9:30 AM - 9:45 AM
[S08-18] Detection of annual-scale variations in interplate coupling by combining intraplate earthquakes and geodetic data: A case of Nankai Trough
1.はじめに
プレート境界における巨大地震の発生時期や規模の予測には、プレート境界の固着状態を監視することが重要である。通常は地殻変動データが用いられるが、地震データも組み合わせた解析を行うことで、高い時空間分解能を持つ固着状態の推定が期待できる。今西・野田(2021,地震学会)は、地殻変動データから平均的なプレート間固着を推定し(基準固着)、プレート境界周辺の地震(プレート内地震)が基準固着による応力変化に調和的に発生しているか否かを判定することで、固着状態の変化を推定する手法を提案した。この手法を東北沖プレート境界に適用したところ、先行研究で報告されている本震前の固着の剥がれを始めとした様々な変動と調和的な結果が得られた。また、プレート内地震を使うため、固着が強くて日常的にプレート境界地震が少ない領域の固着状態も推定できる利点があることもわかった。本研究では、日常的にプレート境界地震の活動が極めて少ない南海トラフ沿いに 本手法を適用し、年スケールの固着変化を調べた結果を報告する。
2.手法
今西・野田(2021)の基本的な考え方は以下の通りである。
・応力場は、背景応力にプレート間固着による応力変化が加わったものと記述される。
・地殻内には様々な姿勢の既存クラックがあり、それらの多くが応力の臨界状態にある。
・プレート間固着が継続する場合、固着に起因する応力変化に調和的なクラックが優先的に破壊する。
・ミスフィット角(各地震の断層面のすべり角と固着に起因する応力変化から計算されるすべり角との角度差)に着目すると、固着が継続する場合はミスフィット角の小さい地震が多く発生することが期待され、逆にSSE等により固着状態からのずれが生じる場合は、その周囲でミスフィット角の大きい地震が多く発生することが期待される。
以上の考えを元に、実際の解析手順は以下の通りである。
(1)地殻変動データから基準固着を推定し、基準固着により周辺域に作り出される応力テンソルを水平方向に0.1°間隔、深さ方向に5km間隔で計算する。
(2)それぞれの地震の震源位置に最も近い位置の応力テンソルを用いて、ミスフィット角を計算する。この際、メカニズム解の2つの節面のうち、小さい方のミスフィット角を採用する。
(3)空間方向に0.2°間隔、時間方向には目的に応じた間隔のグリッドを設定する。グリッドを中心とした半径75km以内の地震を抽出し、ミスフィット角の平均値を計算することで、プレート間固着状態の変動を可視化する。
3.データ
メカニズム解は、防災科学技術研究所のF-net解(1997年1月~2022年6月)を使用した。代表的なプレート境界地震のメカニズム解に対するKagan角を元にプレート境界型の地震を除去し、プレート内地震のカタログを作成した。基準固着に関しては、2005年3月~2011年2月のGNSSデータを用いて推定したNoda et al.(2018)のモデルを使用した。 2009~2010年に発生した豊後水道SSEによる影響はデータから除去されている。また、この期間はその他に顕著な長期的SSEが発生しておらず、また東北沖地震の影響も受けていないことから、南海トラフ沿いの平均的な固着状態を表していると考えられる。
4.結果と解釈
全期間のミスフィット角の空間分布をみると、1944年東南海地震及び1946年南海地震で大きくすべった領域で小さい値を示している。これは、過去の大すべり域の固着が少なくとも25年間にわたり継続していると解釈できる。次に、時間方向のグリッド間隔を10か月に設定し、年スケールの変動を調べた。時間的にも空間的にも変動する様子が伺えるが、最近の数年間に着目すると、日向灘周辺のミスフィット角も小さい値を示すようになっている。現在は、南海トラフ沿いの広い範囲で固着が継続していることが示唆される。
ミスフィット角が大きくなる要因の一つとして、SSEの寄与が考えられる。長期的SSEが報告されている東海、紀伊水道、豊後水道に着目すると、長期的SSEの発生に同期してミスフィット角が大きくなる傾向が確認できた。東海地域を例に挙げると、2000年頃のミスフィット角の平均値は30度程度であったのが、5年後には120度程まで上昇し、その後再び30度程度まで低下した。これは2000年秋~2005年夏頃の東海SSEの発生時期と重なっており、本手法がうまく機能していることを示している。時間変動の特徴をさらに詳しく見ると、1年から数年の周期的な変動が含まれることが確認できる。この変動は短期的SSEの発生時期に対応している可能性があり、より小さな地震のメカニズム解を用いた精密解析による検証が必要である。
