15:30 〜 18:00
[S08P-15] 数値モデリングにより再現された南海トラフにおける短期的スロースリップのセグメント
1.はじめに
南海トラフにおける深部微動の発見(Obara, 2002)以降,世界各地のプレート境界においてスロー地震に関する研究が精力的に進められてきた.活発な微動に同期して短期的スロースリップイベント(以下,短期的SSE)が観測されるため、これらは合わせてEpisodic Tremor and Slip(以下,ETS)とも呼ばれる.また,微動は短期的SSEを含めた,地下のすべりや応力の状況を知るうえでの指標となっているとも考えられている(Obara and Kato, 2016).南海トラフにおいては、様々なスロー地震に関する知見が得られるとともに,微動の発見から20年以上経過したこともあり,長期のスロー地震活動のカタログが利用可能となっている.本研究では,南海トラフで発生するSSEの数値シミュレーションにおいて,長期間(複数地震サイクルのスケール)にわたって計算した結果をもとに,再現された短期的SSEのセグメント形成について,実際のスロー地震活動とも比較しつつ,議論する.
2.計算手法・モデル
使用した数値モデルにおいては,Matsuzawa et al. (2010, 2013)と同様にカットオフ速度を考慮したすべり速度・状態依存摩擦則を仮定して,各要素上でのすべり速度および摩擦の時間発展を計算した.計算領域は東海地域から日向灘の範囲とし,沈み込むフィリピン海プレートと陸側プレートの境界面の形状を約17万個の三角形要素で表現した.短期的SSEの再現においては,短期的SSEの発生している深さ(28km以深)において低い有効法線応力を仮定するとともに,観測された微動活動の分布に基づいて,摩擦則における(a-b)値が負となる領域を短期的SSE領域として設定した.東海地域,豊後水道および日向灘の長期的SSE領域については,Matsuzawa et al. (2013)と同様に,有効法線応力が周囲よりやや低い領域の沈み込み方向の幅を広く設定した.
3.結果・議論
数値計算結果から短期的SSEを抽出するため,各断層要素上で基準すべり速度(以下の場合,載荷レートの10倍)以上の速度を示した時間帯を短期的SSEとして定義した.さらに同時間帯に周辺5km以内の断層要素において同様の基準を満たすすべりがある場合に,同一イベントとした.これを,新たな同一イベントの判定がなくなるまで繰り返した.こうして得られた短期的SSEのうちMw4.5以上のイベントについて,すべり領域のstrike方向の両端の位置を取り出し,地震サイクル2回分(約217年)の計算結果から空間の頻度分布をとったところ,局所的なピークをもつ分布が得られた.このピークは短期的SSEのセグメント境界に対応するものとなる.このセグメント境界は微動分布が不連続となる箇所および,dip方向の微動分布(短期的SSE領域)の幅Wが大きく変化する箇所と対応しており,Wの分布のstrike方向の変化が数値モデリングによる短期的SSEのセグメント境界を特徴づけていることを示唆する.この結果を防災科研によって推定されている微動活動カタログ(Maeda and Obara, 2009; Obara et al., 2010)と比較したところ,大局的な特徴については類似性がみられたものの,例えば,紀伊半島中北部などにおいて,実際の微動活動はより細かくセグメント化されている傾向がみられた.これは,実際の活動にさらなる不均質性が関与している可能性を示唆する.また,地震サイクルスケールにおける活動セグメントの変化は顕著でなかった.ETSのセグメントの形成においては,地震サイクルを通じた応力状況の違いは大きな影響を与えず,Wによって強く特徴づけられている可能性が示唆される.
南海トラフにおける深部微動の発見(Obara, 2002)以降,世界各地のプレート境界においてスロー地震に関する研究が精力的に進められてきた.活発な微動に同期して短期的スロースリップイベント(以下,短期的SSE)が観測されるため、これらは合わせてEpisodic Tremor and Slip(以下,ETS)とも呼ばれる.また,微動は短期的SSEを含めた,地下のすべりや応力の状況を知るうえでの指標となっているとも考えられている(Obara and Kato, 2016).南海トラフにおいては、様々なスロー地震に関する知見が得られるとともに,微動の発見から20年以上経過したこともあり,長期のスロー地震活動のカタログが利用可能となっている.本研究では,南海トラフで発生するSSEの数値シミュレーションにおいて,長期間(複数地震サイクルのスケール)にわたって計算した結果をもとに,再現された短期的SSEのセグメント形成について,実際のスロー地震活動とも比較しつつ,議論する.
2.計算手法・モデル
使用した数値モデルにおいては,Matsuzawa et al. (2010, 2013)と同様にカットオフ速度を考慮したすべり速度・状態依存摩擦則を仮定して,各要素上でのすべり速度および摩擦の時間発展を計算した.計算領域は東海地域から日向灘の範囲とし,沈み込むフィリピン海プレートと陸側プレートの境界面の形状を約17万個の三角形要素で表現した.短期的SSEの再現においては,短期的SSEの発生している深さ(28km以深)において低い有効法線応力を仮定するとともに,観測された微動活動の分布に基づいて,摩擦則における(a-b)値が負となる領域を短期的SSE領域として設定した.東海地域,豊後水道および日向灘の長期的SSE領域については,Matsuzawa et al. (2013)と同様に,有効法線応力が周囲よりやや低い領域の沈み込み方向の幅を広く設定した.
3.結果・議論
数値計算結果から短期的SSEを抽出するため,各断層要素上で基準すべり速度(以下の場合,載荷レートの10倍)以上の速度を示した時間帯を短期的SSEとして定義した.さらに同時間帯に周辺5km以内の断層要素において同様の基準を満たすすべりがある場合に,同一イベントとした.これを,新たな同一イベントの判定がなくなるまで繰り返した.こうして得られた短期的SSEのうちMw4.5以上のイベントについて,すべり領域のstrike方向の両端の位置を取り出し,地震サイクル2回分(約217年)の計算結果から空間の頻度分布をとったところ,局所的なピークをもつ分布が得られた.このピークは短期的SSEのセグメント境界に対応するものとなる.このセグメント境界は微動分布が不連続となる箇所および,dip方向の微動分布(短期的SSE領域)の幅Wが大きく変化する箇所と対応しており,Wの分布のstrike方向の変化が数値モデリングによる短期的SSEのセグメント境界を特徴づけていることを示唆する.この結果を防災科研によって推定されている微動活動カタログ(Maeda and Obara, 2009; Obara et al., 2010)と比較したところ,大局的な特徴については類似性がみられたものの,例えば,紀伊半島中北部などにおいて,実際の微動活動はより細かくセグメント化されている傾向がみられた.これは,実際の活動にさらなる不均質性が関与している可能性を示唆する.また,地震サイクルスケールにおける活動セグメントの変化は顕著でなかった.ETSのセグメントの形成においては,地震サイクルを通じた応力状況の違いは大きな影響を与えず,Wによって強く特徴づけられている可能性が示唆される.