9:30 AM - 9:45 AM
[S14-01] On the Brownian passage time distribution model of refinement for the Kanto M8 class recurrent paleoearthquakes
はじめに
政府地震調査委員会(以後 地震調査委員会,2014)は,相模トラフ沿いに発生する関東M8級地震の地震確率をParsons (2008, JGR)に倣った方法で評価している.Parsons (2008)の方法はOgata (1999, JGR)の式と同等であり,Brownian Passage Time (BPT)分布のばらつきをあらわすパラメータ(以後ばらつき)が小さく偏る[井元他(2022a, 地震; 2022b, Jpgu)].井元他(2021年度地震学会)は,古地震時系列から想定される全ての地震間隔に基づく尤度幾何平均による最尤法を提案している.これに従えば,平均間隔362.5年ばらつき0.49となる.しかしながら,用いた古地震時系列には不確定期間が連続する部分が含まれ,極端に短い地震間隔を反映してばらつきがやや大きくなっている.本報告では,不確定期間の連続部分について尤度式を見直しデータを忠実に反映したばらつき値を求める,また,関東M8級地震については歴史地震も存在するので,古地震時系列と歴史地震時系列を同時に解析した結果も紹介する.
BPT分布の尤度幾何平均
井元他(2022a)によると,古地震時系列に対する更新過程モデルの尤度幾何平均は(1)式(表1)で与えられる.ここで,(ai,bi)は地震発生年の不確定期間で,各発生年はそれぞれの不確定期間で一様に分布すると仮定している.被積分関数の対数を対数の和に置換え,自明な積分を実行して(2)式を得る.この式では,地震間隔毎に対数尤度が平均され,その後全間隔の和を求めている.地震間隔がBPT分布に従う場合,確率密度関数は(3)式となる.モデルパラメータμ および αをそれぞれ平均間隔およびばらつきと呼ぶ.同一のBPT分布に従う独立な2個の地震間隔の和dは,μ2=2μ α2=α/√2をモデルパラメータとするBPT分布(4)式に従う.これを用いて(2)式を変形して地震発生年を特定しない場合を含む式を導くことができる.m 個の地震間隔のうち, j番目の間隔が発生年を特定できない地震1個を含む地震間隔とする.このとき,最尤推定値は,(5),(6)式で表される. ここで, 地震間隔および逆数の平均は(7),(8) で表される.
関東M8級地震
ここでは,地震調査委員会(2014)に記載された古地震時系列を採用する(表2).9個の古地震うち3番の地震が,前後の地震(2番,4番)から発生期間が与えられている.表2の〇印はモデルパラメータ推定に用いた地震であり,下段に各Data set に対する尤度幾何平均による最尤推定値が与えられている.Data set Aの計算では表2にある3番地震の不確定期間をそのまま用いている.Data set Bから Data set Eでは,3番地震の発生年を特定せず2個の地震間隔の和として2番と4番の発生間隔を用いている.
各不確定期間で発生年を無作為に選んだ時系列(モンテカルロ時系列,10000個)から得たばらつきの累積分布を図1に示す.Data set Aは青で Data set Bは赤で印されている.0.1~0.9の範囲で0.1刻み(+印)で値を得ている.0.5におけるばらつきが中央値を表す.その右隣の縦線は尤度幾何平均によるばらつき(表2)である.Data set Aではモンテカルロ時系列の中央値と表2の最尤推定値との間に一定の差が見られるが,Data set B ではその差が縮小している.両者の0.9 (90%)点を比べるとData set A では80%点に比べ大きく右に湾曲していて,ばらつきの大きい時系列の存在が示唆される.これに対しSet Bでは,極端に短い地震間隔が含まれないためばらつきが抑えられている.尤度幾何平均の最尤推定値は,想定される全ての地震間隔が再現する場合の対数尤度期待値が最も大きいモデルであり(2022b),モンテカルロ時系列の中央値とは違った意味を持つ.
図2 は地震発生後500年間における条件付き30年確率の推移を表す.Data set A, Data set B の他に,Parsons (2008)で得られた値 (ERC)を比較する.経過年 0~250年ではばらつきの大きい方が30年確率は大きくなるが,およそ250年以後では逆転する.今回新たに得られた値Data set Bによると,大正関東地震からほぼ100年が経過し30年確率が徐々に増加する段階に差し掛かったと云える.歴史地震を含めた場合のばらつきはData set Bの0.40にほぼ等しい(表2)が,平均間隔がData set Bより短いので,100年経過時点での30年確率値はData set Bより大きくなる.
