The 2022 SSJ Fall Meeting

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Room B

Regular session » S15. Strong ground motion and earthquake disaster

[S15] PM-3

Tue. Oct 25, 2022 4:30 PM - 5:45 PM ROOM B (4th floor (Large Conference Room))

chairperson:Kenichi Tsuda(Institute of Technology, Shimizu corporation), Takashi Hirai(Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University)

4:30 PM - 4:45 PM

[S15-01] Simple microtremor array survey at rock/hard-soil sites

*Ikuo CHO1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)

これまで微動アレイ探査は堆積層の厚い沖積低地・市街地では有効に活用されてきているが,岩盤・硬質地盤での適用例は少なかった.その一因として,岩盤では地震動の増幅が小さいことからサイト評価の優先度が低かったことが挙げられるかもしれない.しかし,ひとくちに「岩盤・硬質地盤」と言っても,全て同一の地震基盤S波速度(例えば,3 km/s)を持つわけではないし,風化や薄い堆積層の影響により,サイトごとに応答特性が異なるはずである.特に重要な構造物の周辺では詳細に評価したい場合もあろう.
  発表者の推定になるが,岩盤・硬質地盤での適用例が少ない最大の理由は,「岩盤・硬質地盤サイトでは表面波が励起されない」ため微動アレイは不可と考えられてきたことにあるのではないだろうか.そして,実際に実施してもうまくいかないことが多かったため,問題が据え置かれてしまった可能性がある(「適用不可」という暗黙の了解).実は,世界的には,この10年の間に,岩盤・硬質地盤での微動アレイ探査の問題に深く立ち入って問題を診断し,適用の可否を検討するような報告が見られるようになってきた.それらの成果を総括すると,「岩盤・硬質地盤での微動アレイ探査は可能」である.しかし,SNRが低いので慎重な観測が必要である.つまり,岩盤で表面波は励起されないのではなく,励起されてはいるが,とても小さいので失敗しやすいということである.過去の成功例の多くは比較的大掛かりな微動アレイを用いており,これがSNRの問題の克服の要となっているとの考えが浸透しつつあるようである.
  以上の背景により,本研究では,岩盤・硬質地盤サイトにおける微動アレイ探査の適用性を検証するとともに,それが非常に簡単なアレイで可能であることを示したい.SNRの問題は,微動アレイの規模(センサー数)ではなく,データ処理法の選択によって克服できる.具体的には,空間自己相関法(SPAC)の派生法であるゼロクロス法を適用すれば良い.ゼロクロス法はAki (1957)により発案され,地震波干渉法の分野で多く用いられてきている方法である.著者は近年微動アレイ探査の分野での利用可能性を検証した.
  この方法はSPAC係数のスペクトル(以降,単にSPAC係数)ーSPAC係数は第1種0次Bessel関数でモデル化されるのでそのスペクトルは一般に0線の周辺で振動する形状となるーがゼロを横切る周波数を用いて位相速度を同定する.SPAC係数はSNRが低いと振幅が過小評価されるので,SPAC係数から位相速度に変換する時にバイアスが生じる.しかし,ゼロクロス点の周波数はSNRに依存しないため,ゼロクロス法はバイアスを受けない.低SNRのサイトでは非常に効果的である.
  簡易な微動アレイの適用については,直線アレイほどに単純(簡易)なアレイでは,岩盤・硬質地盤の微動アレイには波動場の方向性に起因するバイアス(方位エリアジング)が生じる可能性がある.岩盤・硬質地盤は一般に静穏なので,特定の振動源が卓越する可能性が高いからである.その場合,波動場の等方性の仮定が成り立たない可能性が高い.既存研究ではこれに大規模なアレイで対処したと考えることができるが,本研究では,方位エリアジングの系統的・理論的な評価に基づいて,簡単で実用的な微動アレイ形状を決定し,SPAC係数のゼロクロス点の読取り法を改善した.
  その結果によれば,3個のセンサからなる三角アレイでは,波動場によってはSPAC係数の最初の最小値よりも高周波数側(すなわち,第1ゼロクロス点よりもやや高い周波数側)でバイアスが生じる可能性がある.また,2つの独立な直線アレイ(別々の時刻に実施)からなるL字型アレイの場合,SPAC係数の最初のゼロクロス点よりすぐ上の周波数帯域でバイアスが生じる可能性がある.本研究では,この結果を踏まえ,バイアスの可能性を示す指標,すなわちゼロクロス点直後のSPAC係数の振幅によっては,後続のゼロクロス点を読み取らないことにした.また,系統的調査により,L字型アレイでは最初のゼロクロス点が不明瞭になることがあるが(例えば,ゼロラインを横切らずに触れるだけに見える),2つの直線アレイの交差角が直角に近づくと方位エリアジングの影響が減少することが示された.そこで,本研究では,最もシンプルで実用的なアレイとして直角のL字型アレイを選択するとともに,最初のゼロクロス点の読み取り基準を工夫することとした.
  上記の知見(理論)を観測データで検証するために北関東の15地点で取得された微動アレイデータを用いて位相速度の評価を行った.速度記録データに基づく深度30mまでの平均S波速度(Vs30)は182m/sから1433m/sであり,14地点は岩盤・硬質地盤,1地点は比較的柔らかい地盤のサイトとなっている.微動アレイは,長さ 24 m の2 つの独立した直線アレイ(別々の時刻に実施)で構成される L 字型アレイであった.各直線アレイは,4.5Hzのジオフォン7台の不等間隔配置で構成した.微動はそれぞれ約 20 分間記録された.得られた位相速度分散曲線に基づき,地盤パラメータVs10,Vs20,Vs30とS波速度構造モデルを評価した.微動アレイデータの解析結果は,速度検層に基づく値と良く一致した.