12:00 PM - 12:15 PM
[S08-27] Evolution of normal stress heterogeneity by frictional heating and thermoelasticity: Implication for size effect in friction experiments
Yamashita et al (2015) は長さ 1.5 mの岩石試料の摩擦実験と直径 4 cm の試料の回転剪断試験の比較を行い、後者では 0.1 m/s 程度で発生する所謂「高速摩擦」の急激な速度弱化が、前者では 1 cm/s 程度で発生する事を報告した。彼らはこの原因として、断層面の形状の不均質に起因する垂直応力の不均質と、それに伴う摩擦仕事(発熱)の集中を挙げている。本研究では摩擦発熱による温度上昇と熱弾性効果に注目し、垂直応力の不均質が摩擦滑り中にどのように時間発展するかを考察した。
無限媒質における非連成熱弾性(熱伝導率:β、変位固定時の圧力上昇/温度上昇:α)を考え、簡単の為に2次元の面内問題を考える。断層面を模した平面状の発熱体を考えると、断層面での垂直応力の変化を過去の摩擦発熱の時空間分布とグリーン関数の畳み込みで表現することができる。グリーン関数には Xiao et al. (2021) による時空間的に集中した熱源に対する解析解を使用した。これに断層方向のフーリエ変換を施し空間一様の滑り速度 V と一定の摩擦係数 f を仮定すると、ある角波数 k の垂直応力擾乱 Δσ を自身の過去の履歴と積分核との時間畳み込みで表現することができる。この積分方程式には低速 V < Vcr において初期値 σ0 と同符号の定常解が存在し、Vcr = γβ|k|/αf、Δσ = σ0V/(Vcr-V) と表すことができる。ここで γ は Poisson 比 ν の関数で γ = 4(1-ν)/(1-2ν) である。高速 V ≧ Vcr では定常解は初期値と符号が異なるため、「高垂直応力部で発熱と熱膨張が顕著になる」なる直観に反する。
上述の系について、時刻 t=0 に摩擦滑りを開始する場合の挙動を、境界積分法方程式法およびメモリー変数法(Noda, 2022)を用いて数値的に解析した。低速 V < Vcr では、Δσ は定常解に漸近するのに対し、V = Vcr では時間に対して線形に、V ≧ Vcr では時間に対して指数関数的に際限なく増大する結果が得られた。定常状態の Δσ は初期値 σ0 に比例するため、摩擦実験試料の平面加工の精度を上げることによって垂直応力不均質の影響を少なくすることが可能である。しかし定常解に漸近しない V/Vcr = αfV/γβ|k| ≧ 1 の場合は、理想的な平面を作成するのは不可能であるので、垂直応力不均質の振幅はどこまでも大きくなり、最終的には摩擦発熱の面内での局所化やそれに伴う巨視的な弱化に至る事となる。
斑レイ岩の物性値 (Schön, 1996) を用いた場合、k = 2π/(1 cm) では Vcr = 4.0 × 10-2 m/s、k = 2π/(1 m) では Vcr = 4.0 × 10-4 m/s となる。これらの滑り速度は室内実験に用いる速度レンジ内にあり、これまでの摩擦実験中で熱弾性の影響が重要である可能性を示唆している。摩擦実験試料のサイズを超える波長の擾乱は試料中に発生し得ないため、例えば V = 1 mm/s 程度の実験の際には、cm スケールの試料の場合は熱弾性の影響は限定的であるが、m スケールの試料の場合は大きな影響が存在しうる。大型摩擦実験の際には、温度分布の測定と、歪ゲージで測定する応力に対する温度の影響の補正が重要である可能性がある。天然断層の挙動を考える上では、広い波数の擾乱が存在すること、滑り速度が時空間的に変化する影響、動弾性との連成の必要性などの検討が課題である。
無限媒質における非連成熱弾性(熱伝導率:β、変位固定時の圧力上昇/温度上昇:α)を考え、簡単の為に2次元の面内問題を考える。断層面を模した平面状の発熱体を考えると、断層面での垂直応力の変化を過去の摩擦発熱の時空間分布とグリーン関数の畳み込みで表現することができる。グリーン関数には Xiao et al. (2021) による時空間的に集中した熱源に対する解析解を使用した。これに断層方向のフーリエ変換を施し空間一様の滑り速度 V と一定の摩擦係数 f を仮定すると、ある角波数 k の垂直応力擾乱 Δσ を自身の過去の履歴と積分核との時間畳み込みで表現することができる。この積分方程式には低速 V < Vcr において初期値 σ0 と同符号の定常解が存在し、Vcr = γβ|k|/αf、Δσ = σ0V/(Vcr-V) と表すことができる。ここで γ は Poisson 比 ν の関数で γ = 4(1-ν)/(1-2ν) である。高速 V ≧ Vcr では定常解は初期値と符号が異なるため、「高垂直応力部で発熱と熱膨張が顕著になる」なる直観に反する。
上述の系について、時刻 t=0 に摩擦滑りを開始する場合の挙動を、境界積分法方程式法およびメモリー変数法(Noda, 2022)を用いて数値的に解析した。低速 V < Vcr では、Δσ は定常解に漸近するのに対し、V = Vcr では時間に対して線形に、V ≧ Vcr では時間に対して指数関数的に際限なく増大する結果が得られた。定常状態の Δσ は初期値 σ0 に比例するため、摩擦実験試料の平面加工の精度を上げることによって垂直応力不均質の影響を少なくすることが可能である。しかし定常解に漸近しない V/Vcr = αfV/γβ|k| ≧ 1 の場合は、理想的な平面を作成するのは不可能であるので、垂直応力不均質の振幅はどこまでも大きくなり、最終的には摩擦発熱の面内での局所化やそれに伴う巨視的な弱化に至る事となる。
斑レイ岩の物性値 (Schön, 1996) を用いた場合、k = 2π/(1 cm) では Vcr = 4.0 × 10-2 m/s、k = 2π/(1 m) では Vcr = 4.0 × 10-4 m/s となる。これらの滑り速度は室内実験に用いる速度レンジ内にあり、これまでの摩擦実験中で熱弾性の影響が重要である可能性を示唆している。摩擦実験試料のサイズを超える波長の擾乱は試料中に発生し得ないため、例えば V = 1 mm/s 程度の実験の際には、cm スケールの試料の場合は熱弾性の影響は限定的であるが、m スケールの試料の場合は大きな影響が存在しうる。大型摩擦実験の際には、温度分布の測定と、歪ゲージで測定する応力に対する温度の影響の補正が重要である可能性がある。天然断層の挙動を考える上では、広い波数の擾乱が存在すること、滑り速度が時空間的に変化する影響、動弾性との連成の必要性などの検討が課題である。