日本地震学会2022年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] AM-2

2022年10月25日(火) 11:45 〜 12:30 A会場 (1階(かでるホール))

座長:藤 亜希子(東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻)

12:00 〜 12:15

[S08-02] 石川県能登半島北東部の群発地震:マグマ活動に起因する構造と流体供給

*吉田 圭佑1、宇野 正起2、松澤 暢1、行竹 洋平3、椋平 祐輔4、佐藤 比呂志3、吉田 武義1 (1. 東北大学大学院 理学研究科、2. 東北大学大学院 環境科学研究科、3. 東京大学 地震研究所、4. 東北大学 流体科学研究所)

日本列島能登半島北東部において,現在,非常に活発な群発地震活動が発生している。地殻内における群発地震の発生には,しばしば火山活動に関係する流体移動が関わっていることが示唆されているが,この地域は現在は非火山地域である。本研究では,この群発地震活動の発生原因を調べる目的で,震源の時空間変化と地震波反射面を調べた。

震源の再決定の結果,震源域にみられる 4つの地震クラスターの各々において,地震の震源が多数の面構造を用いて深部から浅部へ移動していく特徴が見られた。この特徴は,注水時の誘発地震活動や流体に関係する自然の群発地震活動 (e.g., Yoshida & Hasegawa, 2018)と酷似している。S波反射面は,この地震活動開始地点付近,震源域の中で局所的に深い場所に検出された。Nakajima & Hasegawa (2007)による地震波速度トモグラフィー結果によると,この反射面の直下にマントルに続く S波の低速度域が存在する。このS波低速度域が一連の活動を生じさせた流体の供給源になっていることを示唆する。

この地震活動開始地点付近の震源分布は,特徴的な環状構造を呈し,陥没カルデラを伴うマグマだまり直上に生じる環状岩脈に類似してみえる。現在,この地域には火山活動は見られない。しかしながら,中期中新世の日本海拡大期においては,この地域には活発な火山活動が生じている。また,この周辺では,現在も周辺に温泉が分布しており,高いヘリウム同位体比 (3He/4He)も観測されている (Umeda et al., 2009)。過去のカルデラ火山活動の際に形成され現在も高い含水量を維持し続けている固化したマグマだまりが震源域深部に存在している可能性が考えられる。もしくは,同じマグマ供給系を使用して,現在の沈み込みに関係したマグマ活動が地下で進行している可能性もあるかもしれない。中期中新世あるいはあるいは現在のマグマ活動により深部からもたらされた流体が,中期中新世以降の海成層に埋もれた陥没カルデラ深部の環状岩脈に関係した裂罅を用いて上昇することにより,一連の地震が発生しだしたことを表している可能性がある。

この地震活動中には,地震活動だけでは説明できない顕著な地殻変動が観測されており (Nishimura et al., 2022),これが地震の発生原因となっている流体の供給とも関係している可能性が考えられる。例えば,地震活動域中心部には地震の空白域がみられるが,そこで流体圧増加に起因する非地震性すべりや断層開口が生じたことを表すのかもしれない。実際に,そのような地殻変動が,最近,箱根の群発地震活動についても報告されている (Yukutake et al., 2022)。本研究の結果は,現在では非火山地域となっている能登半島北東部においても,中新世のリフト活動に伴うカルデラ火山活動や,現在の沈み込みに伴うマグマ活動に関係する流体が,地震活動および地殻変動を生じさせていることを示唆する。