16:45 〜 17:00
[S12-05] 円筒形試料内で発生するAE震源の絶対位置精度を評価するための弾性波透過実験
§はじめに
地震について理解するために岩石を用いた室内実験は古くから行われてきた(例えば,Mogi, 1962).圧縮破壊実験では,自然地震に比べると規模ははるかに小さいが,震源近傍の媒質の弾性特性等の時間変化を観測できる点や,地震の疑似現象としてのせん断破壊の一生を一般的な自然地震の発生周期に比べてはるかに短い期間で観察できる点が特徴として挙げられる.また,破壊の進展を制御することが可能(例えば,Lockner et al., 1991; Yoshimitsu et al., 2009)であり,自然地震では観察することが困難な岩石の破壊面の観察(例えば,Moore and Lockner, 1995)や,X線CTスキャンを用いた岩石内部の状態の観察(例えば,Kawakata et al., 1999)等を容易に行うことが出来る.Yoshimitsu et al. (2014)は円筒形のWesterly花崗岩を用いた破壊実験を行い,6794個のAEの震源決定を行うとともに,地震モーメントとコーナー周波数を推定し,自然地震との類似性を示した.
断層に相当する破壊面及びその周囲でどのように微小破壊が発生するかを,震源分布の時空間発展から調べることは破壊準備や進展について理解する上で非常に重要であり,破壊進展との関係を調べるためには AE震源の絶対位置精度についても評価する必要がある.しかし,先行研究においてAE震源の絶対位置精度については議論がなされていない.天然試料内に震源を設置し,震源決定を行う事は困難であるが,アナログ試料であれば作成が可能であり実験を行うことが出来る.そこで,本研究では円筒形のアナログ試料内に震源を埋設して弾性波透過実験を行い,AE震源の絶対位置精度を評価した.
§実験方法
アナログ試料としてモルタルを使用して成型することで,試料内部に震源を設置することが可能となる.しかし,一般的なPZT素子は直径5 mm程度以上あり試料内に埋め込むと試料に対して震源が大きすぎるため適切な評価が実施できない.そこで,本研究では,太さ1.45mmの釘を試料内に埋設し,釘の頭部にPZT素子を貼り釘の先端から弾性波を放射することで,釘の先端部が震源として推定されるか検証した.しかし,釘の全体がモルタルに埋まっていると,釘全体が震源となってしまうため,ストローの中に釘を通し,釘の先端以外はモルタルに接触していない試料を作成した.この際,ストローの先端にはパテを詰めることで,モルタルがストロー内を逆流して釘の先端以外がモルタルに埋設されてしまうことを防いでいる(写真1).このようにして,釘の先端2 mmが試料中心付近に埋設されている円筒形試料(直径51.3 mm,高さ93.4 mm)を作成した(写真2).図1に予備実験の際に使用した試料のCT画像を示した.ただし予備実験では,太さ2.7 mmの釘を使用した.
弾性波計測には,センサとして広帯域トランスデューサを8つ(TR1~TR8)使用し,試料の側面にエレクトロンワックスで貼り付けた.釘頭部のPZTに矩形の電気信号を繰り返し与えて弾性波を放射し,サンプリング周波数は20 Msps,スタック回数は400回で記録した.
§結果
予備実験として試料表面に配置したトランスデューサのひとつを震源とした弾性波透過試験を実施してP波速度を推定した結果,3700 m/sであった.P波速度,センサ座標,初動到達時刻から,震源決定を行った(図2).ジャックナイフ法により,震源決定に使用するセンサを8つ,7つ,6つのすべての組み合わせとして合計で37通りの震源を求めた.TR2とTR6を除いた6つのセンサで震源決定を行った場合のみ,釘の先端から大きく外れた震源決定結果となった.これは,TR2とTR6を除いたことにより,x軸方向正かつy軸方向負の位置と,x軸方向負かつy軸方向正の位置にセンサがなくなり,センサ配置に偏りが出来たことによると考えられる(図2右).TR2とTR6以外の6センサから求めた値を除いて推定された36通りの結果において,釘の埋設している部分の中心部からx方向へのずれの平均は0.6 mm,標準偏差は1.2 mm,y方向へのずれの平均は-0.6 mm,標準偏差は1.2 mm,z方向へのずれの平均は-0.6 mm,標準偏差は0.7 mmとなった.震源分布は,x方向には系統的に正に,y方向z方向には系統的に負にずれた結果となった.また,x方向y方向へのずれの標準偏差は釘の太さよりも大きい結果となり,z方向へのずれの標準偏差は釘の埋設部より小さい値となったが,センサ配置に大きな偏りがない限りは,真の震源に対して数mm以内に震源が推定できることが分かった.
