2:15 PM - 2:30 PM
[S08-05] Stress Drop of Small Earthquakes in the Southeastern Kanto Region
1. 目的と解析対象地震
関東地方南東部では、南からフィリピン海プレートが沈み込み、さらにその下には東から太平洋プレートが沈み込んでいる。これに関連して複雑な地震活動が見られ、千葉市や旭市、古河市などに地震活動が密集した地域(以後、クラスターと称す)が存在する(図1a)。本研究では、2003年から2020年の間に関東地方南東部で発生した4.0 <= Mw <= 5.0の311個の地震を対象に応力降下量解析を行い、クラスターごとの特徴や地震の深さとの関係を考察した。解析した地震の最大深度は112.5 kmである。
2. 解析手法
防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)の速度波形を利用し、Yamada et al. (2021) の手法を用いて解析を行った。手法の詳細は、以下の通りである。解析対象の4.0 <= Mw <= 5.0の地震に最も近接するMw3.5の地震波形をEGF波形とし、まず、解析対象地震の波形およびEGF波形それぞれのスペクトルを算出した。次に、解析地震波形のスペクトルをEGF波形のスペクトルで割ることにより(デコンボリューション)、地震波の経路の影響、観測点近傍の地盤の影響、地震計特性を除去して、解析地震とEGF地震の周波数領域における震源特性の比を求めた。さらに、Boatwright (1978) のオメガ2乗のスペクトル式を用いてコーナー周波数を推定した。最後に、破壊伝播速度をS波の90%と仮定して、Madariaga (1976) のモデルから、応力降下量の値を得た。
3. 結果と考察
図1(b)は、本研究で得られた応力降下量の解析結果である。まず、クラスター間の違いについて考察する。解析地震の密集域を、図1(b)中の四角い枠に対応する6区域に分け、区域間の応力降下量の差についてWelchのt検定(危険率5%)を行った。その結果、茨城県西部クラスター(赤)は、ほぼ同一深度で発生した旭市付近のクラスター(青)に比べて応力降下量が大きく、この差は統計的に有意であった。前者はToda et al. (2008) で存在が示唆された「関東フラグメント」もしくはフィリピン海プレート上面、後者は太平洋プレート上面で発生した地震と考えられる。応力降下量は主として剪断強度の大きさの指標となるため(Yamada et al., 2021)、上記2地域における相違は、フィリピン海プレート上面の剪断強度が、太平洋プレート上面のそれに比べて大きいことを示唆していると考えられる。
次に、各クラスター内の応力降下量空間分布について検討した。茨城県西部のクラスター(図1bの赤枠内)では北端と南端部に近い地震、また千葉市付近のクラスター(橙)では、より深い地震ほど応力降下量が大きい傾向が見られた。この傾向を定量的に調べるため、クラスター中央からの距離あるいは震源の深さの関数として、応力降下量を図示した(図 2)。
茨城県西部のクラスターでは、クラスター中央からの距離が異なるドーナツ型領域内で発生した地震の応力降下量と個数から平均応力降下量を算出した。ドーナツ型領域の幅を1 kmに固定したまま、半径を0.5 kmずつ拡大して平均応力降下量の推移を調べた。千葉市周辺のクラスターでは、気象庁の震源の深さ決定精度を考慮して深さの幅4 kmの領域を設定し、下方に1 kmずつずらしながら平均応力降下量の推移を調べた。図2aに示した茨城県西部のクラスター(図2a)では、図1で見られる傾向どおり、クラスター辺縁部の地震ほど応力降下量が大きいことがわかる。千葉市周辺(図2b)では、応力降下量は深さとともに増加していることがわかる。ただし、地震ごとの応力降下量値のばらつきが大きいことにも注意が必要である。クラスターの縁辺部では剪断強度が大きいためにその外側で地震が発生しづらいと考えられ、これは本研究で得られた応力降下量の空間分布と矛盾しない。また、断層の垂直応力が深さの関数となることを考えると、応力降下量に深さ依存性があることは自然であるが、依存性の有無については様々な報告があり、議論の余地がある(たとえば、Abercrombie et al., 2021)。今後は、応力降下量を深さで規格化した上で、深さ依存性やクラスター内の応力降下量分布について詳細な検討を行う予定である。
参考文献
・Abercrombie et al. (2021), https://doi.org/10.1029/2021JB022314
・Boatwright (1978), https://doi.org/10.1785/BSSA0680041117
・Madariaga (1976), https://doi.org/10.1785/BSSA0660030639
・Toda et al. (2008), https://doi.org/10.1038/ngeo318
