日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

[S10P] PM-P

2022年10月25日(火) 14:00 〜 17:30 P-4会場 (10階(1010〜1070会議室))

14:00 〜 17:30

[S10P-07] 1914年桜島地震に伴う津波の原因についての考察

*小林 励司1 (1. 鹿児島大学)

はじめに
 1914年1月12日10時過ぎ、桜島の大正噴火と呼ばれる噴火が始まった。約8時間後の18時28分頃、噴火が継続している中、マグニチュード(M)7.1の地震が発生した(1914年桜島地震と呼ぶ)。1914年桜島地震に伴って、小津波があった。筆者はこれまでこの小津波の記述を整理した。その結果、津波は、(当時の)鹿児島港付近、谷山村、西桜島村の沿岸で目撃され、それ以外の鹿児島湾沿岸では目撃されていないことが分かった。津波は、鹿児島港付近と西桜島村で船を壊すほどであったが、谷山村では船を壊すほどではなかった。このことから、津波の波源は桜島と薩摩半島の間と推定された。津波は、本震直後(以降、直後の津波と呼ぶ)と、本震から20分後または1時間~1時間半後(以降、後から来た津波と呼ぶ)に目撃されている。
 本発表では、これらの津波の原因を考察する。地震に伴う津波の原因として事例が多いのは、断層運動による海底の地殻変動である。一方、津波の発生原因は地滑りや火山活動に関連するものなどもある。これらを含めて検討した。

津波の原因
 桜島地震の津波については、原因の候補として、地震による海底地殻変動、地滑り、火砕流、マグマだまりの収縮による地殻変動、が挙げられる。
 地震による海底地殻変動については、M7.1であることと、震源が津波波源に近いこと、震源が浅いことから、十分に津波の原因になりうる。直後の津波については整合的である。しかし、後から来た津波については時間が合わない。
 津波の第1波よりも、第2波等の後続波が大きくなることがある。この津波の場合、後続波が高くなるためには、鹿児島湾全体での反射や屈折が必要になる。しかし、鹿児島港付近、谷山村、西桜島村以外では津波が目撃されていない。したがって、鹿児島湾全体で反射や屈折をした可能性は低く、遅れてきた津波が後続波である可能性は低い。
 後から来た津波は余震によって起こる可能性もある。しかし、後から来た津波の方が直後の津波より高いことから、本震直後よりも海底の上下変動が大きい地震である必要がある。Omori (1920) によると、この時間帯では20時11分に震度slight(微)の余震が観測されている。普通の地震であれば、マグニチュードは本震よりも小さく、海底の上下変動も小さいと思われる。津波地震の可能性は考えられる。しかし、本震から1時間42分後であり、津波の目撃が「1時間~1時間半後」であることを考えると少し遅い。
 本震で誘発された地滑りについては、海底地滑りと、海岸での地滑りの海域への流入が考えられる。桜島地震では、内陸では地滑りが起こったことが知られている[例えば、鹿兒嶋新聞記者十餘名共纂 (1914)]。しかし、海底地滑りや海岸での地滑りについては知られていない。鹿児島市の北の吉野村沿岸で小規模な崖崩れはあった。ここは姶良カルデラ壁であり、急峻な崖になっている。確認されている石の大きさは「三百才」(約8 m^3)[九州鐵道管理局 (1914)]程度である。仮にこれらが海中に落下しても、鹿児島港付近や西桜島村沿岸で船を破壊するほどの津波が生じる可能性は低いだろう。
 海底での地滑りについては、調査が不十分であるために、知られていない可能性はある。もし、本震で誘発された海底地滑りが原因であった場合、直後の津波には整合的であるものの、遅れてきた津波には時間が合わない。遅れてきた津波については、大きな余震によって誘発された海底地滑りであれば、時間は合う。しかし、先述の震度slightの余震が観測されているのみで、海底地滑りが誘発されるとは思えない。
 火砕流によっても津波が生じることが知られている。安井・他 (2006) によると13日20時14分に最大規模の噴火(火砕流)とある。しかし、この時刻に津波の目撃証言はない。津波の目撃証言のある12日の18時半頃から20時頃までの間だけ津波が生じたというのは不自然であろう。
 マグマだまりが収縮し、それに伴って地殻変動が起こり、津波の原因となったことも考えられる。ただし、この地殻変動自体が、桜島地震本震発生の原因となっている可能性もある。もし、本震が地殻変動によるものであれば、本震直後の津波については、その原因が地殻変動か、本震による断層運動か、の区別がつかない。
 遅れてきた津波については、問題は、津波を起こす程度の急激な地殻変動で地震波がでないかということである。先述の20時11分の余震はこれに相当する可能性もあるが、時間が少し遅い。あるいは地震波をほとんど放射しない程度にゆっくり、しかし津波を発生される程度には急激に変動した可能性も考えられる。