謝辞:本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けた.
地震について理解するために岩石を用いた室内実験は古くから行われてきた(例えば,Mogi, 1962).圧縮破壊実験では,自然地震に比べると規模ははるかに小さいが,震源近傍の媒質の弾性特性等の時間変化を観測できる点や,地震の疑似現象としてのせん断破壊の一生を一般的な自然地震の発生周期に比べてはるかに短い期間で観察できる点が特徴として挙げられる.また,破壊の進展を制御することが可能(例えば,Lockner et al., 1991; Yoshimitsu et al., 2009)であり,自然地震では観察することが困難な岩石の破壊面の観察(例えば,Moore and Lockner, 1995)や,X線CTスキャンを用いた岩石内部の状態の観察(例えば,Kawakata et al., 1999)等を容易に行うことが出来る.Yoshimitsu et al. (2014)は円筒形のWesterly花崗岩を用いた破壊実験を行い,6794個のAEの震源決定を行うとともに,地震モーメントとコーナー周波数を推定し,自然地震との類似性を示した.
断層に相当する破壊面及びその周囲でどのように微小破壊が発生するかを,震源分布の時空間発展から調べることは破壊準備や進展について理解する上で非常に重要であり,破壊進展との関係を調べるためには AE震源の絶対位置精度についても評価する必要がある.しかし,先行研究においてAE震源の絶対位置精度については議論がなされていない.天然試料内に震源を設置し,震源決定を行う事は困難であるが,アナログ試料であれば作成が可能であり実験を行うことが出来る.そこで,本研究では円筒形のアナログ試料内に震源を埋設して弾性波透過実験を行い,AE震源の絶対位置精度を評価した.
§実験方法
アナログ試料としてモルタルを使用して成型することで,試料内部に震源を設置することが可能となる.しかし,一般的なPZT素子は直径5 mm程度以上あり試料内に埋め込むと試料に対して震源が大きすぎるため適切な評価が実施できない.そこで,本研究では,太さ1.45mmの釘を試料内に埋設し,釘の頭部にPZT素子を貼り釘の先端から弾性波を放射することで,釘の先端部が震源として推定されるか検証した.しかし,釘の全体がモルタルに埋まっていると,釘全体が震源となってしまうため,ストローの中に釘を通し,釘の先端以外はモルタルに接触していない試料を作成した.この際,ストローの先端にはパテを詰めることで,モルタルがストロー内を逆流して釘の先端以外がモルタルに埋設されてしまうことを防いでいる(写真1).このようにして,釘の先端2 mmが試料中心付近に埋設されている円筒形試料(直径51.3 mm,高さ93.4 mm)を作成した(写真2).図1に予備実験の際に使用した試料のCT画像を示した.ただし予備実験では,太さ2.7 mmの釘を使用した.
弾性波計測には,センサとして広帯域トランスデューサを8つ(TR1~TR8)使用し,試料の側面にエレクトロンワックスで貼り付けた.釘頭部のPZTに矩形の電気信号を繰り返し与えて弾性波を放射し,サンプリング周波数は20 Msps,スタック回数は400回で記録した.
§結果
予備実験として試料表面に配置したトランスデューサのひとつを震源とした弾性波透過試験を実施してP波速度を推定した結果,3700 m/sであった.P波速度,センサ座標,初動到達時刻から,震源決定を行った(図2).ジャックナイフ法により,震源決定に使用するセンサを8つ,7つ,6つのすべての組み合わせとして合計で37通りの震源を求めた.TR2とTR6を除いた6つのセンサで震源決定を行った場合のみ,釘の先端から大きく外れた震源決定結果となった.これは,TR2とTR6を除いたことにより,x軸方向正かつy軸方向負の位置と,x軸方向負かつy軸方向正の位置にセンサがなくなり,センサ配置に偏りが出来たことによると考えられる(図2右).TR2とTR6以外の6センサから求めた値を除いて推定された36通りの結果において,釘の埋設している部分の中心部からx方向へのずれの平均は0.6 mm,標準偏差は1.2 mm,y方向へのずれの平均は-0.6 mm,標準偏差は1.2 mm,z方向へのずれの平均は-0.6 mm,標準偏差は0.7 mmとなった.震源分布は,x方向には系統的に正に,y方向z方向には系統的に負にずれた結果となった.また,x方向y方向へのずれの標準偏差は釘の太さよりも大きい結果となり,z方向へのずれの標準偏差は釘の埋設部より小さい値となったが,センサ配置に大きな偏りがない限りは,真の震源に対して数mm以内に震源が推定できることが分かった.
謝辞:本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けた.