日本地震学会2022年度秋季大会

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一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] AM-1

2022年10月25日(火) 09:30 〜 10:45 A会場 (1階(かでるホール))

座長:中村 衛(琉球大学)、楠城 一嘉(静岡県立大学)

10:15 〜 10:30

[S09-20] 東北沖地震後に福島-茨城沖で多発している正断層型地震の震源分布・断層構造: sP depth-phase を用いた推定

*松本 圭晶1、吉田 圭佑1、豊国 源知1、松澤 暢1 (1. 東北大学理学研究科地震・噴火予知研究観測センター)

2011年東北地方太平洋沖地震(以降,東北沖地震)の発生後,東北日本沖合陸側プレート内では,それ以前までほとんど観測されていなかった正断層型の地震が活発に発生している.東北沖地震は,東北日本沖合陸側プレートを東西に伸長させた.Hasegawa et al. (2012) は,Moment tensor インバージョンにより得られた震源位置とメカニズム解に基づき,東北沖地震が上盤側プレート内の応力場を東西圧縮状態から東西引張状態に逆転させた可能性を指摘している.
小地震の震源分布や断層方向の情報は,断層構造や応力状態を把握するための重要な情報源である.しかしながら,海域部で発生する地震については,地震観測網が基本的に陸側のみにしか分布しないことから,地震発生位置・断層構造についての高解像度の情報を得ることが難しい.たとえば,東北沖地震後に福島-茨城沖合で発生するようになった正断層型地震を気象庁一元化震源でみると,プレート境界に共役な断層に沿って発生しているようにもみえる (Imanishi et al., 2012).しかし,この震源分布の並びが,実際の断層構造を反映しているのか,それとも震源の深さ精度による見かけのものなのかの判断は難しい.2016年以降,東日本太平洋沖では,S-netデータを用いた震源深さの推定が可能になってきているが,それ以前の地震の深さの決定精度は低いままである.本研究では,東北日本沖合,特に東北沖地震後から正断層型地震が多発している福島-茨城沖で発生した地震を対象に, depth-phase として知られている sP 波(e.g. Umino et al., 1995)を使用することで,震源の深さを高精度に推定し,上盤側プレート内で発生している正断層地震の断層構造を明らかにすることを目的とする.
最初に,福島-茨城沖合浅部で発生している地震の観測波形を目視により調べた.その結果,多くの地震に,直達P波と 直達S波の間に到着する明瞭な波が存在することが分かった.その振幅は上下動成分に卓越し,震央距離の異なる観測点でみても P波からの遅れ時間が同程度となっており,震源からの放射後に地表で反射して観測点に到達した sP波を表すと考えられる.F-net による CMT解の情報に基づき,Zhu & Rivera (2002) の code を用いて各観測点の合成波形を計算してみると,観測波形と近い時間で合成波形にも反射波が表れていることが確かめられた.本研究では,これらの sP 波を用いて,地震の震源の深さを拘束する.
福島-茨城沖で発生した F-net による CMT 解が求まっている 3.2 ≤ Mw ≤ 5 の1297イベントを対象に解析を行った.波形データとしては,S-net 設置以前から使用可能な陸上データのみを使用した.各地震に対し,観測波形の sP 波の到着時刻を最も良く説明する深さを求めた.具体的には,合成波形を計算する深さを変えながら,P波到達1s前からS波到達0.5s前までの時間窓におけるエンベロープ同士の相関値が最大となる深さを探索した.
得られた震源の深さは,気象庁一元化震源よりも10km 程度浅くなる傾向を示した.F-net で決定されている地震のセントロイドの深さは,気象庁一元化震源よりも系統的に浅い傾向があったが,本研究で推定した震源深さは,F-net による震源深さよりも系統的に深くなった.本研究で得られた震源深さの場合でも,気象庁一元化震源と同様に,正断層型地震が東側に傾斜して分布しており,この構造が,震源決定精度に由来するみかけのものでないことを示唆する.