日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] AM-1

2022年10月26日(水) 09:45 〜 11:00 D会場 (5階(520研修室))

座長:古屋 正人(北海道大学)、久家 慶子(京都大学)

09:45 〜 10:00

[S07-01] マルチモード表面波とレシーバ関数を用いた豪州大陸下の上部マントル不連続面

*垂水 洸太郎1、吉澤 和範1,2 (1. 北海道大学理学院、2. 北海道大学大学院理学研究院)

上部マントル内部の地震学的不連続面,特にリソスフェア−アセノスフェア境界(LAB: Lithosphere-Asthenosphere Boundary)やリソスフェア内不連続面(MLD: Mid-Lithosphere Discontinuity)は,プレートの進化や水平移動の過程を探る上での重要な情報である.近年,世界各地の広帯域地震計を用いた表面波トモグラフィーや実体波レシーバ関数解析により,豪州や北米等の大陸域での3次元異方的S波速度構造や不連続面の空間分布が明らかになりつつある(Yoshizawa & Kennett, 2015, GRL; Calo, et al., 2016, EPSL; Birkey et al, 2021, JGR).特にマントル内部の境界面の推定には,境界面での変換波を含むレシーバ関数と,S波速度や異方性の3次元分布を推定できる表面波の情報を組み合わせた同時解析が有効である(e.g., Taira & Yoshizawa, 2020,GJI).しかし,マントル深部に感度を有するマルチモード表面波とレシーバ関数との同時インバージョンの手法は,広範な大陸域にはまだ十分に応用されていない.本研究では,マルチモード表面波の位相速度と,P波レシーバ関数とを同時に用いた非線形インバージョンを通じ,大陸下の上部マントル内の異方的S波速度構造を推定する.特に,大陸マントル内の不連続面の空間マッピングに向けて,観測点毎の速度構造と検出された不連続面について検証を行う.インバージョン手法には,trans-dimensional hierarchical Bayesian inversion法を用いる.この方法では,層構造モデルのパラメータ数(層数)も未知変数として扱うことができ,データに合わせて層数が変化する.さらに,各データの誤差も変数として扱うことで,異種データ間の重みも適切に調整される.レシーバ関数は震央距離に応じたmoveout補正を加えてスタックしたものを用いる.また表面波の分散曲線は,Yoshizawa (2014, PEPI)によるマルチモードの位相速度分散曲線を使用する.なお,レシーバ関数と表面波位相速度のフォーワード計算には,それぞれThomson & Haskell法とMINEOS (Masters et al., 2011)を用いる.この手法を豪州東部と西部の定常観測点(CTAO,MBWA)へ適用し,SV波およびSH波速度の1次元構造モデルを推定した.大陸東部のCTAO観測点では,顕生代の造山帯に特徴的な浅いLAB(SV波速度の低下に伴う境界面,深さ約70 km)が推定された.一方,大陸西部のMBWA観測点では,太古代のクラトン域特有の厚いリソスフェアに対応する高速度異常と,深さ140 km付近で急激な速度低下を伴うLABが検出された.より深部(約180 km)では,更なる速度低下を伴う境界面もみられた.このような,LAB付近でのステップ状の速度低下の一因として,約6-7cm/年で高速に水平移動する豪州大陸のクラトン直下での水平流動に伴うBasal Dragの影響(クラトン底面の浸食)が考えられる.より深部では,CTAOで約 240 km,MBWAで約280km付近の深さに,SV波速度の上昇を伴う不連続面が見られ,これらはLehmann面(アセノスフェアの底面)を示すものと考えられる.今後,本手法を多数の定常および臨時観測点へ適用することで,大陸マントル内の不連続面の空間分布や鉛直異方性との関連性を明らかにできると期待できる.