2:00 PM - 5:30 PM
[S10P-05] Study on mitigation of earthquake disasters caused by inland active faults : Fault model improvement considering shallow geologic structure
1.はじめに
活断層による浅部地殻内地震では,断層近傍での強震動や地表変位による構造物の被害が想定される.1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震にみられるように,特に都市直下の活断層が活動した場合,その被害はきわめて甚大となる.このような都市直下の地殻内地震を対象とした防災対策を考える上では,構造物に大きな被害をもたらす要因とともに,起こり得る地震災害の種類や規模を詳細に予測することが重要となる.当研究グループは①建物に大きな被害をもたらす要因の特定,②強震動および変位の予測方法の検討,③断層近傍の地質・地盤の調査を行っている.本発表は②強震動および変位の予測方法の検討のうち,主に予測に用いる断層モデルの設定方法の改良案について報告する.
2.浅部断層構造を考慮した断層モデル(熊本地震での再現)
強震動の想定に用いる断層モデルの設定で一般的な手法は,地震発生層内を対象とするが,熊本地震後の研究では地震発生層より浅い地表面付近での長周期卓越型の強震動が断層近傍での大きな揺れに関与したことが示唆された.本研究は熊本地震を例に,断層浅部の構造を詳細にモデルに反映することで断層近傍の変位や強震動を説明できるモデルの設定方法を検討した.
予備的検討として,地震発生層上端と地表面との間の断層モデル形状が変位や強震動の予測にどのように影響するのか感度解析を行った結果,断層から離れた場所ではほとんど影響が無い一方,断層上端から数㎞のごく近傍では大きく影響することが示された.この結果から,先行研究で指摘されていた地震発生層より浅い部分での不均質性を含むすべり分布のみでなく,断層形状や構造も断層近傍の強震動や変位の予測に重要であることが示された.
予備的検討の結果をふまえて,断層モデルはKumahara et al. (2016) による地表地震断層分布から検討した断層上端形状と,Toda et al. (2016) のスリップパーティショニングを考慮した地下形状を用いることで,地質・地形情報を重視し詳細な形状や構造を反映した設定とした.
ディスロケーションモデル(Okada, 1992)を用いた変位計算の結果,布田川断層と出ノ口断層が並走する部分と益城町周辺に変位の集中がみられた.変位量は水平方向,上下方向ともに大きいところで約2mと,地殻変動観測(地理院,2016)や現地調査(Toda et al., 2016)の結果とも整合している.当グループの関連研究である吉見・遠田(2020)では建物被害の主要な要因を明らかにするため,建物被害率分布(内藤ほか,2018)と活断層分布(鈴木ほか,2017,熊原ほか,2017)や地表地震断層分布(Kumahara et al., 2016),地質図(熊本県地質図編纂委員会,2008)と比較し整理している.建物被害率が高まる箇所は断層が並走したり分岐するなど,構造が複雑になった箇所や断層の端部に集中しており,この分布の傾向は本研究の変位が集中する箇所と調和的である.この断層モデルで地震動の観測波形も説明可能であるかを確認するため,KiK-net益城での観測波形と波数積分法(久田,1997)で計算した速度波形を比較した.断層近傍において地盤の永久変位を引き起こすような長周期の地震動に着目するため,0.8Hzのローパスフィルタを適用した.比較の結果はよく一致しており,定量的な指標として相関係数を求めると,どの成分も0.9前後と高い正の相関を示した.
これらの結果から,断層ごく近傍の地震動や変位の予測には活断層調査等の地質・地形情報を参照した詳細な断層モデルを用いることが有効であることが示された.地震前に知り得る情報である活断層データと地震後の情報である地表地震断層分布はよく整合しており,活断層情報から地表地震断層はある程度は予測が可能であると言える.
3.浅部詳細断層モデルの既往活断層への展開
当研究グループでは断層近傍を対象とした強震動予測手法の高度化を目指しており,熊本地震の例で得た知見を既往の活断層に展開する.実践的な手法として検討するのに身近であり,詳細な調査が可能な活断層として宮城県の長町-利府線断層帯が挙げられる.仙台市を北東-南西方向に横切るこの断層帯は宮城県第三次地震被害想定(宮城県防災会議,2004)では長さ40㎞,幅20㎞,Mw7.14の断層モデルが想定されている.この断層モデルは40㎞の長さを1枚の矩形で近似した単純なものであるが,実際の活断層分布は並走やステップ,走向の変化を伴い複雑であり,これらを反映した断層モデルを構築する.そのため,長町-利府線断層帯の形状や構造の詳細を明らかにする研究として,地形とボーリングデータを比較し断層の位置を見直す地形学的検討(高橋・遠田,2021)や断層帯を横断する測線での常時微動探査(鈴木ほか,2021)などを実施している.分かり得る情報をモデルに反映していくことが強震動予測に重要なことであり,地震災害の予測の向上につながることであることから,活断層や地盤情報等の調査データの充実が重要である.
