日本地震学会2022年度秋季大会

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一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] AM-1

2022年10月25日(火) 09:30 〜 10:45 A会場 (1階(かでるホール))

座長:中村 衛(琉球大学)、楠城 一嘉(静岡県立大学)

09:30 〜 09:45

[S09-17] 南部沖縄トラフ中軸のb値は本当に低いか?

*中村 衛1 (1. 琉球大学理学部物質地球科学科)

南部沖縄トラフの中軸では、0.7以下の低いb値が報告されている(Arai et al., 2021EPS)。このような低いb値は、ダイク貫入による応力増加が影響していると解釈されている。しかし先行研究では、沖縄トラフ内におけるmagnitude completeness(Mc)の空間変動が考慮されていなかった。また南部沖縄トラフ付近では、気象庁の変位マグニチュード(MD)より速度マグニチュード(MV)の値が小さく決まる傾向がある。M4.0~5.0の地震でMD、MV、および防災科学技術研究所F-Netのモーメントマグニチュード(Mw)を比較すると、MDはMwより0.17大きく、MVはMwより0.63小さい。つまりMwを基準にすると、M4.0~5.0の地震に対して気象庁マグニチュード(MJ)としてMDが採用されればマグニチュードが0.17大きくなり、MVが採用されれば0.63小さくなる。結果としてM4.0~5.0の範囲の地震個数が見かけ上減少し、本来直線的であるはずのFrequency-Magnitude分布がこの範囲で下側に湾曲する。もしMcが4.0付近であった場合、湾曲の影響でb値を過小評価する可能性がある。しかし先行研究ではこの影響が補正されていない。そこでこれらを補正した上で、中南部沖縄トラフと琉球弧におけるb値の空間変化を調べた。解析には2001年から2019年までの気象庁地震カタログを使用した。Mcとb値はZMAP7(Wiemer, 2001SRL)を使用して計算した。計算はMJを使用した場合とMVを使用した場合の2種類で行った。
 計算にMVとMJのどちらを使用した場合でも、中南部沖縄トラフ中軸付近のMcは琉球弧での値(1.0~2.0)と比べて高い値(1.6~3.6)を示した。与那国リフトの東部ではMcが小さい(約1.4~2.2)。八重山リフトではMcが3.6に達する領域があった。宮古リフト(25.3°N, 125.3°E)ではMcが2.4~3.4であった。奄美大島西方ではMcは約2.0であった。各地のMcは期間を通してほぼ一定であった。しかし、群発地震発生時に、その領域でMcが増加した。宮古リフトでは2001年から2019年までのMcが2.2~2.8であった。しかし2007年群発地震のときにMcが3.3まで増加した。
 b値はMVとMJどちらを使用した場合でも八重山リフト西部を除いてほぼ同じ値を示した。MVによるb値は、南部沖縄トラフ中軸で0.7~1.2の範囲であった。与那国リフトの東部と八重山リフトの西部ではb値が0.7-0.9の範囲であった。しかし宮古リフトと八重山リフトの西側(24.8°N, 122.5°E)は、b値がやや高い傾向があった(0.8~1.2)。奄美大島西方ではb値が0.8~1.2であった。
 八重山リフト西部(25.2°N, 124.0°E)でのb値は、使用するマグニチュードによって異なった。八重山リフトの西部では、MVとMJどちらの場合でもMcの値はほぼ同じ(3.3)であった。しかし、MJを用いた場合はb値が0.4であるのに対し、MVを用いた場合のb値は0.7であった。ここは2002年10月に発生した群発地震の領域である。Mcが3.3と大きかったために、M4.0~5.0で生じるFrequency-Magnitude分布の湾曲の影響を受け、b値を過小評価した可能性がある。
 全体的に、中南部沖縄トラフ中軸付近の平均的なb値(0.90~0.92)は、琉球弧の平均的なb値(0.83~0.84)とほぼ同じ値であった。このことは南部沖縄トラフ中軸の低いb値分布は小さなMcを用いたために生じた見かけ上のことであると考える。南部沖縄トラフ中軸の群発地震発生域では、それ以外の地域と比べてMcが3.0以上である場所が多かった。南部沖縄トラフ中軸の群発地震発生域では定常状態のときMcが2.0であった。しかし群発地震活動時期(数日間)の間だけMcが3.5以上に増加した。これは群発地震が活発化した際に地震の検知能力が短期的に低下していたことが原因である。中南部沖縄トラフ中軸部でb値が低くないことは、ダイク貫入による応力増加で生じるb値低下だけでなく、それ以外の要因、例えば熱水活動によるb値増加の影響も含まれているかもしれないことを示している。