11:00 AM - 11:15 AM
[S09-06] Mechanisms that cause swarm and crustal activity occurrences since the end of 2020 in the NE Noto Peninsula from perspectives of previous studies
・はじめに
2020年末頃から始まったと考えられる能登半島の群発地震活動は、2021年9月にM5.1地震と2022年6月にM5.4地震が発生するなど、複数年に及ぶ長期的な活発な活動となっている。GNSS観測によれば、珠洲を中心に地盤の隆起が続いている。定常的な地震・地殻変動観測に加え、2021年からは様々な調査が行われ始めており、それらを統合すれば、地震発生域である深さ10km程度の場所に膨張源があり、その地殻変動に伴い地震が発生していると考えられる(第375回地震調査委員会, 2022)。現在も調査研究が進められている中で、この活動の真相に迫るには限界があるが、これまでの知見を基に、なぜ今この場所でこのような群発地震活動が発生しているのかを考察する。
・能登半島と応力場
能登半島北東部には、古第三紀漸新世から新第三紀中新世前期(約3000万年前から約1500万年前)の日本海形成期から拡大期に形成された火成岩が分布しており(産総研地質調査総合センター, 2022)、この時代の火山活動の存在が示唆されている。また重力異常の分布は火山活動によるカルデラ構造の可能性を示している(山崎・河野, 1973)。ただし現在は火山活動が認められず、火山性の地震活動も観測されていない。このような場所で地殻活動が突然始まるには、なんらかのきっかけがあったと考えられる。1993年能登半島沖地震(M6.6)や2007年能登半島地震(M6.9)の影響もありうるが、2011年東北地震(M9.0)の影響が大きいと思われる。一般的に、プレート間で発生する大地震後には、沈み込んだプレートの上に乗る大陸プレートの陸域で、火山活動が活発化することが知られている(e.g., Hill et al., 2002, PhysToday)。その活動は、地震の直後だけではなく、十年という単位で遅れを伴って活発化している。これは上部マントルの粘弾性構造の影響を受けた準静的応力変化による。2011年東北地震に伴い日本列島では地震時のみならず、地震後も粘弾性の影響を受けた余効変動が観測され続けている。能登半島のみに着目すると、東北地震前はNW-SE圧縮の逆断層型の背景応力場であったのに対し、地震時にはE-W伸張の応力変化が推定されている(e.g., Terakawa & Matsu'ura, 2013, EPSL)。粘弾性を考慮したモデル計算では、E-W伸張の応力変化が時間発展する様子が推定されている(Becker et al., 2018, EPSL)。GNSS記録から推定した歪み速度場からは、NW-SEの背景圧縮場に対し、東北地震後(2017年から2020年)はNNW-SSE圧縮かつENE-WSW伸張場に変わったことが示されている(深畑ほか, 2022, 地学雑誌)。
・能登半島の地殻活動の源
2020年末から観測されている地殻変動は、地下約10kmの場所に変動源を置くと説明できると考えられている(第375回地震調査委員会, 2022; 西村私信)。モデルとして、断層滑り、球状圧力源、開口クラックのいずれでも説明可能である。限られたGNSS観測点数のため、客観的なモデルの優位性については議論の余地が残されているものの、開口クラックモデルが最も現象を説明しやすいと考える。推定されている開口クラックモデルは、NW-SE走向のSW傾斜の形状である。これは2011年東北地震後の応力場に対して整合的である。さらに開口クラックモデルを用いて静的応力変化を計算すると、現在活発な地震活動を示している西側、北側、東側領域で正値が求まり、地震活動の増加を説明することができる。ここで応力変化の影響を受ける地震活動のメカニズムは、この地域で発生している主な地震のメカニズム(NW-SE圧縮の逆断層型)であるとし、活断層の珠洲沖セグメント延長で発生していると仮定している。
・群発地震の発生メカニズム
以上をまとめて考えると、能登半島北東部では、2011年東北地震に伴う粘弾性変形により徐々に応力場が変化し、新たに形成されたNNW-SSE圧縮応力場に対応する開口クラックが深さ10 km程度に形成された。日本海拡大期の火山活動の名残として地殻内に残留していたと考えられる流体が、減圧に伴い浮力を得て、このクラックに沿って上昇し、地殻変動をもたらした。同時に、開口クラックと流体は周囲の応力場を変化させ地震活動を誘発し、群発地震活動(西側、北側、東側領域)として観測されている。南側領域の地震活動は深さ分布が他の3領域と異なっているため、流体の上昇と、開口クラックに起因する破壊が原因と考えられる。ここで言う開口クラックモデルとは、複雑な現象を1つのモデルに単純化させたものに過ぎないことに注意が必要である。今後の地殻活動は、地下からの流体の供給やその駆動となる応力場が続く限り、継続する可能性がある。
かつての火山活動の名残として、孤立型の準火山性スロー地震活動(Aso et al., 2013, Tectonophysics)があれば、流体の存在を支持する証左となりうる。気象庁一元化震源カタログによると、これまで能登半島北東部で低周波地震は観測されていない。ヒクランギ沈み込み帯では、遠地地震波によるテクトニク微動の動的誘発の発見(Fry et al., 2010, GRL)によって、背景微動活動が見つかった例があるが、能登半島では2003年十勝沖地震、2011年東北地震の表面波による動的誘発は見つからず、また今の群発地震活動中に起きた2021年アラスカ沖の地震(Mw8.2)でも確認できなかった。一方、2011年東北地震のP波による誘発地震活動の可能性は示唆されている(Miyazawa, 2012, EPS)が、スロー地震の存在を決定づけるほどのものでもない。
