10:00 AM - 10:15 AM
[S08-20] Near-trench large slip of the 2011 Tohoku earthquake revealed by in-situ tsunami and geodetic observations: effects of heterogeneous velocity structure on stress drop estimation
2011年東北地方太平洋沖地震 (東北地震) では,宮城沖のプレート境界浅部において50 mを超える大すべりが生じた (Kodaira et al. 2012; Sun et al. 2017).従来,プレート境界浅部は安定すべり領域のために地震すべりを起こさないと考えられていた (Scholtz 1998; Lay et al. 2012) にもかかわらずこのような大きなすべりが生じたため,その原因がこれまで広く考察されてきた.たとえば,地震時のすべり速度の増加に伴ってプレート境界浅部が動的に不安定すべり領域に遷移したり摩擦強度が著しく低下した説 (e.g., Noda & Lapusta 2013; Hirono et al. 2016) が提唱された.一方で,地震時の浅部の急激な摩擦弱化を積極的には支持しない報告事例もある.たとえば,地震後の掘削調査からは浅部断層を構成する鉱物の摩擦強度はそもそも低いことが明らかとなり(Ujiie et al., 2013),その鉱物試料を用いた摩擦実験では摩擦強度のすべり速度依存性が見られなかった (Remitti et al. 2015).このように,東北地震で浅部大すべりのメカニズムの決定的な答えは得られていない.この浅部の大すべり原因を明らかにすることは,巨大地震の津波発生のメカニズムの理解には不可欠である.久保田・齊藤 (2021SSJ) では,震源直上の水圧計による津波波形を用いて東北地震の断層モデルを推定した.本研究では,さらに海陸の地殻変動観測データを加えて断層モデルをアップデートし,その結果をもとに東北地震の浅部すべりの原因を議論する.
津波と測地データを用いたインバージョン解析により得られた断層モデルからは,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定され,最大すべり量は海溝軸ごく近傍において約53 mとなった (Fig. 1a).一方で,すべり分布に基づいて断層面上でのせん断応力変化 (応力降下) を計算したところ,海溝軸の付近では応力降下は小さく (≪ 3 MPa) ,深部側の震源近傍に大きな応力降下 (> 5 MPa) が得られた (Fig. 1b).この応力降下の分布は,浅部大すべりを伴った東北地震の原動力となった歪みエネルギーの蓄積は,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着が担っていたことを示唆する.
本解析結果は,浅部のプレート境界で応力を解放せずとも浅部大すべりを引き起こすことができることを意味する.これは一見すると矛盾しているようにも見えるが,深部での強いプレート間固着および地表の影響を考えれば合理的に解釈される.東北地震が起こる前の地震間プロセスでは,プレート境界深部の力学的固着が浅部側の沈み込みを押し留め,浅部にすべり遅れを生じさせる (Fig. 1, e.g., Lindsey et al. 2021).この深部固着による浅部すべり遅れが,東北地震において浅部が大きくすべったそもそもの要因であると解釈できる.この考えは,東北地震前から考えられてきた,浅部は安定すべり域で応力を蓄積しないとする考え (Scholtz, 1998) と調和的である.
本解析における応力降下の計算では,半無限均質媒質における理論解 (Meade, 2007) を使用した.しかし,本来,地殻構造,とくに海溝軸の周辺は構造の不均質性が大きく,これが応力降下の推定に影響を及ぼしている可能性がある.そこで,2次元の鉛直断面における有限要素法に基づく計算により,構造の不均質性が応力変化にどれほど影響しうるか評価した.宮城沖での構造探査測線 (Miura et al. 2005) に沿った鉛直断面を仮定し,有限要素計算にはPylithソフトウェア 3.0.1 (Aagaard et al. 2022) を使用した.本解析で得られたすべり分布のうち,同じ測線に沿ったすべりを入力とした.計算の結果,海溝軸近傍の領域 (z < 10 km) においては,構造探査をもとにした速度構造を用いて計算した応力変化は,均質構造を用いて計算された応力変化の3–4割程度となった.これは海溝周辺に存在する付加体ウェッジの剛性率が低いことが主な原因である.地殻構造の不均質を考慮すると,プレート浅部での応力降下はさらに小さくなると見積もられる.
津波と測地データを用いたインバージョン解析により得られた断層モデルからは,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定され,最大すべり量は海溝軸ごく近傍において約53 mとなった (Fig. 1a).一方で,すべり分布に基づいて断層面上でのせん断応力変化 (応力降下) を計算したところ,海溝軸の付近では応力降下は小さく (≪ 3 MPa) ,深部側の震源近傍に大きな応力降下 (> 5 MPa) が得られた (Fig. 1b).この応力降下の分布は,浅部大すべりを伴った東北地震の原動力となった歪みエネルギーの蓄積は,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着が担っていたことを示唆する.
本解析結果は,浅部のプレート境界で応力を解放せずとも浅部大すべりを引き起こすことができることを意味する.これは一見すると矛盾しているようにも見えるが,深部での強いプレート間固着および地表の影響を考えれば合理的に解釈される.東北地震が起こる前の地震間プロセスでは,プレート境界深部の力学的固着が浅部側の沈み込みを押し留め,浅部にすべり遅れを生じさせる (Fig. 1, e.g., Lindsey et al. 2021).この深部固着による浅部すべり遅れが,東北地震において浅部が大きくすべったそもそもの要因であると解釈できる.この考えは,東北地震前から考えられてきた,浅部は安定すべり域で応力を蓄積しないとする考え (Scholtz, 1998) と調和的である.
本解析における応力降下の計算では,半無限均質媒質における理論解 (Meade, 2007) を使用した.しかし,本来,地殻構造,とくに海溝軸の周辺は構造の不均質性が大きく,これが応力降下の推定に影響を及ぼしている可能性がある.そこで,2次元の鉛直断面における有限要素法に基づく計算により,構造の不均質性が応力変化にどれほど影響しうるか評価した.宮城沖での構造探査測線 (Miura et al. 2005) に沿った鉛直断面を仮定し,有限要素計算にはPylithソフトウェア 3.0.1 (Aagaard et al. 2022) を使用した.本解析で得られたすべり分布のうち,同じ測線に沿ったすべりを入力とした.計算の結果,海溝軸近傍の領域 (z < 10 km) においては,構造探査をもとにした速度構造を用いて計算した応力変化は,均質構造を用いて計算された応力変化の3–4割程度となった.これは海溝周辺に存在する付加体ウェッジの剛性率が低いことが主な原因である.地殻構造の不均質を考慮すると,プレート浅部での応力降下はさらに小さくなると見積もられる.