5:30 PM - 5:45 PM
[S15-05] A Study on Earthquake Damage Prevention of Cultural Properties on Display: Vibration Experiment of Japanese Sword
近年、建物の耐震性の向上や制振構造・免震構造の普及にともない、地震時の建物の構造的な損傷による犠牲者は減少傾向にある。一方、建物内の設備や什器等の損傷防止については、人命にかかわる建物倒壊の防止と比較すると、優先度の低い課題として取り扱われてきたことは否めない。人命の保護が第一に重要であることは論をまたないが、人命を守ることができたならば、加えて建物内にある財産等の被害を抑えることにより、地震後の生活水準の維持や復興の促進に資することができる。発災直後にもっとも重要となるのは官公庁・医療機関・社会インフラ等の機能維持にかかわる設備の保護であろうが、長期的な視点に立てば、文化財等の価値あるものの保護もまた重要である。文化財は人類共通の宝であり、これを破損することなく次代へ伝えることが、国家および人類全体の文化水準の維持と向上をはかることになる。
本研究では、文化財の中でも特に刀剣類について、展示状態における地震時挙動の把握と損傷防止のための方策について検討する。刀剣類の特徴として、テグスによる展示台への固定が困難であることが挙げられる。これを地震の揺れから保護するには、建物を免震構造とすることや、免震台上での展示とすることが効果的である。しかし、文化財、それも刀剣類の場合は特に、個人所有のものが少なくなく、所有者の経済力も様々であるため、必ずしも免震建物や免震台等の整備を行うことができない場合もある。
そこで、本研究では、刀掛けを用いて展示されている状態の日本刀について、地震時の揺れに対する挙動の把握から始めることとし、振動台実験を行った。図1に実験の様子を示す。名古屋大学減災連携研究センター所有の水平2成分振動台「パレットぶるる」(白山工業株式会社製可搬型地震動シミュレーター「地震ザブトン」[1]に台枠を取り付け、小型の家具転倒実験を可能としたもの)を使用し、アクリル製の一体型の刀掛けに模造刀を載せた状態で加振を行った。このとき、刀掛けをそのまま振動台に載せたものと、滑り止めマットを介して載せたものの2種類を用意した。加振波形は1995年兵庫県南部地震の神戸海洋気象台での強震記録(JMA神戸波)とその建物応答(固有周期1 s, 減衰定数5%)および2011年東北地方太平洋沖地震のK-NET築館での強震記録とし、振動台、刀掛け、刀身それぞれの加速度を測定した。
詳細な分析結果は紙面の都合上割愛し、ここではJMA神戸波の建物応答について、振幅倍率20%と40%での加振結果について記す。振幅倍率20%(振動台の計測震度5.7)では、滑り止めマットなしの刀掛けは振動台上で滑動し、載せていた刀身が落ちた。一方、滑り止めマット上の刀掛けは活動せず、刀身も落ちなかった。それに対して、振幅倍率40%(振動台の計測震度6.4)では、滑り止めマット上の刀掛けは滑動しなかったものの、刀身は落ちる結果となった。いずれの場合も、刀身は刀掛け上で長さ方向に大きく滑動し、切先側またはその反対側のどちらか一方から滑り落ちるという挙動を示した。刀身が長さ方向と直交する方向へ跳躍して落ちるという挙動はみられなかった。これは、用いた振動台の仕様上上下振動がなかったこと、アクリル製刀掛けと刀身との間の摩擦係数が小さいことが関係していると考えられる。上下振動の入力や木製刀掛けの使用によって異なる結果となる可能性がある。
今後、上下動を含む加振や正弦波による加振を行って刀掛けおよび刀身の詳細な振動挙動を把握するとともに、刀身の落下を防ぐ方策について継続的に検討を行っていく。
[1] 白山工業株式会社:可搬型地震動シミュレーター地震ザブトン, https://www.hakusan.co.jp/products/eq_simulator/ (2022年8月18日閲覧)
本研究では、文化財の中でも特に刀剣類について、展示状態における地震時挙動の把握と損傷防止のための方策について検討する。刀剣類の特徴として、テグスによる展示台への固定が困難であることが挙げられる。これを地震の揺れから保護するには、建物を免震構造とすることや、免震台上での展示とすることが効果的である。しかし、文化財、それも刀剣類の場合は特に、個人所有のものが少なくなく、所有者の経済力も様々であるため、必ずしも免震建物や免震台等の整備を行うことができない場合もある。
そこで、本研究では、刀掛けを用いて展示されている状態の日本刀について、地震時の揺れに対する挙動の把握から始めることとし、振動台実験を行った。図1に実験の様子を示す。名古屋大学減災連携研究センター所有の水平2成分振動台「パレットぶるる」(白山工業株式会社製可搬型地震動シミュレーター「地震ザブトン」[1]に台枠を取り付け、小型の家具転倒実験を可能としたもの)を使用し、アクリル製の一体型の刀掛けに模造刀を載せた状態で加振を行った。このとき、刀掛けをそのまま振動台に載せたものと、滑り止めマットを介して載せたものの2種類を用意した。加振波形は1995年兵庫県南部地震の神戸海洋気象台での強震記録(JMA神戸波)とその建物応答(固有周期1 s, 減衰定数5%)および2011年東北地方太平洋沖地震のK-NET築館での強震記録とし、振動台、刀掛け、刀身それぞれの加速度を測定した。
詳細な分析結果は紙面の都合上割愛し、ここではJMA神戸波の建物応答について、振幅倍率20%と40%での加振結果について記す。振幅倍率20%(振動台の計測震度5.7)では、滑り止めマットなしの刀掛けは振動台上で滑動し、載せていた刀身が落ちた。一方、滑り止めマット上の刀掛けは活動せず、刀身も落ちなかった。それに対して、振幅倍率40%(振動台の計測震度6.4)では、滑り止めマット上の刀掛けは滑動しなかったものの、刀身は落ちる結果となった。いずれの場合も、刀身は刀掛け上で長さ方向に大きく滑動し、切先側またはその反対側のどちらか一方から滑り落ちるという挙動を示した。刀身が長さ方向と直交する方向へ跳躍して落ちるという挙動はみられなかった。これは、用いた振動台の仕様上上下振動がなかったこと、アクリル製刀掛けと刀身との間の摩擦係数が小さいことが関係していると考えられる。上下振動の入力や木製刀掛けの使用によって異なる結果となる可能性がある。
今後、上下動を含む加振や正弦波による加振を行って刀掛けおよび刀身の詳細な振動挙動を把握するとともに、刀身の落下を防ぐ方策について継続的に検討を行っていく。
[1] 白山工業株式会社:可搬型地震動シミュレーター地震ザブトン, https://www.hakusan.co.jp/products/eq_simulator/ (2022年8月18日閲覧)