謝辞:本議論にあたり、平松氏(金沢大)、飯尾氏、西村氏、深畑氏、吉村氏(京大)からコメントをいただきました。
2020年末頃から始まったと考えられる能登半島の群発地震活動は、2021年9月にM5.1地震と2022年6月にM5.4地震が発生するなど、複数年に及ぶ長期的な活発な活動となっている。GNSS観測によれば、珠洲を中心に地盤の隆起が続いている。定常的な地震・地殻変動観測に加え、2021年からは様々な調査が行われ始めており、それらを統合すれば、地震発生域である深さ10km程度の場所に膨張源があり、その地殻変動に伴い地震が発生していると考えられる(第375回地震調査委員会, 2022)。現在も調査研究が進められている中で、この活動の真相に迫るには限界があるが、これまでの知見を基に、なぜ今この場所でこのような群発地震活動が発生しているのかを考察する。
・能登半島と応力場
能登半島北東部には、古第三紀漸新世から新第三紀中新世前期(約3000万年前から約1500万年前)の日本海形成期から拡大期に形成された火成岩が分布しており(産総研地質調査総合センター, 2022)、この時代の火山活動の存在が示唆されている。また重力異常の分布は火山活動によるカルデラ構造の可能性を示している(山崎・河野, 1973)。ただし現在は火山活動が認められず、火山性の地震活動も観測されていない。このような場所で地殻活動が突然始まるには、なんらかのきっかけがあったと考えられる。1993年能登半島沖地震(M6.6)や2007年能登半島地震(M6.9)の影響もありうるが、2011年東北地震(M9.0)の影響が大きいと思われる。一般的に、プレート間で発生する大地震後には、沈み込んだプレートの上に乗る大陸プレートの陸域で、火山活動が活発化することが知られている(e.g., Hill et al., 2002, PhysToday)。その活動は、地震の直後だけではなく、十年という単位で遅れを伴って活発化している。これは上部マントルの粘弾性構造の影響を受けた準静的応力変化による。2011年東北地震に伴い日本列島では地震時のみならず、地震後も粘弾性の影響を受けた余効変動が観測され続けている。能登半島のみに着目すると、東北地震前はNW-SE圧縮の逆断層型の背景応力場であったのに対し、地震時にはE-W伸張の応力変化が推定されている(e.g., Terakawa & Matsu'ura, 2013, EPSL)。粘弾性を考慮したモデル計算では、E-W伸張の応力変化が時間発展する様子が推定されている(Becker et al., 2018, EPSL)。GNSS記録から推定した歪み速度場からは、NW-SEの背景圧縮場に対し、東北地震後(2017年から2020年)はNNW-SSE圧縮かつENE-WSW伸張場に変わったことが示されている(深畑ほか, 2022, 地学雑誌)。
・能登半島の地殻活動の源
2020年末から観測されている地殻変動は、地下約10kmの場所に変動源を置くと説明できると考えられている(第375回地震調査委員会, 2022; 西村私信)。モデルとして、断層滑り、球状圧力源、開口クラックのいずれでも説明可能である。限られたGNSS観測点数のため、客観的なモデルの優位性については議論の余地が残されているものの、開口クラックモデルが最も現象を説明しやすいと考える。推定されている開口クラックモデルは、NW-SE走向のSW傾斜の形状である。これは2011年東北地震後の応力場に対して整合的である。さらに開口クラックモデルを用いて静的応力変化を計算すると、現在活発な地震活動を示している西側、北側、東側領域で正値が求まり、地震活動の増加を説明することができる。ここで応力変化の影響を受ける地震活動のメカニズムは、この地域で発生している主な地震のメカニズム(NW-SE圧縮の逆断層型)であるとし、活断層の珠洲沖セグメント延長で発生していると仮定している。
・群発地震の発生メカニズム
以上をまとめて考えると、能登半島北東部では、2011年東北地震に伴う粘弾性変形により徐々に応力場が変化し、新たに形成されたNNW-SSE圧縮応力場に対応する開口クラックが深さ10 km程度に形成された。日本海拡大期の火山活動の名残として地殻内に残留していたと考えられる流体が、減圧に伴い浮力を得て、このクラックに沿って上昇し、地殻変動をもたらした。同時に、開口クラックと流体は周囲の応力場を変化させ地震活動を誘発し、群発地震活動(西側、北側、東側領域)として観測されている。南側領域の地震活動は深さ分布が他の3領域と異なっているため、流体の上昇と、開口クラックに起因する破壊が原因と考えられる。ここで言う開口クラックモデルとは、複雑な現象を1つのモデルに単純化させたものに過ぎないことに注意が必要である。今後の地殻活動は、地下からの流体の供給やその駆動となる応力場が続く限り、継続する可能性がある。
かつての火山活動の名残として、孤立型の準火山性スロー地震活動(Aso et al., 2013, Tectonophysics)があれば、流体の存在を支持する証左となりうる。気象庁一元化震源カタログによると、これまで能登半島北東部で低周波地震は観測されていない。ヒクランギ沈み込み帯では、遠地地震波によるテクトニク微動の動的誘発の発見(Fry et al., 2010, GRL)によって、背景微動活動が見つかった例があるが、能登半島では2003年十勝沖地震、2011年東北地震の表面波による動的誘発は見つからず、また今の群発地震活動中に起きた2021年アラスカ沖の地震(Mw8.2)でも確認できなかった。一方、2011年東北地震のP波による誘発地震活動の可能性は示唆されている(Miyazawa, 2012, EPS)が、スロー地震の存在を決定づけるほどのものでもない。
謝辞:本議論にあたり、平松氏(金沢大)、飯尾氏、西村氏、深畑氏、吉村氏(京大)からコメントをいただきました。