日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S12. 岩石実験・岩石力学・地殻応力

[S12] PM-2

2022年10月24日(月) 15:45 〜 17:15 D会場 (5階(520研修室))

座長:川方 裕則、小村 健太朗(防災科学技術研究所)

15:45 〜 16:00

[S12-01] 大阪平野下基盤における原位置地殻応力(5)-岩石コアを用いた原位置応力測定の意義-

*小村 健太朗1、船戸 明雄2、伊藤 高敏3 (1. 防災科学技術研究所 地震津波防災研究部門、2. 深田地質研究所、3. 東北大学流体科学研究所)

日本列島の原位置の絶対応力に関するデータ,特に深さ500mを越える深部データは,陸域においても,数少ない状況にあるなか,掘削で採取された既存の岩石コアを用いた地殻応力測定法を適用し,信頼性の高い地殻応力データをはばひろく取得することを目指してきた.本発表では,防災科学技術研究所の,大阪平野にある深層地殻活動観測井における一連の原位置地殻応力測定の結果を報告する.本観測井では,ボアホールテレビュア検層による,ボアホールブレイクアウトの観察から,応力方位を推定し,Funato and Ito (2017, IJRMMS)で設計され,防災科研に整備された装置でコア形状を計測し,コア変形法(DCDA法, Diametrical Core Deformation Analysis法)を適用して応力値を推定した.コア変形法では,地下深部から採取された岩石コアが,応力解放により弾性変形(膨張)することから,その変形量を計測し,岩石の弾性定数と掛け合わせて応力値を推定する.先行研究により,1000mを超えるような深部岩石コアでは,採取後の弾性変形が大きく,コア変形法の適用できることが示されている.
今回の例では大阪府の此花観測井(北緯34°39'45.92",東経135°23'22.53",掘削深度約2033m)の基盤に達する深度2035.5mコアと田尻観測井(北緯34°23'52.14",東経135°17'01.24",掘削深度約1532m)の同じく基盤となる深度1202.4mおよび1494.8mコアを用いた.採取後,15年以上経過したものではあるが,外周にそって直径がサインカーブ状に変化し,岩石コア断面が応力開放にともない楕円状に弾性変形していることが示され,コア変形法の適用可能と判断した.一方,外周を測った岩石コアそのもの,ないし,隣接する岩石コアを円盤状に切断し,地盤工学会基準JGS 2551-2009「圧裂による岩石の引張り強さ試験方法」に準拠して荷載し,引張破壊に至る前の弾性変形をひずみゲージで計測して,ヤング率とポアソン比を求めた.応力解放に伴う半径方向の弾性変形量と弾性定数をコア変型法の理論式にあてはめて,応力値を求めたところ,60 MPaから100MPaとなる差応力値となった.この値は,近畿周辺における,応力解放法,水圧破砕法等の孔井内原位置地殻応力測定の結果と比べて,大きな値となっているが,栃木県足尾,兵庫県猪名川といった,群発地震の活発な地点における差応力値と同等にもみえる.大きな差応力に意味があるかどうか,さらに周辺の観測井コアのコア変形法による応力値とも比較しながら,考えていく必要がある.一方,ボアホールブレイクアウトから求まった応力方位は,周辺の広域応力方位に整合的で,水平最大圧縮応力方位は,ほぼE-W方向となった.1995年兵庫県南部地震のあと,地震時に活動した野島断層周辺では,地震前後で応力方位が変化する測定例があったが,ここでは,断層からの距離が遠く,有意な方位の変化はみられなかった.
本測定例では,岩石コアの採取深度が1000mを越える深部であったことから,コア変形法により有意な応力値が得られ,周辺の応力測定結果とあわせて,広域応力分布について,今後の議論に活用できるものと考えられる.さらに,過去の孔井掘削の岩石コアを活用した原位置応力測定事例の増えることが期待される.