日本地震学会2022年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] AM-2

2022年10月26日(水) 11:00 〜 12:15 A会場 (1階(かでるホール))

座長:野田 博之(京都大学 防災研究所)、前田 純伶(国研)防災科学技術研究所 地震津波防災研究部門)

11:15 〜 11:30

[S08-24] 回転剪断摩擦実験により示された石英系砂岩の速度弱化から速度強化への摩擦特性の変遷

*前田 純伶1、山下 太1、大久保 蔵馬1、福山 英一2,1 (1. 国研)防災科学技術研究所、2. 京都大学)

断層の摩擦特性を明らかにすることは地震の発生機構を理解する上で重要であるため,岩石摩擦特性に関する室内実験研究が盛んに行われてきた.特に,様々な岩石が断層の不安定すべりを引き起こす速度弱化(摩擦係数がすべり速度の増加とともに低下する傾向)の性質を持つことがこれまでに示されている(e.g., Di Toro et al., 2011).一方,近年の観測学的研究により通常の地震よりもはるかに遅いすべり速度で準安定的に断層がすべるスロー地震が様々な地域で発生していることが確認されており,またすべり速度の異なる現象が近接した,もしくは同一の断層構造で発生していることが先行研究により指摘されている(e.g., Ito et al., 2013; Yokota & Ishikawa, 2020; Fukao et al., 2021).このような速度・時間スケールの異なるすべり現象を生じさせる断層の摩擦特性を明らかにすることは,多様な地震発生形態を理解するうえで重要である.さらに,摩耗物の生成や剪断に伴う断層面の状態も摩擦特性と密接な関係がある(e.g., Hirose et al., 2012; Verberne et al., 2014).したがって,本研究では,広範囲なすべり速度帯における摩擦特性,摩耗特性および断層面の状態について明らかにすることを目的とし,地殻の主要構成鉱物である石英を多く含む石英系砂岩を対象とした剪断摩擦実験を行い,得られたデータを解析した.
実験には防災科学技術研究所に設置された回転剪断摩擦試験機を用いた.岩石試料は既存弱面の影響が少ないと考えられるインド産の石英系砂岩を使用した.実験条件はすべり速度10-3–10-1 m/s,垂直応力は0.5,1.0,1.5 MPaの3通り,すべり距離は約200〜300 mの条件で合計45回の実験を行った.また,赤外放射温度計(KEYENCE IT2-02, IT2-50)を用いて実験中の断層面近傍の温度を連続的に計測した.摩耗率を推定するために,実験後に生成された摩耗物を全て収集し,その質量を計測した.本研究では,様々な垂直応力およびすべり速度での実験結果を比較するために,垂直応力とすべり速度の積で表される入力仕事率[W/m2]を導入し,摩擦特性,摩耗特性および断層面の状態を調査した.剪断応力とすべり速度の積で求まる摩擦力の仕事率は摩擦特性と密接に結びついている(Di Toro et al., 2011)一方で,すべり量に応じて非定常的に変化するため異なる実験条件間の比較指標として扱いづらいことから(前田・他, 2022, JpGU),本研究では実験条件ごとに定常的な入力仕事率を基準とした.
実験の結果,入力仕事率が0.06 MW/m2を境に摩擦特性,摩耗特性,断層面の状態が大きく変わることが明らかとなった.平均剪断応力と垂直応力の比によって求まる摩擦係数は0.06 MW/m2以下では速度弱化特性を示したのに対し,0.06 MW/m2以上では速度強化特性に転じることがわかった.摩耗率(一実験中の摩擦力による総仕事量に対する収集された摩耗物の質量)は0.06 MW/m2以下では摩耗物がほとんど生成されないため入力仕事率によらずゼロに近い値であったのに対し,0.06 MW/m2以上では入力仕事率に対して正の相関を示した.断層面の状態は0.06 MW/m2以下では光を反射する面(鏡面)が形成されるのに対し,0.06 MW/m2以上では鏡面の破壊が始まり,入力仕事率が0.1 MW/m2以上になると再び鏡面の形成が始まることが確認された.剪断面近傍の温度を調べた結果,0.06 MW/m2以上では最高温度が100℃を超えていたことが判明した.
上記の結果から,石英系砂岩内の断層にすべりが生じた場合,そのすべり速度と垂直応力の増加に伴い摩擦特性,摩耗特性,断層面の状態がある閾値を境に大きく変わることが予想される.特に摩擦特性の調査結果は,石英系砂岩内の断層が安定すべりから不安定すべりに遷移する過程ですべり速度の増加に伴う速度強化特性が生じた場合に,そのすべりの成長を抑制し,スロー地震の一因となる可能性を示唆している.