9:30 AM - 12:00 PM
[S15P-01] Seismic Waveform Generation by Conditional Generative Adversarial Networks and Spectral Inversion Analysis
1.はじめに
近年の機械学習技術の発達により、地震動を模擬した時刻歴波形の生成が可能となっている。既往の研究では、条件付き敵対的生成ネットワーク(cGAN)による生成の検討がされており、例えばLiら(2020)や松本ら(2022)などがある。しかし、時刻歴波形の形状を再現する検討例はあるものの、振幅は基準化されており、振幅特性を再現した検討はない。一方、我々は、不確かさを考慮に入れた地震動評価への応用を目的として、cGANとスペクトルインバージョン解析(岩田・入倉(1986))を組合せ、経時特性と振幅特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を生成することを目指したい。そこで本研究においては、振幅特性の再現に加えて観測記録に見られる経時特性と振幅特性のばらつきまで再現する手法を提案する。
2.経時特性と振幅特性のモデル構築と時刻歴波形の生成方法
計算フローを図1に示す。経時特性のモデル構築に用いるcGANは、音声生成分野で検討が進められているConditional WaveGAN(Leeら(2018))を引用し、入力パラメータは、Mw、震源距離、観測点とする。観測点はカテゴリー変数として扱い、観測点固有の経験的特性を推定する。学習データセットには東北地方太平洋沖で発生したプレート間地震を用いる。F-netによるMwが7.0未満、震源距離300 km以下、P波初動から得られている記録を対象とし、図2、図3に示す1,295地震、144観測点の45,145記録を用いる。加速度波形は地震発生時刻を時刻0秒とする163.84秒間の波形に統一し、振幅を-1~1に基準化してcGANで学習させる。振幅特性の平均と標準偏差のモデル構築には、伝播経路特性、サイト特性、ω-2モデルの震源スペクトルを用いた経験的なモデルを想定している。伝播経路特性とサイト特性にはスペクトルインバージョン解析等を用いた地点固有の特性を反映する。
あるMw、距離における時刻歴波形群の出力では、cGANにより生成した波形に含まれる高次元の情報をそのまま用いるため、時刻歴波形の振幅方向に係数倍(スケールファクターを乗じる)のみ行うこととする。本研究では、観測記録に見られるばらつきまで含めて再現するため、cGANにより生成した波形群の中から、ターゲットスペクトルの平均と標準偏差を同時に満たす波形群を選定する。選定する波形群の各波形に独立に与えるスケールファクターと、波形群としてターゲットの分布形に適合する組み合わせは非常に多数になるが、この波形群の選定は、Baker and Lee (2018) を参考にし、フーリエ領域の検討用に修正したアルゴリズムを用いる。ただし、本検討では周期間相関は考慮していない。
3.ばらつきを有する時刻歴波形の生成例
まず、cGANを用いて経時特性の生成を行う。Mw 5.0、震源距離80 kmの条件で生成した観測点ごとの時刻歴波形の例を図4に示す。cGANでは振幅が基準化された波形が生成されるが、観測点によって波形形状に違いがみられる。同条件で100波生成し、そのフーリエ振幅スペクトルの平均を比較した結果を図5に示す。例えばFKSH19では3 Hz付近に1次卓越周波数があり、地表H/Vスペクトルのピーク周期とも対応することを別途確認しており、観測点ごとの特徴を有した経時特性が再現されている。
次に、振幅特性の再現を行う。Mw 5.0、fc = 1.7 Hzのω-2モデルの震源スペクトルと、友澤・引田(2022)によるブロックインバージョン解析結果の不均質伝播経路特性と観測点ごとの経験的サイト増幅率を用いて設定する。さらに、ターゲットスペクトルに対する標準偏差として、ブロックインバージョン解析の標準偏差を用いる。FKSH19を例にターゲットスペクトルの平均と標準偏差を同時に満たす10波の波形群を出力した加速度時刻歴波形を図6に示す。出力された10波を見ると、最大振幅が倍半分程度のばらつきを持っており、経時特性にもばらつきがあることがわかる。出力した10波とターゲットスペクトルの平均と標準偏差の比較を図7に示す。フィッティング範囲とした1~10 Hzでは再現度が高いが、低周波数側では課題がある。
4.今後の課題と展望
本研究ではプレート間地震のみを対象としていたが、その他の地震タイプへの拡張や、地震波の伝播方向に着目したモデルの高度化が考えられる。生成した時刻歴波形群は、波形合成法のグリーン関数や、広帯域震源モデルの要素地震にも活用することを考えている。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET、KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。
参考文献
Yuanming Li, Bonhwa Ku,Shou Zhang, Jae-Kwang Ahn and Hanseok Ko(2020),Sensors 2020.
松本雄馬,糸井達哉,肥田剛典,八百山太郎,李尚元 (2022), 日本建築学会大会学術講演会.
岩田 知孝, 入倉 孝次郎(1986),地震 第2輯.
Chae Young Lee, Anoop Toffy, Gue Jun Jung, Woo-Jin Han (2018), Computer Vision and Pattern Recognition.
友澤裕介,引田智樹 (2022),日本地震学会秋季大会(本大会).
