3:30 PM - 6:00 PM
[S08P-08] On shear localization by thermo-chemical pressurization and following destabilization and migration of the shear-localized zone
地震時の断層帯では、高速滑りに伴う摩擦熱によって鉱物の化学反応が進行する場合がある。Platt et al. (2015)は、左右対称な断層帯の高速滑り時の一次元モデルを考えて、既存の間隙流体および鉱物の熱分解反応によって生じる流体の圧力上昇(thermo-chemical pressurization)によって、断層中心にピークを持つ剪断集中帯の厚みが数十マイクロメートルとなることを報告した。Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)は、同じ力学モデルを用いた数値計算をより長い時間スケールで行い、剪断集中帯のピーク位置が断層中心から移動することを報告した。この挙動は流体の拡散と未反応の鉱物の枯渇によって引き起こされたとされているが、その詳細な原理については不明な点が多い。
Platt et al. (2015)のモデルで考慮されている主な機構は、慣性と体積力を無視した連続体の運動方程式(力学平衡)、速度依存摩擦構成則、流体の質量保存則、エネルギー保存則、反応速度論に従う鉱物の熱分解反応である。本研究ではPlatt et al. (2015)に倣い、代表的な化学反応として方解石の熱分解反応に着目した。時間について一次の前進差分、空間について二次の中心差分をとった数値積分を、上述の機構を表現した偏微分方程式について実行することで、Platt et al. (2015)の計算結果を再現するコードを自作した。再開発したコードを用いた数値実験の結果、Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)によって報告された剪断集中帯の移動が再確認された。また、剪断集中帯が移動する方向は常に一定ではなく、採用するグリッドサイズやステップ数によって左右どちらにもなりうることがわかった。この事は、左右対称な解がある時点で不安定化し、数値計算の丸め誤差の増大が数値解を選択している事を示唆する。すなわち、剪断集中帯の移動が観測されたこれらの数値解は、今回のモデルの解析解に対する適切な近似解として扱うことができないと言える。「初期反応率が一様」といった単純な条件の問題設定では、滑り速度履歴や応力履歴を与えても、地震性滑り後の反応率の空間分布は一意には定まらない。
この問題を解決する手段の一つは、予め初期条件の対称性を崩してやることである。そこで、初期反応率を空間不均質とした場合の解について調べた。初期反応率が空間座標の線形関数であるとした場合、時間ステップの増加に伴って剪断集中帯のピークが初期反応率が低い側へと移動する挙動が確認された。これは、断層中心の両隣のグリッドで初期反応率が異なる場合、より反応率が低いグリッドにおいて反応が進行しやすいため、断層強度がより弱化することで剪断集中のピークがそちらに移動するためであると解釈できる。移動が発生した解の収束性テストを実施した結果、空間グリッドのサイズについて二次のオーダーで数値誤差が小さくなることが確認された。これは、二次の中心差分を取ったことによって生じる数値誤差の理論値と調和的である。これらの結果から、初期設定で対称性を崩してやることにより、解の一意性が担保された問題設定となり、本モデルの数値解を解析解の近似として扱う事ができる様になると言える。
本講演では上述の内容に加えて、初期反応率の空間不均質性を導入したモデルを用いて予察的に実施した数値実験の結果についても発表する予定である。
Platt et al. (2015)のモデルで考慮されている主な機構は、慣性と体積力を無視した連続体の運動方程式(力学平衡)、速度依存摩擦構成則、流体の質量保存則、エネルギー保存則、反応速度論に従う鉱物の熱分解反応である。本研究ではPlatt et al. (2015)に倣い、代表的な化学反応として方解石の熱分解反応に着目した。時間について一次の前進差分、空間について二次の中心差分をとった数値積分を、上述の機構を表現した偏微分方程式について実行することで、Platt et al. (2015)の計算結果を再現するコードを自作した。再開発したコードを用いた数値実験の結果、Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)によって報告された剪断集中帯の移動が再確認された。また、剪断集中帯が移動する方向は常に一定ではなく、採用するグリッドサイズやステップ数によって左右どちらにもなりうることがわかった。この事は、左右対称な解がある時点で不安定化し、数値計算の丸め誤差の増大が数値解を選択している事を示唆する。すなわち、剪断集中帯の移動が観測されたこれらの数値解は、今回のモデルの解析解に対する適切な近似解として扱うことができないと言える。「初期反応率が一様」といった単純な条件の問題設定では、滑り速度履歴や応力履歴を与えても、地震性滑り後の反応率の空間分布は一意には定まらない。
この問題を解決する手段の一つは、予め初期条件の対称性を崩してやることである。そこで、初期反応率を空間不均質とした場合の解について調べた。初期反応率が空間座標の線形関数であるとした場合、時間ステップの増加に伴って剪断集中帯のピークが初期反応率が低い側へと移動する挙動が確認された。これは、断層中心の両隣のグリッドで初期反応率が異なる場合、より反応率が低いグリッドにおいて反応が進行しやすいため、断層強度がより弱化することで剪断集中のピークがそちらに移動するためであると解釈できる。移動が発生した解の収束性テストを実施した結果、空間グリッドのサイズについて二次のオーダーで数値誤差が小さくなることが確認された。これは、二次の中心差分を取ったことによって生じる数値誤差の理論値と調和的である。これらの結果から、初期設定で対称性を崩してやることにより、解の一意性が担保された問題設定となり、本モデルの数値解を解析解の近似として扱う事ができる様になると言える。
本講演では上述の内容に加えて、初期反応率の空間不均質性を導入したモデルを用いて予察的に実施した数値実験の結果についても発表する予定である。