10:15 〜 10:30
[S08-21] カルデラ火山におけるトラップドア断層破壊の静的力学モデル:北硫黄島カルデラへの応用
近年,複数の海底カルデラ火山において「トラップドア断層破壊」と呼ばれる火山現象が,M5規模の火山性地震とともに津波を繰り返し引き起こすことが明らかになってきた(Sandanbata et al., 2022など).この種の現象は,カルデラ地下に蓄積して高圧化したマグマが作る地殻内応力場によって,カルデラ内部の環状断層が地震性すべりを起こすことによって発生すると考えられる.
本研究では,トラップドア断層破壊の静的力学モデルの計算手法を提案する.ここではトラップドア断層破壊を,高圧マグマが作り出す地殻内応力場を駆動力として,「環状断層での傾斜すべり」,「マグマに満たされた水平クラックの開口/閉塞」,「水平クラックの体積変化に伴うマグマ圧力変化」の三つのプロセスが同時に発生する現象としてモデル化を行う.これらのプロセスによる環状断層における剪断応力降下と,水平クラック壁における法線応力・マグマ圧力間の力学的つりあいを境界条件として境界要素法を解き,トラップドア断層破壊の静的力学モデルを計算する.この静的力学モデルを用いることで,地震前後でのマグマ圧力・地殻内応力場の変化や,地震前のマグマ圧力と地震規模の定量関係を調べることが可能となる.
上記の静的力学モデルを,2008年6月12日に伊豆小笠原諸島・北硫黄島近海の海底カルデラ(以降,「北硫黄島カルデラ」と呼ぶ)で発生した,トラップドア断層破壊と見られるMw 5.3の火山性地震・津波イベントに適用する.このイベントに伴う津波・地震波の波形記録と,上記の静的力学モデルを用いて計算した津波・地震波の波形を突き合わせることで,北硫黄島カルデラにおけるトラップドア断層破壊の静的力学モデルを構築した.その結果,約10–20 MPaのマグマ圧力の増加によって環状断層に応力が蓄積され,その剪断応力を解消するように発生する約5–8 mの傾斜すべりを伴うトラップドア断層破壊モデルがイベント記録をよく説明した.またこのモデルから推定されるマグマ減圧量は < 5 MPa程度で,断層破壊発生後もマグマの圧力状態は依然としてある程度高い状態に保たれることが示された.
本研究のアプローチのように,トラップドア断層破壊の力学を調べることは,構造性地震と異なる発生機構を持つカルデラ火山特有の地震現象の発生機構の理解に繋がる.さらに,定量的観測が困難な火山地下の応力場環境やマグマだまり内に蓄積したマグマ圧力状態を推定することができ,新たな火山モニタリング手法としての可能性を有している.
本研究では,トラップドア断層破壊の静的力学モデルの計算手法を提案する.ここではトラップドア断層破壊を,高圧マグマが作り出す地殻内応力場を駆動力として,「環状断層での傾斜すべり」,「マグマに満たされた水平クラックの開口/閉塞」,「水平クラックの体積変化に伴うマグマ圧力変化」の三つのプロセスが同時に発生する現象としてモデル化を行う.これらのプロセスによる環状断層における剪断応力降下と,水平クラック壁における法線応力・マグマ圧力間の力学的つりあいを境界条件として境界要素法を解き,トラップドア断層破壊の静的力学モデルを計算する.この静的力学モデルを用いることで,地震前後でのマグマ圧力・地殻内応力場の変化や,地震前のマグマ圧力と地震規模の定量関係を調べることが可能となる.
上記の静的力学モデルを,2008年6月12日に伊豆小笠原諸島・北硫黄島近海の海底カルデラ(以降,「北硫黄島カルデラ」と呼ぶ)で発生した,トラップドア断層破壊と見られるMw 5.3の火山性地震・津波イベントに適用する.このイベントに伴う津波・地震波の波形記録と,上記の静的力学モデルを用いて計算した津波・地震波の波形を突き合わせることで,北硫黄島カルデラにおけるトラップドア断層破壊の静的力学モデルを構築した.その結果,約10–20 MPaのマグマ圧力の増加によって環状断層に応力が蓄積され,その剪断応力を解消するように発生する約5–8 mの傾斜すべりを伴うトラップドア断層破壊モデルがイベント記録をよく説明した.またこのモデルから推定されるマグマ減圧量は < 5 MPa程度で,断層破壊発生後もマグマの圧力状態は依然としてある程度高い状態に保たれることが示された.
本研究のアプローチのように,トラップドア断層破壊の力学を調べることは,構造性地震と異なる発生機構を持つカルデラ火山特有の地震現象の発生機構の理解に繋がる.さらに,定量的観測が困難な火山地下の応力場環境やマグマだまり内に蓄積したマグマ圧力状態を推定することができ,新たな火山モニタリング手法としての可能性を有している.