・Yamada et al. (2021), https://doi.org/10.1186/s40623-020-01326-8
関東地方南東部では、南からフィリピン海プレートが沈み込み、さらにその下には東から太平洋プレートが沈み込んでいる。これに関連して複雑な地震活動が見られ、千葉市や旭市、古河市などに地震活動が密集した地域(以後、クラスターと称す)が存在する(図1a)。本研究では、2003年から2020年の間に関東地方南東部で発生した4.0 <= Mw <= 5.0の311個の地震を対象に応力降下量解析を行い、クラスターごとの特徴や地震の深さとの関係を考察した。解析した地震の最大深度は112.5 kmである。
2. 解析手法
防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)の速度波形を利用し、Yamada et al. (2021) の手法を用いて解析を行った。手法の詳細は、以下の通りである。解析対象の4.0 <= Mw <= 5.0の地震に最も近接するMw3.5の地震波形をEGF波形とし、まず、解析対象地震の波形およびEGF波形それぞれのスペクトルを算出した。次に、解析地震波形のスペクトルをEGF波形のスペクトルで割ることにより(デコンボリューション)、地震波の経路の影響、観測点近傍の地盤の影響、地震計特性を除去して、解析地震とEGF地震の周波数領域における震源特性の比を求めた。さらに、Boatwright (1978) のオメガ2乗のスペクトル式を用いてコーナー周波数を推定した。最後に、破壊伝播速度をS波の90%と仮定して、Madariaga (1976) のモデルから、応力降下量の値を得た。
3. 結果と考察
図1(b)は、本研究で得られた応力降下量の解析結果である。まず、クラスター間の違いについて考察する。解析地震の密集域を、図1(b)中の四角い枠に対応する6区域に分け、区域間の応力降下量の差についてWelchのt検定(危険率5%)を行った。その結果、茨城県西部クラスター(赤)は、ほぼ同一深度で発生した旭市付近のクラスター(青)に比べて応力降下量が大きく、この差は統計的に有意であった。前者はToda et al. (2008) で存在が示唆された「関東フラグメント」もしくはフィリピン海プレート上面、後者は太平洋プレート上面で発生した地震と考えられる。応力降下量は主として剪断強度の大きさの指標となるため(Yamada et al., 2021)、上記2地域における相違は、フィリピン海プレート上面の剪断強度が、太平洋プレート上面のそれに比べて大きいことを示唆していると考えられる。
次に、各クラスター内の応力降下量空間分布について検討した。茨城県西部のクラスター(図1bの赤枠内)では北端と南端部に近い地震、また千葉市付近のクラスター(橙)では、より深い地震ほど応力降下量が大きい傾向が見られた。この傾向を定量的に調べるため、クラスター中央からの距離あるいは震源の深さの関数として、応力降下量を図示した(図 2)。
茨城県西部のクラスターでは、クラスター中央からの距離が異なるドーナツ型領域内で発生した地震の応力降下量と個数から平均応力降下量を算出した。ドーナツ型領域の幅を1 kmに固定したまま、半径を0.5 kmずつ拡大して平均応力降下量の推移を調べた。千葉市周辺のクラスターでは、気象庁の震源の深さ決定精度を考慮して深さの幅4 kmの領域を設定し、下方に1 kmずつずらしながら平均応力降下量の推移を調べた。図2aに示した茨城県西部のクラスター(図2a)では、図1で見られる傾向どおり、クラスター辺縁部の地震ほど応力降下量が大きいことがわかる。千葉市周辺(図2b)では、応力降下量は深さとともに増加していることがわかる。ただし、地震ごとの応力降下量値のばらつきが大きいことにも注意が必要である。クラスターの縁辺部では剪断強度が大きいためにその外側で地震が発生しづらいと考えられ、これは本研究で得られた応力降下量の空間分布と矛盾しない。また、断層の垂直応力が深さの関数となることを考えると、応力降下量に深さ依存性があることは自然であるが、依存性の有無については様々な報告があり、議論の余地がある(たとえば、Abercrombie et al., 2021)。今後は、応力降下量を深さで規格化した上で、深さ依存性やクラスター内の応力降下量分布について詳細な検討を行う予定である。
参考文献
・Abercrombie et al. (2021), https://doi.org/10.1029/2021JB022314
・Boatwright (1978), https://doi.org/10.1785/BSSA0680041117
・Madariaga (1976), https://doi.org/10.1785/BSSA0660030639
・Toda et al. (2008), https://doi.org/10.1038/ngeo318
・Yamada et al. (2021), https://doi.org/10.1186/s40623-020-01326-8