09:30 〜 12:00
[S15P-05] アイソクロンバックプロジェクション法と経験的グリーン関数法に基づく2022年福島県沖の地震の震源モデル
本研究では、S波部のエンベロープを用いたバックプロジェクション法によりブライトネス(強度)が大きい領域を推定することにより強震動生成域の位置の範囲を限定後、経験的グリーン関数に基づくグリッドサーチにより、2022年福島県沖の地震(MJ7.4)の広帯域震源モデルを構築した。
Pulido et al.(2008)は、近地の変位波形を対象としたFesta and Zollo(2006)のアイソクロンバックプロジェクション法をP波部の速度波形のエンベロープに拡張し、2007年能登半島沖地震に適用している。本研究では、これに以下の改良を加えた。ひとつめは、地盤増幅特性の補正である。本震の記録を近傍の中規模地震の記録でdeconvolutionした。また、震源近傍では地盤の非線形性の影響がみられるが、これらの記録を除くと震源近傍の観測点数が激減するため、本震と中規模地震のH/Vの比でも補正も行った。ふたつめは、Pludo et al.では、1次元地下構造モデルに基づく理論伝播時間と近傍の中規模地震の観測伝播時間との差を補正係数としているが、伝播時間の観測点補正を震源近傍の中規模地震のS波の伝播速度を用いて行うことである。2021年福島県沖の地震(MJ7.3)の経験的グリーン関数法による強震動生成域の推定(佐藤、2022)において、この考え方で±0.3秒の範囲で速度波形の伝播時間を説明できていることから、0.5秒の時間ウインドーで平滑化したエンベロープの補正には問題ないと考えた。
検討には、震源距離130km以下のS-net、K-net、KiK-net地中の水平成分の加速度波形の3~10Hzのエンベロープの2乗値を用いた。F-netのMT解に基づき断層面を設定し、気象庁の震源位置からの同心円状破壊を仮定し、破壊伝播速度を2.0km/sから3.0km/sを0.1刻みで仮定した11ケースで計算した。また、既往の研究と同様に、最初に得られたブライトネスを初期値として繰り返しを行い、断層面のブライトネスの総和を計算した。その結果、2回の繰返しで強度の総和はほぼ収束し、断層の北側浅部の2か所と、気象庁の震源の深さよりやや深い北側の1か所でブライトネスが明らかに大きい領域がみられた。また、ブライトネスの総和が最大となった破壊伝播速度は2.3km/sであった。 本震記録の分析から、破壊開始点近傍に寄与は小さいものの強震動生成域があると考えられたため、ブライトネスが大きい3か所近傍と破壊開始点近傍の計4か所周辺に強震動生成域を設定し、経験的グリーン関数法(Dan et al., 1989)に基づくグリッドサーチで広帯域震源モデルを推定した。しかし、南側の観測点の最初の大きな振幅が説明できなかったため南側深部にも強震動生成域を設定し、再度、広帯域震源モデルを推定した。要素地震は、2022年3月19日の地震(MJ5.0)と2022年4月6日の地震(MJ5.2)である。S-netの7観測点、KiK-net地中の9観測点の加速度波形のエンベロープと速度波形を用いた。推定された南側深部の強震動生成域近傍はブライトネスは小さいものの、ブライトネスの変動係数が大きい領域であった。これは、S-net観測点も用いているものの陸域の観測点に比べてデータが少ないことが原因と考えられる。破壊開始点付近の深部の強震動生成域とこの南側深部の強震動生成域は、面積は他の3つの強震動生成域より大きいが応力降下量は小さかった。この2つの深部の強震動生成域は、2021年福島県沖の地震(MJ7.3)の破壊開始点付近の深部の強震動生成域の直下付近にある。応力降下量が一番大きかったのは北側深部の強震動生成域であった。また、北側浅部の2つの強震動生成域が、宮城県の強震記録の大部分に寄与していることがわかった。この2つの浅部の強震動生成域は海洋性地殻内、他の3つの強震動生成域はマントルに位置している。2021年福島県沖の地震でも、1つの浅部の強震動生成域は海洋性地殻内にあり、応力降下量が相対的に小さく面積が大きい破壊開始点付近の強震動生成域と応力降下量が大きい南側の深部の強震動生成域はマントルに位置しているなど、両地震には類似の特徴がみられた。なお、破壊伝播速度は、バックプロジェクションによる最適値である2.3km/sと2.3km±0.1km/sの3ケースで計算した結果、2.3km/sのケースが最適となり、2021年福島県沖地震で推定された2.4km/sと近い値が得られた。
