11:30 〜 11:45
[S13-03] 能登半島群発地震の震源域周辺におけるS波偏向異方性
2018年6月頃から,能登半島北東部において群発地震活動が始まり,この群発地震活動は現在も継続している.さらに,2020年12月から珠洲GNSS観測点において,約2cmを超える隆起が観測されており,西村(2022)は,深さ約14kmの球状圧力源でこの隆起変動が説明できるとしている.これらの群発地震活動や地殻変動は,珠洲近傍での地殻流体の存在(移動)を示唆している.このような地殻流体の存在や移動による現象の解明は,地震発生場の理解や地質環境長期安定性評価技術の開発などにとって重要である.
断層のような不均質構造や地殻流体の検出に有用なツールの1つとしては,S波スプリッティング解析がよく知られている.そこで本研究では,能登半島群発地震の震源域付近の常設地震観測点で記録された連続地震波形データを用いたS波スプリッティング解析を行うことにより,領域内のS波偏向異方性の推定を試みた.
解析にあたっては,気象庁一元化震源カタログから,解析対象領域内で2004年4月1日から2022年5月31日までに発生したMj1.0以上の地震8384個(深さ20km以下)を選んだ.これらの地震について,群発地震域周辺に展開されている常設地震観測点(Hi-net,気象庁)で観測された連続波形データを用いた.はじめに,Matsubara et al. (2019)による地震波速度構造を用いて,各観測点における1次元速度構造を仮定した.この仮定した速度構造と気象庁一元化震源から,それぞれのイベントによる各観測点に到来する地震波の入射角を推定し,入射角35度未満の震源-観測点ペアのみに解析対象を限定した.これは,入射角が高角度な場合に生じうる,地表でのS-P変換波の影響(e.g., Booth and Crampin, 1985)を排除するためである.入射角35度未満の観測点-震源ペアについて,Silver and Chan (1991)の手法を適用して,速いS波の偏向方向および,速いS波と遅いS波とのarrival timeの差を推定した.
上述の解析の結果,群発地震の震源域内に位置する観測点N.SUZHでは,概ね北東-南西方向の速いS波の偏向方向が観測され,群発地震の震源域の東に位置する観測点SUZUでは,南東-北西方向の速いS波の偏向方向が観測された.観測点SUZUの偏向方向は,この領域周辺の最大水平圧縮応力の方向(e.g., Hiramatsu et al., 2015)と概ね平行であることから,stress-induced anisotropyを反映していると考えられる.一方で,観測点N.SUZHの速いS波の偏向方向は,最大水平圧縮応力の方向とは大きく異なる.能登半島北岸沖には,概ね海岸線と平行な走向の活断層が示されている(岡村ほか, 2010).その活断層の走向方向と本研究で得られた速いS波の偏向方向が調和的であることから,この観測点N.SUZHで得られた速いS波の偏向方向は,structure-induced anisotropyを反映していると考えられる.
群発地震の震源域の直上に位置する観測点N.SUZHでは,多くのイベントについて速いS波の偏向方向が推定できた.そこで,いくつかの期間に分割してみた.例えば,2022年3月の1ヶ月間での平均方位は76˚であったが,2022年4月の平均方位は70˚であり,2022年5月の平均方位は76˚であった.これらの3つの期間について,t検定を行ったところ,3月と4月の平均方位が等しいという帰無仮説は有意水準5%で棄却され,4月と5月の平均方位が等しいという帰無仮説も有意水準5%で棄却された(なお,3月と5月の平均方位が等しいという帰無仮説は有意水準5%で棄却されなかった).この平均方位の変動については,いくつかのモデルが考えられるが,間隙流体圧の変化が原因であると考えている.
謝辞: 本研究では,防災科学技術研究所 Hi-netならびに気象庁地震・津波検知網の地震波形データを使用させていただきました.また,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
断層のような不均質構造や地殻流体の検出に有用なツールの1つとしては,S波スプリッティング解析がよく知られている.そこで本研究では,能登半島群発地震の震源域付近の常設地震観測点で記録された連続地震波形データを用いたS波スプリッティング解析を行うことにより,領域内のS波偏向異方性の推定を試みた.
解析にあたっては,気象庁一元化震源カタログから,解析対象領域内で2004年4月1日から2022年5月31日までに発生したMj1.0以上の地震8384個(深さ20km以下)を選んだ.これらの地震について,群発地震域周辺に展開されている常設地震観測点(Hi-net,気象庁)で観測された連続波形データを用いた.はじめに,Matsubara et al. (2019)による地震波速度構造を用いて,各観測点における1次元速度構造を仮定した.この仮定した速度構造と気象庁一元化震源から,それぞれのイベントによる各観測点に到来する地震波の入射角を推定し,入射角35度未満の震源-観測点ペアのみに解析対象を限定した.これは,入射角が高角度な場合に生じうる,地表でのS-P変換波の影響(e.g., Booth and Crampin, 1985)を排除するためである.入射角35度未満の観測点-震源ペアについて,Silver and Chan (1991)の手法を適用して,速いS波の偏向方向および,速いS波と遅いS波とのarrival timeの差を推定した.
上述の解析の結果,群発地震の震源域内に位置する観測点N.SUZHでは,概ね北東-南西方向の速いS波の偏向方向が観測され,群発地震の震源域の東に位置する観測点SUZUでは,南東-北西方向の速いS波の偏向方向が観測された.観測点SUZUの偏向方向は,この領域周辺の最大水平圧縮応力の方向(e.g., Hiramatsu et al., 2015)と概ね平行であることから,stress-induced anisotropyを反映していると考えられる.一方で,観測点N.SUZHの速いS波の偏向方向は,最大水平圧縮応力の方向とは大きく異なる.能登半島北岸沖には,概ね海岸線と平行な走向の活断層が示されている(岡村ほか, 2010).その活断層の走向方向と本研究で得られた速いS波の偏向方向が調和的であることから,この観測点N.SUZHで得られた速いS波の偏向方向は,structure-induced anisotropyを反映していると考えられる.
群発地震の震源域の直上に位置する観測点N.SUZHでは,多くのイベントについて速いS波の偏向方向が推定できた.そこで,いくつかの期間に分割してみた.例えば,2022年3月の1ヶ月間での平均方位は76˚であったが,2022年4月の平均方位は70˚であり,2022年5月の平均方位は76˚であった.これらの3つの期間について,t検定を行ったところ,3月と4月の平均方位が等しいという帰無仮説は有意水準5%で棄却され,4月と5月の平均方位が等しいという帰無仮説も有意水準5%で棄却された(なお,3月と5月の平均方位が等しいという帰無仮説は有意水準5%で棄却されなかった).この平均方位の変動については,いくつかのモデルが考えられるが,間隙流体圧の変化が原因であると考えている.
謝辞: 本研究では,防災科学技術研究所 Hi-netならびに気象庁地震・津波検知網の地震波形データを使用させていただきました.また,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.