10:45 AM - 11:00 AM
[S09-05] Long-living earthquake swarm at the NE of Noto peninsula –Hypocenter migration and driving mechanism–
はじめに
群発地震とは,群を抜いて規模の大きな地震(本震)を持たず,活動時系列が改良大森公式に従わない地震活動である.群発地震に伴い震源migration(地震活動域の時空間発展)が観測され,それらは流体圧の拡散モデルで説明可能であることが知られている.ゆえに,高圧の流体による間隙流体圧の時空間変化が群発地震の駆動に影響していると考えられている.また,群発地震の継続時間は数時間から数年と非常に多様であり,それが震源migrationの拡散係数に逆相関する可能性が報告されている(Amezawa et al., 2021).しかし,数年に渡り長期化する群発地震については観測例が少なく,長期化要因の検討は不十分であった.長期化要因の検討は群発地震のメカニズムを理解するために重要である.
2018年に能登半島北東部で発生した群発地震は,2020年12月に活発化し,発生から4年以上継続している.本群発地震の震源分布は,活動域南部のSクラスタと,そこから西・北・北東部に位置するW・N・NEクラスタに大別できる.これまでの種々の解析で,本群発地震には地殻内流体が関連している可能性が判明した(地震調査委員会「石川県能登地方における地震活動の評価」). 本研究では,高精度に再決定した震源分布に基づき,各クラスタにおける震源migrationの評価と震源分布の時空間発展の解析から,本群発地震の駆動メカニズムと長期化要因を検討した.
データ・手法
2018年–2022年6月に発生したM≥0.0の20,542地震(気象庁一元化震源)について,Double-Difference法(Waldhauser & Ellsworth, 2000)を適用して震源再決定を行った.入力データであるdifferential-timeは,気象庁検測値から作成したものと,地震波形の相互相関解析に基づいて作成したものを使用した.なお,後者にはP・S波の理論走時±1秒で切り出した上下動成分について5–10 Hzの帯域通過フィルタをかけて地震ペア毎に相互相関係数を計算し,それが6観測点以上で0.8以上のものを用いた.
震源migrationの評価は,Amezawa et al. (2021)の手法に従い,各クラスタの拡散の時空間原点をグリッドサーチしつつShapiro et al. (1997) で提案された間隙流体圧の拡散モデルを当てはめ,拡散係数を推定するという方法で行った.
結果
活動初期の初期震源に使用した地震のうち20,399地震について震源再決定することができた.震源再決定の結果,Sクラスタの震源は深さ10–15 kmにかけて円柱状に分布し,深さ15–20 kmでは円環状に分布していることや,Nクラスタ内部には約30˚で南東傾斜する長さ1 km程の面的な震源分布が複数存在すること等,これまで以上に震源分布の複雑な特徴を詳細に捉えることができた.
W・N・NEクラスタにおいて震源migrationが観測され,その拡散係数はそれぞれ0.098, 0.094, 0.12 m2/sであった.一方,Sクラスタの地震活動は複数の間欠的な活動で構成され,全体の時空間発展は一つの拡散モデルで説明できないが,間欠的な各活動について着目すると拡散的な震源migrationが確認された.
議論
地震活動の深さ方向の時間変化に着目すると,群発地震の発端となったSクラスタでは,活動開始から2020年11月頃まで震源の深さが浅くなる傾向を示す.これは,深部からの流体供給を示唆する.また,2020年12月にはSクラスタの深部15–20 kmで地震活動が発生し,拡散係数が~50 m2/sの非常に高速な震源migrationが観測された.このことは,Sクラスタ底部において高圧になっていた流体が一気に解放され,新たな流体供給路が形成されたことを示唆する.その結果,より多量の流体が供給されるようになり,間隙流体圧が本地域の最小主応力を超え,Sクラスタから他クラスタへの流体供給路が開き,他クラスタでの地震活動が発生したと考えられる.
その後,Sクラスタでは深さ15–20 kmで間欠的な地震活動が続いている.これは,クラスタ底部から定常的に流体が供給されているが,一度に他クラスタへ移動できる量が限られていることを示唆する.要因としては,封圧が高く間隙流体圧が少しでも拡散すると有効法線応力の低下が不十分となること等が考えられる.また,W・N・NEクラスタにおける震源migrationの拡散係数は比較的小さく,本群発地震域は低浸透率な環境であることが示唆される.以上から,本群発地震を長期化させている要因として,周辺への間欠的な流体移動および低浸透率な環境が考えられる.
