、JpGU2022, SEG/AGU Geophysics of Convergent Margins Workshop2022)。その結果、海底下500−1000m程度までの浅層のVsの平均値は400-600m/s程度だが、地質構造などに対応した不均質性もみられることがわかってきた。本発表では、上記の結果とともに、反射法地震探査から得られる堆積層の詳細なVp情報を用いたVp/Vsの推定、レシーバ関数解析の適用およびその結果との比較に基づき、より信頼できるVs構造推定について報告する。 現在、経験式(例えば、Brocher, 2005)に基づいて設計した変換式によって、既存の3次元Vp構造から3次元Vs構造モデルの構築が進行中であるが、本研究の成果は、この3次元Vs構造の検証や改善にも活用していく。なお、本研究は、JSPS科研費JP19H01982の助成を受けたものである。また、文部科学省による科学技術試験研究委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環としても実施している