The 2022 SSJ Fall Meeting

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Poster session (3rd Day)

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09P] AM-P

Wed. Oct 26, 2022 9:30 AM - 12:00 PM ROOM P-1 (10th floor (Conference Room 1010-1070))

9:30 AM - 12:00 PM

[S09P-09] Temporal variation in coda Q before and after the 2011 Tohoku earthquake around the Atotsugawa fault zone

*Maho Kawajiri1, Yoshihiro Hiramatsu1 (1. Kanazawa University)

はじめに
 内陸地震を発生させる応力蓄積過程の解明のために新潟から神戸にかけての歪集中帯(新潟-神戸歪集中帯)(Sagiya et al., 2000) が注目されている。Iio et al. (2002) は、高歪速度の成因として、下部地殻の低粘性率領域の存在によって歪速度が集中するweak zone model を提案した。Hiramatsu et al.(2013)はNKTZ中央部のcodaQ分布を調査し、低周波数帯のcodaQが下部地殻の変形速度の指標となり、codaQと地震の間に良い空間的相関がみられることから高歪速度帯の原因が地殻の脆性-延性遷移帯以下の高変形速度に起因する可能性を示唆している。 列島規模の変形場の変化により歪集中帯北東部のcoda Qが変化するか否かを明らかにすることは、この地域の地殻内の高変形速度領域の存在の検証に繋がり、歪集中帯の成因を考える上で重要であると考えられる。Dojo and Hiramatsu (2019)はNKTZ北東部におけるcoda Q の時空間変化を調査し、2011年東北地方太平洋沖地震前後でcoda Qの空間分布や他パラメータとの相関に有意な時間的変動は見られないと報告した。これは、高い速度での持続的な延性変形の存在が、NKTZの内陸部の高歪速度帯を発生させる主な原因である可能性が高いことを示唆している。 本研究では、NKTZ北東部と歪集中帯の成因が異なる可能性が指摘されているNKTZ中央部において2011年東北地方太平洋沖地震前後におけるcoda Qの時間変化を調査し、NKTZ中央部における歪集中帯の成因について議論を行う。

データと手法
 2008年3月から2011年12月(Period1)と2012年1月から2015年12月(Period 2)、2016年1月から2019年12月(Period 3)の3つの期間のcoda Qの時間変化を調査した。解析には防災科学技術研究所のHi-net、気象庁、国立大学の観測点を使用する。震源が30 kmより浅く、M1.8よりも大きな地震を解析対象とする。震央から30 km以内の観測点の地震波形データに一次後方散乱モデル (Aki and Chouet, 1975) を適用しcoda Qを求め、各観測点で平均をとり、coda Qの時間変化を求める。この際、局所的なイベントの影響を除去するため、デクラスター処理を行った。M3以上の地震をそれぞれ本震であると仮定し、本震からある期間、ある距離内で発生している地震を除去する。このとき、除去するイベントは本震発生から5日以内、距離については一定応力降下量(3 MPa)の円形断層モデル(Brune, 1970)から推定される震源半径の2倍とした。 この結果、Period 1-2間、Period 2-3間共にcoda Qの空間分布のパターンに系統的な変化は見られなかった。また、跡津川断層付近の15の観測点でそれぞれの期間におけるcoda Qの平均と標準偏差を求め、隣り合う2つの期間の変化量と比較した。

結果
 この結果、coda Qの減少、増加といった変化パターンが混在しており、調査領域全体で系統的な変化は見られなかった。標準偏差の値を上回るような変動を示す観測点は少数であり、Period 1-2間と2-3間で変化量などに明瞭な相違は見られなかった。さらに、coda Qの時間変化の有意性を確認するためにwelchのt検定とbootstrap法による並べ替え検定を行った。本研究では変化の有意性を判定する閾値を0.01とした。この結果、Period 1-2間では有意な変化を示す観測点が1-2 Hzで4点、2-4 Hzで5点、4-8 Hzで5点、8-16 Hzで3点、16-32Hzで2点確認された。また、Period 2-3間では1-2 Hzで2点、2-4 Hzで4点、4-8 Hzで3点、8-16 Hzで3点、16-32 Hzで3点確認された。

考察とまとめ
 今回見られたcoda Q値の変動は両解析期間における震源分布の相違のなど、局所的な要因によるものであると考えられる。また、東北地方太平洋沖地震を伴うPeriod 1-2間と大規模な地震イベントを伴わないPeriod 2-3間のcoda Qの変動に顕著な相違は見られなかった。 これらの結果から、跡津川断層帯周辺のcoda Qの空間分布は東北地方太平洋沖地震によって有意な時間変化はしていないと考えられる。これはDojo and Hiramatsu (2019)で示されたNKTZ北東部における結果と整合的である。2011年東北地方太平洋沖地震前後におけるcoda Q値が跡津川断層帯周辺全域で系統的な有意な時間変化を示さなかったことは列島規模の変形場の変化により歪集中帯中央部のcoda Qが変化していないことを示し、Hiramatsu et al. (2013) で指摘された跡津川断層帯周辺の地殻の脆性-延性遷移帯以深での高変形速度が持続的に存在し、高歪速度帯を形成していることが考えられる。

謝辞
 本研究を遂行するにあたり防災科学技術研究所、気象庁、東京大学地震研究所、京都大学防災研究所地震予知研究センターより地震波形データを提供していただきました。震源データとして気象庁の一元化カタログを利用させていただきました。記して感謝いたします。