日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] PM-2

2022年10月24日(月) 16:00 〜 17:45 B会場 (4階(大会議室))

座長:太田 和晃(防災科学技術研究所)、馬場 慧(東京大学)

16:00 〜 16:15

[S09-10] 震源の空間分布から見る南海トラフ深部微動の存在条件

*生田 領野1、小林 ゆい2、川本 竜彦1 (1. 静岡大学理学部、2. 静岡東高等学校)

南海トラフの深部微動の震源の空間分布を沈み込むプレートの運動と形状、温度の視点から検討し、その発生条件を制約した。
 南海トラフの深部微動(≒ETS)は、カスケディア(e.g. Rogers & Dragert, 2003)、メキシコ(Husker et al. 2012)のETSと同様、巨大地震を生じる固着域のdown-dip側に帯をなして生じている。我々は南海トラフの深部微動の帯状の分布の二つの特徴に注目した。一つめはプレート境界に沿った深さのバリエーションである。微動がプレート境界で生じていると考えると、その発生帯の深さは一定ではなく、30 kmから50 km程度の範囲で地域性をもって変動することが知られている(例えばShiomi et al. 2008, Hirose et al. 2008)。二つめの特徴は空白域である。微動の帯状の分布の中で、伊勢湾と紀伊水道には微動の空白域が見られる。これらの特徴に注目して微動の発生条件を考える。  まず我々は3-Dの熱伝導、移流モデルを用い、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う温度場の計算を行った。計算には有限差分法を用い、以下の条件を採用した。1.熱は3次元の熱伝導とプレートの移動によってのみ移動し、マントルウェッジ対流は存在しない。2.プレートは一定の厚みを持った板であり、現在の形状に沿って現在のプレート収束速度で沈み込む。3.初期状態は一次元半無限冷却モデルで与える。計算の結果、微動の震央位置は、プレート境界の等深度線より等温度線(450℃から500℃)によく一致した。 プレート形状と運動からは更に、伊勢湾と紀伊水道に見られる微動の空白域について、前者は等温度線がマントルウェッジではなく大陸地殻と接すること、後者はプレートの運動方向を考慮すると空白域は狭く、微動の分布がプレート運動に直交する方向には連続している(空白域ではない)ことが示唆される。多くの先行研究が、微動を生じさせているのはスラブから特定の温度圧力条件で放出される水であることを示唆しているが(例えばYoshioka & Murakami 2007; Shelly et al. 2007; Nakajima & Hasegawa 2016等)、我々の結果は更に、水が出るのは特定の温度条件に達した一度で、水が放出された先にマントルウェッジが存在することが微動の発生条件であることを示唆している。 特定の温度圧力条件で蛇紋岩の脱水分解により放出された水がプレート境界の間隙水圧を上昇させるとすると、微動を生じるためにはマントルウェッジは水で飽和している必要がある。Wada & Wang (2009)は、西南日本の下では60 kmより浅いマントルウェッジは沈み込むプレートとデカップルしていると主張している。60 kmより浅いマントルウェッジは長時間その場に留まることで、過去にスラブから放出された水で飽和していると考えられる。他方で微動の終端である日向灘より西では、プレート境界の等温度線が深くなりマントルウェッジのデカップリングの下限を下回る。スラブから放出された水がフレッシュなマントルウェッジに吸収されれば、間隙水圧を上げることはできない。
 以上、プレート形状と運動、温度の計算から、微動が生じる条件は、特定の温度圧力条件により、スラブから水が放出されること、その水が既に飽和したマントルウェッジに供給されることであると考えられる。