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[S08-33] 粘弾性媒質中の速度弱化パッチの地震性・非地震性遷移におけるホモクリニック分岐と摩擦強度不均質の影響
速度状態依存摩擦則(RSF則)が発見されて以来、これを適用した地震サイクルシミュレーションが盛んに行われている [e.g., Lapusta et al., 2000]。低速での摩擦係数について、速度弱化( a-b<0 )を示す鉱物は Byerlee 則に従う値( 0.6-0.85 )を示すのに対し、速度強化( a-b>0 )を示す鉱物には粘土鉱物などの小さな値を示すものも存在することが確認されている。全体としては、低速での摩擦係数は摩擦パラメータ a-b と負の相関が見られる [Ikari et al., 2011]。しかし基準滑り速度 V0 における定常摩擦係数 f0 の不均質性は、媒質が線形弾性体の場合、滑りの基準(滑りをゼロと定義する状態)の選択に吸収されてしまい、初期条件の影響のなくなったアトラクタにおける滑り速度 V の時空間的分布には影響を及ぼさない。その一方で、媒質に粘弾性体を採用する場合、非弾性変形の速度が媒質中の偏差応力の絶対値に依存するため、 f0 の分布が断層の長期的挙動に影響する。地中では、地殻浅部から深部にかけて媒質の弾性・粘弾性の遷移が見られる。 Miyake and Noda (2019) は、粘弾性媒質中での2次元の動的地震サイクルシミュレーション手法を開発し、空間的に一様な f0 を採用し Maxwell 粘弾性体に対して(緩和時間)/(パッチサイズ)の減少によって地震性(EQ)挙動から永久固着(Stuck, ST)への遷移が起こることを報告している。永久固着とは、応力の緩和が速いことで地震が起こらなくなることである。地中深くの領域では、粘性が支配的になると考えられるため永久固着が起きやすくなる。本研究では、 Miyake and Noda (2019) と同じシミュレーション手法を用い、 EQ‐ST遷移についてさらに詳しく調べた。粘弾性のパラメータに加え、速度弱化パッチとその外部の断層強度差(= f0 の差 Δf0 )による影響も調査の対象とした。パラメータスタディを行ったところ、 Miyake and Noda (2019) で報告されていた粘弾性の変化だけでなく、 Δf0 の変化によってもEQ‐ST遷移があることが分かった。 Δf0 が大きくなると永久固着が起こりやすくなり、本研究で最大の強度差である Δf0=0.3 のときは Δf0=0 の時と比べて一桁大きな緩和時間で永久固着が起こる。
次に、この遷移の解釈を得ることを試みた。本シミュレーションは連続体モデルであるため自由度が大きく、物理的な理解が難しい。そこで、自由度を大きく削減したバネ‐ブロックモデルを用いた。速度弱化域と速度強化域をそれぞれ代表させたブロックをバネとダッシュポットでつないだ単純なモデルである。連続体とバネ-ブロック両モデルのパラメータスタディと解軌道について比較を行った。すると、バネ‐ブロックモデルについても同様にEQ‐ST遷移が確認され、2つのモデルの結果がよく似ていた。このことから、EQ‐ST遷移をバネ‐ブロックモデルによって解釈することは一定程度有効であると考えられる。バネ‐ブロックモデルにおける解軌道、ベクトル場から、EQ‐ST遷移は Homoclinic 分岐である事を見出した。弾性体中の断層についてはこれまで、摩擦パラメータ a-b が正のとき非地震性、 負のとき地震が起こりうるということが知られており、これは Hopf 分岐として理解されている。本研究で見出した Homoclinic 分岐による遷移は全く新しいタイプの地震性・非地震性遷移である。パラメータスタディの結果は、温度が上昇して粘弾性緩和がより有効となると、大きなサイズの速度弱化パッチから地震発生頻度の減少と非地震性への遷移を起こすことを示している。Spada et al. (2013) は、世界の様々な大陸の b 値と深さの関係を示した。いくつかの大陸では、比較的浅い領域では深くなるにつれ b 値が減少するが、ある深さからは増加に転じた後に地震発生層の下限となる傾向が確認されている。この b 値増加の傾向は、地震発生層最下部では深いほど大きな地震が起こりにくくなることを示しており、本研究におけるパラメータスタディの結果と整合的である。
次に、この遷移の解釈を得ることを試みた。本シミュレーションは連続体モデルであるため自由度が大きく、物理的な理解が難しい。そこで、自由度を大きく削減したバネ‐ブロックモデルを用いた。速度弱化域と速度強化域をそれぞれ代表させたブロックをバネとダッシュポットでつないだ単純なモデルである。連続体とバネ-ブロック両モデルのパラメータスタディと解軌道について比較を行った。すると、バネ‐ブロックモデルについても同様にEQ‐ST遷移が確認され、2つのモデルの結果がよく似ていた。このことから、EQ‐ST遷移をバネ‐ブロックモデルによって解釈することは一定程度有効であると考えられる。バネ‐ブロックモデルにおける解軌道、ベクトル場から、EQ‐ST遷移は Homoclinic 分岐である事を見出した。弾性体中の断層についてはこれまで、摩擦パラメータ a-b が正のとき非地震性、 負のとき地震が起こりうるということが知られており、これは Hopf 分岐として理解されている。本研究で見出した Homoclinic 分岐による遷移は全く新しいタイプの地震性・非地震性遷移である。パラメータスタディの結果は、温度が上昇して粘弾性緩和がより有効となると、大きなサイズの速度弱化パッチから地震発生頻度の減少と非地震性への遷移を起こすことを示している。Spada et al. (2013) は、世界の様々な大陸の b 値と深さの関係を示した。いくつかの大陸では、比較的浅い領域では深くなるにつれ b 値が減少するが、ある深さからは増加に転じた後に地震発生層の下限となる傾向が確認されている。この b 値増加の傾向は、地震発生層最下部では深いほど大きな地震が起こりにくくなることを示しており、本研究におけるパラメータスタディの結果と整合的である。