活断層による浅部地殻内地震では,断層近傍での強震動や地表変位による構造物の被害が想定される.1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震にみられるように,特に都市直下の活断層が活動した場合,その被害はきわめて甚大となる.このような都市直下の地殻内地震を対象とした防災対策を考える上では,構造物に大きな被害をもたらす要因とともに,起こり得る地震災害の種類や規模を詳細に予測することが重要となる.当研究グループは①建物に大きな被害をもたらす要因の特定,②強震動および変位の予測方法の検討,③断層近傍の地質・地盤の調査を行っている.本発表は②強震動および変位の予測方法の検討のうち,主に予測に用いる断層モデルの設定方法の改良案について報告する.
2.浅部断層構造を考慮した断層モデル(熊本地震での再現)
強震動の想定に用いる断層モデルの設定で一般的な手法は,地震発生層内を対象とするが,熊本地震後の研究では地震発生層より浅い地表面付近での長周期卓越型の強震動が断層近傍での大きな揺れに関与したことが示唆された.本研究は熊本地震を例に,断層浅部の構造を詳細にモデルに反映することで断層近傍の変位や強震動を説明できるモデルの設定方法を検討した.
予備的検討として,地震発生層上端と地表面との間の断層モデル形状が変位や強震動の予測にどのように影響するのか感度解析を行った結果,断層から離れた場所ではほとんど影響が無い一方,断層上端から数㎞のごく近傍では大きく影響することが示された.この結果から,先行研究で指摘されていた地震発生層より浅い部分での不均質性を含むすべり分布のみでなく,断層形状や構造も断層近傍の強震動や変位の予測に重要であることが示された.
予備的検討の結果をふまえて,断層モデルはKumahara et al. (2016) による地表地震断層分布から検討した断層上端形状と,Toda et al. (2016) のスリップパーティショニングを考慮した地下形状を用いることで,地質・地形情報を重視し詳細な形状や構造を反映した設定とした.
ディスロケーションモデル(Okada, 1992)を用いた変位計算の結果,布田川断層と出ノ口断層が並走する部分と益城町周辺に変位の集中がみられた.変位量は水平方向,上下方向ともに大きいところで約2mと,地殻変動観測(地理院,2016)や現地調査(Toda et al., 2016)の結果とも整合している.当グループの関連研究である吉見・遠田(2020)では建物被害の主要な要因を明らかにするため,建物被害率分布(内藤ほか,2018)と活断層分布(鈴木ほか,2017,熊原ほか,2017)や地表地震断層分布(Kumahara et al., 2016),地質図(熊本県地質図編纂委員会,2008)と比較し整理している.建物被害率が高まる箇所は断層が並走したり分岐するなど,構造が複雑になった箇所や断層の端部に集中しており,この分布の傾向は本研究の変位が集中する箇所と調和的である.この断層モデルで地震動の観測波形も説明可能であるかを確認するため,KiK-net益城での観測波形と波数積分法(久田,1997)で計算した速度波形を比較した.断層近傍において地盤の永久変位を引き起こすような長周期の地震動に着目するため,0.8Hzのローパスフィルタを適用した.比較の結果はよく一致しており,定量的な指標として相関係数を求めると,どの成分も0.9前後と高い正の相関を示した.
これらの結果から,断層ごく近傍の地震動や変位の予測には活断層調査等の地質・地形情報を参照した詳細な断層モデルを用いることが有効であることが示された.地震前に知り得る情報である活断層データと地震後の情報である地表地震断層分布はよく整合しており,活断層情報から地表地震断層はある程度は予測が可能であると言える.
3.浅部詳細断層モデルの既往活断層への展開
当研究グループでは断層近傍を対象とした強震動予測手法の高度化を目指しており,熊本地震の例で得た知見を既往の活断層に展開する.実践的な手法として検討するのに身近であり,詳細な調査が可能な活断層として宮城県の長町-利府線断層帯が挙げられる.仙台市を北東-南西方向に横切るこの断層帯は宮城県第三次地震被害想定(宮城県防災会議,2004)では長さ40㎞,幅20㎞,Mw7.14の断層モデルが想定されている.この断層モデルは40㎞の長さを1枚の矩形で近似した単純なものであるが,実際の活断層分布は並走やステップ,走向の変化を伴い複雑であり,これらを反映した断層モデルを構築する.そのため,長町-利府線断層帯の形状や構造の詳細を明らかにする研究として,地形とボーリングデータを比較し断層の位置を見直す地形学的検討(高橋・遠田,2021)や断層帯を横断する測線での常時微動探査(鈴木ほか,2021)などを実施している.分かり得る情報をモデルに反映していくことが強震動予測に重要なことであり,地震災害の予測の向上につながることであることから,活断層や地盤情報等の調査データの充実が重要である.