Baker, J. W., and Lee, C. (2018), Journal of Earthquake Engineering, 22(4).
近年の機械学習技術の発達により、地震動を模擬した時刻歴波形の生成が可能となっている。既往の研究では、条件付き敵対的生成ネットワーク(cGAN)による生成の検討がされており、例えばLiら(2020)や松本ら(2022)などがある。しかし、時刻歴波形の形状を再現する検討例はあるものの、振幅は基準化されており、振幅特性を再現した検討はない。一方、我々は、不確かさを考慮に入れた地震動評価への応用を目的として、cGANとスペクトルインバージョン解析(岩田・入倉(1986))を組合せ、経時特性と振幅特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を生成することを目指したい。そこで本研究においては、振幅特性の再現に加えて観測記録に見られる経時特性と振幅特性のばらつきまで再現する手法を提案する。
2.経時特性と振幅特性のモデル構築と時刻歴波形の生成方法
計算フローを図1に示す。経時特性のモデル構築に用いるcGANは、音声生成分野で検討が進められているConditional WaveGAN(Leeら(2018))を引用し、入力パラメータは、Mw、震源距離、観測点とする。観測点はカテゴリー変数として扱い、観測点固有の経験的特性を推定する。学習データセットには東北地方太平洋沖で発生したプレート間地震を用いる。F-netによるMwが7.0未満、震源距離300 km以下、P波初動から得られている記録を対象とし、図2、図3に示す1,295地震、144観測点の45,145記録を用いる。加速度波形は地震発生時刻を時刻0秒とする163.84秒間の波形に統一し、振幅を-1~1に基準化してcGANで学習させる。振幅特性の平均と標準偏差のモデル構築には、伝播経路特性、サイト特性、ω-2モデルの震源スペクトルを用いた経験的なモデルを想定している。伝播経路特性とサイト特性にはスペクトルインバージョン解析等を用いた地点固有の特性を反映する。
あるMw、距離における時刻歴波形群の出力では、cGANにより生成した波形に含まれる高次元の情報をそのまま用いるため、時刻歴波形の振幅方向に係数倍(スケールファクターを乗じる)のみ行うこととする。本研究では、観測記録に見られるばらつきまで含めて再現するため、cGANにより生成した波形群の中から、ターゲットスペクトルの平均と標準偏差を同時に満たす波形群を選定する。選定する波形群の各波形に独立に与えるスケールファクターと、波形群としてターゲットの分布形に適合する組み合わせは非常に多数になるが、この波形群の選定は、Baker and Lee (2018) を参考にし、フーリエ領域の検討用に修正したアルゴリズムを用いる。ただし、本検討では周期間相関は考慮していない。
3.ばらつきを有する時刻歴波形の生成例
まず、cGANを用いて経時特性の生成を行う。Mw 5.0、震源距離80 kmの条件で生成した観測点ごとの時刻歴波形の例を図4に示す。cGANでは振幅が基準化された波形が生成されるが、観測点によって波形形状に違いがみられる。同条件で100波生成し、そのフーリエ振幅スペクトルの平均を比較した結果を図5に示す。例えばFKSH19では3 Hz付近に1次卓越周波数があり、地表H/Vスペクトルのピーク周期とも対応することを別途確認しており、観測点ごとの特徴を有した経時特性が再現されている。
次に、振幅特性の再現を行う。Mw 5.0、fc = 1.7 Hzのω-2モデルの震源スペクトルと、友澤・引田(2022)によるブロックインバージョン解析結果の不均質伝播経路特性と観測点ごとの経験的サイト増幅率を用いて設定する。さらに、ターゲットスペクトルに対する標準偏差として、ブロックインバージョン解析の標準偏差を用いる。FKSH19を例にターゲットスペクトルの平均と標準偏差を同時に満たす10波の波形群を出力した加速度時刻歴波形を図6に示す。出力された10波を見ると、最大振幅が倍半分程度のばらつきを持っており、経時特性にもばらつきがあることがわかる。出力した10波とターゲットスペクトルの平均と標準偏差の比較を図7に示す。フィッティング範囲とした1~10 Hzでは再現度が高いが、低周波数側では課題がある。
4.今後の課題と展望
本研究ではプレート間地震のみを対象としていたが、その他の地震タイプへの拡張や、地震波の伝播方向に着目したモデルの高度化が考えられる。生成した時刻歴波形群は、波形合成法のグリーン関数や、広帯域震源モデルの要素地震にも活用することを考えている。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET、KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。
参考文献
Yuanming Li, Bonhwa Ku,Shou Zhang, Jae-Kwang Ahn and Hanseok Ko(2020),Sensors 2020.
松本雄馬,糸井達哉,肥田剛典,八百山太郎,李尚元 (2022), 日本建築学会大会学術講演会.
岩田 知孝, 入倉 孝次郎(1986),地震 第2輯.
Chae Young Lee, Anoop Toffy, Gue Jun Jung, Woo-Jin Han (2018), Computer Vision and Pattern Recognition.
友澤裕介,引田智樹 (2022),日本地震学会秋季大会(本大会).
Baker, J. W., and Lee, C. (2018), Journal of Earthquake Engineering, 22(4).