17:15 〜 17:30
[S08-15] 広域応力場からWallace‐Bott仮説を用いて断層すべり角を推定する手法の検証-微小地震発震機構解カタログを対象に-
活断層調査に基づき将来発生する地震の現実的な強震動・津波予測には、入力データとなる断層形状や断層すべり角(ずれの向き)、断層すべり量などが実際に発生する地震のそれらと乖離しない事が求められる。近年,すべり方向が断層面に働くトラクションの剪断成分の方向に一致するとの考え方(Wallace-Bott仮説)に基づき、活断層調査から得られた断層形状と地震データから推定された広域応力場の情報から断層すべり角が推定され、強震動・津波予測に活用されている(例えば、日本海における大規模地震に関する調査検討会,2014;武田・他,2014;Satake et al., 2022)。しかしながら、上記手法の妥当性の検証ならびに精度(誤差)について、十分な検討が行われていなかった。また一般に、活断層で発生する固有地震規模の地震の平均再来間隔は数千年から数万年のオーダーと推定されており、10年程度の地震学データから推定された広域応力場を、長期間のテクトニックな応力場のプロキシとして用いる事ができるのか、検討する必要があった。
上記の背景から、Ishibe et al. (2020) ではその手始めとして、防災科学技術研究所によるF-netメカニズム解等を対象に、広域的三次元応力場を用いWallace-Bott仮説から断層すべり角を推定する手法の有効性の検証ならびにその精度に関する検討を行った。その結果、東北日本内陸において2011年東北地方太平洋沖地震後に活発化した群発的活動などでWallace-Bott仮説から推定されるすべり角と実際に発生した地震のすべり角の間に乖離がみられる地震もあったが、これら一部の地震を除き、推定されたすべり角とF-netメカニズム解におけるすべり角のミスフィット角は概ね30°以内に収まり整合的であった。また、地震調査研究推進本部によって評価されている活断層(帯)を対象に、変動地形学的に推定された断層のずれの向きと種類(型)と、広域的三次元応力場ならびにWallace-Bott仮説から推定される断層型が概ね整合的であることを確認した(石辺・他,2020)。
近年、深層学習を用いた初動読み取りに基づく微小地震の発震機構解カタログが構築・公開された(Uchide, 2020)。そこで本研究では、より小規模の地震に対する検証ならびにその規模依存性の検討を目的として、Uchide (2020) によって推定された微小地震に対する発震機構解を対象に上記手法を適用した。カタログ期間は2005~2019年であり、F-netメカニズム解と同様に2011年東北地方太平洋沖地震の発生を跨ぐため、その前後の期間に分けて解析を行い、推定精度の高いランクAまたはBの発震機構解を用いた。
推定された発震機構解における断層すべり角と広域応力場からWallace-Bott仮説に基づき算出された断層すべり角とのミスフィット角を算出した結果、先行研究と同様に概ね30°以内に収まり整合的であった。ただし、紀伊半島南部から四国南部、宮崎県東部に沿った領域において比較的ミスフィット角が大きな領域が見られた。また2007年能登半島地震や2008年岩手・宮城内陸地震の余震活動に対しても広域応力場から算出される断層すべり角には乖離が見られた。前者は推定された三次元広域応力場が沈み込むプレートに伴う地震活動による影響を含む可能性が、後者は大地震発生に伴う応力変化の影響を含む可能性が考えられる。一方で、東北沖地震後の期間においてはF-netメカニズム解を用いた解析と同様に、その震源域ならびに近傍領域において顕著に大きなミスフィット角が見られたが、震源域から離れた西南日本などでは2016年熊本地震の震源域などを除き概ね調和的であった。微小地震に対する発震機構解を用いたミスフィット角は、F-netメカニズム解を用いたそれらと比べやや大きい傾向が見られ、また小規模地震に対する発震機構解ほどミスフィット角が大きい規模依存性を示す結果となった。一般に微小地震に対する発震機構解の精度は中~大規模地震に対するそれらと比べ低い傾向にあること、あるいは初動発震機構解とモーメントテンソル解の相違を反映している可能性を否定できないが、小規模地震はTerakawa and Matsu’ura (2010)で推定された三次元広域応力場の空間的解像度よりも小スケールの応力不均質を反映して発生している可能性がある。本研究で得られた結果は、それぞれの規模(震源域のスケール長)の地震がどういった空間スケールの応力不均質を反映して発生しているのかについて、重要な示唆を与える可能性がある。