謝辞:防災科学技術研究所のF-netカタログ、国土地理院のGEONET F3解を使用しました。
プレート境界における巨大地震の発生時期や規模の予測には、プレート境界の固着状態を監視することが重要である。通常は地殻変動データが用いられるが、地震データも組み合わせた解析を行うことで、高い時空間分解能を持つ固着状態の推定が期待できる。今西・野田(2021,地震学会)は、地殻変動データから平均的なプレート間固着を推定し(基準固着)、プレート境界周辺の地震(プレート内地震)が基準固着による応力変化に調和的に発生しているか否かを判定することで、固着状態の変化を推定する手法を提案した。この手法を東北沖プレート境界に適用したところ、先行研究で報告されている本震前の固着の剥がれを始めとした様々な変動と調和的な結果が得られた。また、プレート内地震を使うため、固着が強くて日常的にプレート境界地震が少ない領域の固着状態も推定できる利点があることもわかった。本研究では、日常的にプレート境界地震の活動が極めて少ない南海トラフ沿いに 本手法を適用し、年スケールの固着変化を調べた結果を報告する。
2.手法
今西・野田(2021)の基本的な考え方は以下の通りである。
・応力場は、背景応力にプレート間固着による応力変化が加わったものと記述される。
・地殻内には様々な姿勢の既存クラックがあり、それらの多くが応力の臨界状態にある。
・プレート間固着が継続する場合、固着に起因する応力変化に調和的なクラックが優先的に破壊する。
・ミスフィット角(各地震の断層面のすべり角と固着に起因する応力変化から計算されるすべり角との角度差)に着目すると、固着が継続する場合はミスフィット角の小さい地震が多く発生することが期待され、逆にSSE等により固着状態からのずれが生じる場合は、その周囲でミスフィット角の大きい地震が多く発生することが期待される。
以上の考えを元に、実際の解析手順は以下の通りである。
(1)地殻変動データから基準固着を推定し、基準固着により周辺域に作り出される応力テンソルを水平方向に0.1°間隔、深さ方向に5km間隔で計算する。
(2)それぞれの地震の震源位置に最も近い位置の応力テンソルを用いて、ミスフィット角を計算する。この際、メカニズム解の2つの節面のうち、小さい方のミスフィット角を採用する。
(3)空間方向に0.2°間隔、時間方向には目的に応じた間隔のグリッドを設定する。グリッドを中心とした半径75km以内の地震を抽出し、ミスフィット角の平均値を計算することで、プレート間固着状態の変動を可視化する。
3.データ
メカニズム解は、防災科学技術研究所のF-net解(1997年1月~2022年6月)を使用した。代表的なプレート境界地震のメカニズム解に対するKagan角を元にプレート境界型の地震を除去し、プレート内地震のカタログを作成した。基準固着に関しては、2005年3月~2011年2月のGNSSデータを用いて推定したNoda et al.(2018)のモデルを使用した。 2009~2010年に発生した豊後水道SSEによる影響はデータから除去されている。また、この期間はその他に顕著な長期的SSEが発生しておらず、また東北沖地震の影響も受けていないことから、南海トラフ沿いの平均的な固着状態を表していると考えられる。
4.結果と解釈
全期間のミスフィット角の空間分布をみると、1944年東南海地震及び1946年南海地震で大きくすべった領域で小さい値を示している。これは、過去の大すべり域の固着が少なくとも25年間にわたり継続していると解釈できる。次に、時間方向のグリッド間隔を10か月に設定し、年スケールの変動を調べた。時間的にも空間的にも変動する様子が伺えるが、最近の数年間に着目すると、日向灘周辺のミスフィット角も小さい値を示すようになっている。現在は、南海トラフ沿いの広い範囲で固着が継続していることが示唆される。
ミスフィット角が大きくなる要因の一つとして、SSEの寄与が考えられる。長期的SSEが報告されている東海、紀伊水道、豊後水道に着目すると、長期的SSEの発生に同期してミスフィット角が大きくなる傾向が確認できた。東海地域を例に挙げると、2000年頃のミスフィット角の平均値は30度程度であったのが、5年後には120度程まで上昇し、その後再び30度程度まで低下した。これは2000年秋~2005年夏頃の東海SSEの発生時期と重なっており、本手法がうまく機能していることを示している。時間変動の特徴をさらに詳しく見ると、1年から数年の周期的な変動が含まれることが確認できる。この変動は短期的SSEの発生時期に対応している可能性があり、より小さな地震のメカニズム解を用いた精密解析による検証が必要である。
謝辞:防災科学技術研究所のF-netカタログ、国土地理院のGEONET F3解を使用しました。