謝辞
本研究では,気象庁一元化震源,気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・京都大学・東京大学の観測点で観測された地震波形,F-netのCMT解を使用しました.感謝いたします.
群発地震とは,群を抜いて規模の大きな地震(本震)を持たず,活動時系列が改良大森公式に従わない地震活動である.群発地震に伴い震源migration(地震活動域の時空間発展)が観測され,それらは流体圧の拡散モデルで説明可能であることが知られている.ゆえに,高圧の流体による間隙流体圧の時空間変化が群発地震の駆動に影響していると考えられている.また,群発地震の継続時間は数時間から数年と非常に多様であり,それが震源migrationの拡散係数に逆相関する可能性が報告されている(Amezawa et al., 2021).しかし,数年に渡り長期化する群発地震については観測例が少なく,長期化要因の検討は不十分であった.長期化要因の検討は群発地震のメカニズムを理解するために重要である.
2018年に能登半島北東部で発生した群発地震は,2020年12月に活発化し,発生から4年以上継続している.本群発地震の震源分布は,活動域南部のSクラスタと,そこから西・北・北東部に位置するW・N・NEクラスタに大別できる.これまでの種々の解析で,本群発地震には地殻内流体が関連している可能性が判明した(地震調査委員会「石川県能登地方における地震活動の評価」). 本研究では,高精度に再決定した震源分布に基づき,各クラスタにおける震源migrationの評価と震源分布の時空間発展の解析から,本群発地震の駆動メカニズムと長期化要因を検討した.
データ・手法
2018年–2022年6月に発生したM≥0.0の20,542地震(気象庁一元化震源)について,Double-Difference法(Waldhauser & Ellsworth, 2000)を適用して震源再決定を行った.入力データであるdifferential-timeは,気象庁検測値から作成したものと,地震波形の相互相関解析に基づいて作成したものを使用した.なお,後者にはP・S波の理論走時±1秒で切り出した上下動成分について5–10 Hzの帯域通過フィルタをかけて地震ペア毎に相互相関係数を計算し,それが6観測点以上で0.8以上のものを用いた.
震源migrationの評価は,Amezawa et al. (2021)の手法に従い,各クラスタの拡散の時空間原点をグリッドサーチしつつShapiro et al. (1997) で提案された間隙流体圧の拡散モデルを当てはめ,拡散係数を推定するという方法で行った.
結果
活動初期の初期震源に使用した地震のうち20,399地震について震源再決定することができた.震源再決定の結果,Sクラスタの震源は深さ10–15 kmにかけて円柱状に分布し,深さ15–20 kmでは円環状に分布していることや,Nクラスタ内部には約30˚で南東傾斜する長さ1 km程の面的な震源分布が複数存在すること等,これまで以上に震源分布の複雑な特徴を詳細に捉えることができた.
W・N・NEクラスタにおいて震源migrationが観測され,その拡散係数はそれぞれ0.098, 0.094, 0.12 m2/sであった.一方,Sクラスタの地震活動は複数の間欠的な活動で構成され,全体の時空間発展は一つの拡散モデルで説明できないが,間欠的な各活動について着目すると拡散的な震源migrationが確認された.
議論
地震活動の深さ方向の時間変化に着目すると,群発地震の発端となったSクラスタでは,活動開始から2020年11月頃まで震源の深さが浅くなる傾向を示す.これは,深部からの流体供給を示唆する.また,2020年12月にはSクラスタの深部15–20 kmで地震活動が発生し,拡散係数が~50 m2/sの非常に高速な震源migrationが観測された.このことは,Sクラスタ底部において高圧になっていた流体が一気に解放され,新たな流体供給路が形成されたことを示唆する.その結果,より多量の流体が供給されるようになり,間隙流体圧が本地域の最小主応力を超え,Sクラスタから他クラスタへの流体供給路が開き,他クラスタでの地震活動が発生したと考えられる.
その後,Sクラスタでは深さ15–20 kmで間欠的な地震活動が続いている.これは,クラスタ底部から定常的に流体が供給されているが,一度に他クラスタへ移動できる量が限られていることを示唆する.要因としては,封圧が高く間隙流体圧が少しでも拡散すると有効法線応力の低下が不十分となること等が考えられる.また,W・N・NEクラスタにおける震源migrationの拡散係数は比較的小さく,本群発地震域は低浸透率な環境であることが示唆される.以上から,本群発地震を長期化させている要因として,周辺への間欠的な流体移動および低浸透率な環境が考えられる.
謝辞
本研究では,気象庁一元化震源,気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・京都大学・東京大学の観測点で観測された地震波形,F-netのCMT解を使用しました.感謝いたします.