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のK-NET、KiK-net、S-net、F-net、気象庁の一元化震源情報を用いました。
Pulido et al.(2008)は、近地の変位波形を対象としたFesta and Zollo(2006)のアイソクロンバックプロジェクション法をP波部の速度波形のエンベロープに拡張し、2007年能登半島沖地震に適用している。本研究では、これに以下の改良を加えた。ひとつめは、地盤増幅特性の補正である。本震の記録を近傍の中規模地震の記録でdeconvolutionした。また、震源近傍では地盤の非線形性の影響がみられるが、これらの記録を除くと震源近傍の観測点数が激減するため、本震と中規模地震のH/Vの比でも補正も行った。ふたつめは、Pludo et al.では、1次元地下構造モデルに基づく理論伝播時間と近傍の中規模地震の観測伝播時間との差を補正係数としているが、伝播時間の観測点補正を震源近傍の中規模地震のS波の伝播速度を用いて行うことである。2021年福島県沖の地震(MJ7.3)の経験的グリーン関数法による強震動生成域の推定(佐藤、2022)において、この考え方で±0.3秒の範囲で速度波形の伝播時間を説明できていることから、0.5秒の時間ウインドーで平滑化したエンベロープの補正には問題ないと考えた。
検討には、震源距離130km以下のS-net、K-net、KiK-net地中の水平成分の加速度波形の3~10Hzのエンベロープの2乗値を用いた。F-netのMT解に基づき断層面を設定し、気象庁の震源位置からの同心円状破壊を仮定し、破壊伝播速度を2.0km/sから3.0km/sを0.1刻みで仮定した11ケースで計算した。また、既往の研究と同様に、最初に得られたブライトネスを初期値として繰り返しを行い、断層面のブライトネスの総和を計算した。その結果、2回の繰返しで強度の総和はほぼ収束し、断層の北側浅部の2か所と、気象庁の震源の深さよりやや深い北側の1か所でブライトネスが明らかに大きい領域がみられた。また、ブライトネスの総和が最大となった破壊伝播速度は2.3km/sであった。 本震記録の分析から、破壊開始点近傍に寄与は小さいものの強震動生成域があると考えられたため、ブライトネスが大きい3か所近傍と破壊開始点近傍の計4か所周辺に強震動生成域を設定し、経験的グリーン関数法(Dan et al., 1989)に基づくグリッドサーチで広帯域震源モデルを推定した。しかし、南側の観測点の最初の大きな振幅が説明できなかったため南側深部にも強震動生成域を設定し、再度、広帯域震源モデルを推定した。要素地震は、2022年3月19日の地震(MJ5.0)と2022年4月6日の地震(MJ5.2)である。S-netの7観測点、KiK-net地中の9観測点の加速度波形のエンベロープと速度波形を用いた。推定された南側深部の強震動生成域近傍はブライトネスは小さいものの、ブライトネスの変動係数が大きい領域であった。これは、S-net観測点も用いているものの陸域の観測点に比べてデータが少ないことが原因と考えられる。破壊開始点付近の深部の強震動生成域とこの南側深部の強震動生成域は、面積は他の3つの強震動生成域より大きいが応力降下量は小さかった。この2つの深部の強震動生成域は、2021年福島県沖の地震(MJ7.3)の破壊開始点付近の深部の強震動生成域の直下付近にある。応力降下量が一番大きかったのは北側深部の強震動生成域であった。また、北側浅部の2つの強震動生成域が、宮城県の強震記録の大部分に寄与していることがわかった。この2つの浅部の強震動生成域は海洋性地殻内、他の3つの強震動生成域はマントルに位置している。2021年福島県沖の地震でも、1つの浅部の強震動生成域は海洋性地殻内にあり、応力降下量が相対的に小さく面積が大きい破壊開始点付近の強震動生成域と応力降下量が大きい南側の深部の強震動生成域はマントルに位置しているなど、両地震には類似の特徴がみられた。なお、破壊伝播速度は、バックプロジェクションによる最適値である2.3km/sと2.3km±0.1km/sの3ケースで計算した結果、2.3km/sのケースが最適となり、2021年福島県沖地震で推定された2.4km/sと近い値が得られた。
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のK-NET、KiK-net、S-net、F-net、気象庁の一元化震源情報を用いました。