謝辞:本研究は、文部科学省による「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一環として実施された。また、Uchide (2020) による発震機構解を使用させていただいた。ここに記して感謝いたします。
上記の背景から、Ishibe et al. (2020) ではその手始めとして、防災科学技術研究所によるF-netメカニズム解等を対象に、広域的三次元応力場を用いWallace-Bott仮説から断層すべり角を推定する手法の有効性の検証ならびにその精度に関する検討を行った。その結果、東北日本内陸において2011年東北地方太平洋沖地震後に活発化した群発的活動などでWallace-Bott仮説から推定されるすべり角と実際に発生した地震のすべり角の間に乖離がみられる地震もあったが、これら一部の地震を除き、推定されたすべり角とF-netメカニズム解におけるすべり角のミスフィット角は概ね30°以内に収まり整合的であった。また、地震調査研究推進本部によって評価されている活断層(帯)を対象に、変動地形学的に推定された断層のずれの向きと種類(型)と、広域的三次元応力場ならびにWallace-Bott仮説から推定される断層型が概ね整合的であることを確認した(石辺・他,2020)。
近年、深層学習を用いた初動読み取りに基づく微小地震の発震機構解カタログが構築・公開された(Uchide, 2020)。そこで本研究では、より小規模の地震に対する検証ならびにその規模依存性の検討を目的として、Uchide (2020) によって推定された微小地震に対する発震機構解を対象に上記手法を適用した。カタログ期間は2005~2019年であり、F-netメカニズム解と同様に2011年東北地方太平洋沖地震の発生を跨ぐため、その前後の期間に分けて解析を行い、推定精度の高いランクAまたはBの発震機構解を用いた。
推定された発震機構解における断層すべり角と広域応力場からWallace-Bott仮説に基づき算出された断層すべり角とのミスフィット角を算出した結果、先行研究と同様に概ね30°以内に収まり整合的であった。ただし、紀伊半島南部から四国南部、宮崎県東部に沿った領域において比較的ミスフィット角が大きな領域が見られた。また2007年能登半島地震や2008年岩手・宮城内陸地震の余震活動に対しても広域応力場から算出される断層すべり角には乖離が見られた。前者は推定された三次元広域応力場が沈み込むプレートに伴う地震活動による影響を含む可能性が、後者は大地震発生に伴う応力変化の影響を含む可能性が考えられる。一方で、東北沖地震後の期間においてはF-netメカニズム解を用いた解析と同様に、その震源域ならびに近傍領域において顕著に大きなミスフィット角が見られたが、震源域から離れた西南日本などでは2016年熊本地震の震源域などを除き概ね調和的であった。微小地震に対する発震機構解を用いたミスフィット角は、F-netメカニズム解を用いたそれらと比べやや大きい傾向が見られ、また小規模地震に対する発震機構解ほどミスフィット角が大きい規模依存性を示す結果となった。一般に微小地震に対する発震機構解の精度は中~大規模地震に対するそれらと比べ低い傾向にあること、あるいは初動発震機構解とモーメントテンソル解の相違を反映している可能性を否定できないが、小規模地震はTerakawa and Matsu’ura (2010)で推定された三次元広域応力場の空間的解像度よりも小スケールの応力不均質を反映して発生している可能性がある。本研究で得られた結果は、それぞれの規模(震源域のスケール長)の地震がどういった空間スケールの応力不均質を反映して発生しているのかについて、重要な示唆を与える可能性がある。
謝辞:本研究は、文部科学省による「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一環として実施された。また、Uchide (2020) による発震機構解を使用させていただいた。ここに記して感謝いたします。