政府地震調査委員会(以後 地震調査委員会,2014)は,相模トラフ沿いに発生する関東M8級地震の地震確率をParsons (2008, JGR)に倣った方法で評価している.Parsons (2008)の方法はOgata (1999, JGR)の式と同等であり,Brownian Passage Time (BPT)分布のばらつきをあらわすパラメータ(以後ばらつき)が小さく偏る[井元他(2022a, 地震; 2022b, Jpgu)].井元他(2021年度地震学会)は,古地震時系列から想定される全ての地震間隔に基づく尤度幾何平均による最尤法を提案している.これに従えば,平均間隔362.5年ばらつき0.49となる.しかしながら,用いた古地震時系列には不確定期間が連続する部分が含まれ,極端に短い地震間隔を反映してばらつきがやや大きくなっている.本報告では,不確定期間の連続部分について尤度式を見直しデータを忠実に反映したばらつき値を求める,また,関東M8級地震については歴史地震も存在するので,古地震時系列と歴史地震時系列を同時に解析した結果も紹介する.
BPT分布の尤度幾何平均
井元他(2022a)によると,古地震時系列に対する更新過程モデルの尤度幾何平均は(1)式(表1)で与えられる.ここで,(ai,bi)は地震発生年の不確定期間で,各発生年はそれぞれの不確定期間で一様に分布すると仮定している.被積分関数の対数を対数の和に置換え,自明な積分を実行して(2)式を得る.この式では,地震間隔毎に対数尤度が平均され,その後全間隔の和を求めている.地震間隔がBPT分布に従う場合,確率密度関数は(3)式となる.モデルパラメータμ および αをそれぞれ平均間隔およびばらつきと呼ぶ.同一のBPT分布に従う独立な2個の地震間隔の和dは,μ2=2μ α2=α/√2をモデルパラメータとするBPT分布(4)式に従う.これを用いて(2)式を変形して地震発生年を特定しない場合を含む式を導くことができる.m 個の地震間隔のうち, j番目の間隔が発生年を特定できない地震1個を含む地震間隔とする.このとき,最尤推定値は,(5),(6)式で表される. ここで, 地震間隔および逆数の平均は(7),(8) で表される.
関東M8級地震
ここでは,地震調査委員会(2014)に記載された古地震時系列を採用する(表2).9個の古地震うち3番の地震が,前後の地震(2番,4番)から発生期間が与えられている.表2の〇印はモデルパラメータ推定に用いた地震であり,下段に各Data set に対する尤度幾何平均による最尤推定値が与えられている.Data set Aの計算では表2にある3番地震の不確定期間をそのまま用いている.Data set Bから Data set Eでは,3番地震の発生年を特定せず2個の地震間隔の和として2番と4番の発生間隔を用いている.
各不確定期間で発生年を無作為に選んだ時系列(モンテカルロ時系列,10000個)から得たばらつきの累積分布を図1に示す.Data set Aは青で Data set Bは赤で印されている.0.1~0.9の範囲で0.1刻み(+印)で値を得ている.0.5におけるばらつきが中央値を表す.その右隣の縦線は尤度幾何平均によるばらつき(表2)である.Data set Aではモンテカルロ時系列の中央値と表2の最尤推定値との間に一定の差が見られるが,Data set B ではその差が縮小している.両者の0.9 (90%)点を比べるとData set A では80%点に比べ大きく右に湾曲していて,ばらつきの大きい時系列の存在が示唆される.これに対しSet Bでは,極端に短い地震間隔が含まれないためばらつきが抑えられている.尤度幾何平均の最尤推定値は,想定される全ての地震間隔が再現する場合の対数尤度期待値が最も大きいモデルであり(2022b),モンテカルロ時系列の中央値とは違った意味を持つ.
図2 は地震発生後500年間における条件付き30年確率の推移を表す.Data set A, Data set B の他に,Parsons (2008)で得られた値 (ERC)を比較する.経過年 0~250年ではばらつきの大きい方が30年確率は大きくなるが,およそ250年以後では逆転する.今回新たに得られた値Data set Bによると,大正関東地震からほぼ100年が経過し30年確率が徐々に増加する段階に差し掛かったと云える.歴史地震を含めた場合のばらつきはData set Bの0.40にほぼ等しい(表2)が,平均間隔がData set Bより短いので,100年経過時点での30年確率値はData set Bより大きくなる.