09:30 〜 12:00
[S15P-11] レシーバー関数法により求めた勇払平野の堆積層構造と地震動増幅特性
北海道中央部に位置する石狩低地帯には,最も厚い所で10 km前後の堆積層が存在していることが知られており,地表で観測される地震動はその堆積層の影響を大きく受ける.2018年北海道胆振東部地震を契機として,この厚い堆積層の構造を調べるため,吉田・他(2019)は石狩低地帯南部の勇払平野の強震観測点の観測記録を用い,レシーバー関数法および地表/地中スペクトル比により地下構造モデルを求めた.本研究では,吉田・他(2019)から対象観測点を増やし,解析条件を調整して求めた速度構造モデルをもとに各サイトの増幅特性を検討した結果を示す.
地下構造モデルの作成手順を述べる.KiK-net観測点では,地表/地中スペクトル比の0.2~20 Hzを対象に地表~地中地震計間の速度構造モデルを調整した.次に,観測記録からレシーバー関数を求め,それを説明する地震基盤(Vs=3.4 km/sを仮定)までの速度構造モデルを求めた.レシーバー関数からの逆解析では,3通りの初期構造モデルを用い,最終的に速度構造モデルを3通り(A, J, I)求めた.レシーバー関数にはカットオフ周波数約3 Hzのガウシアンフィルターを適用した.求めた速度構造モデルは,理論地震波形の計算や,微動アレイ観測と比較し,妥当性を評価した.
深発地震を用いた観測増幅特性と,求めた速度構造モデルから計算した理論増幅特性を比較した.解析対象はK-NETおよびKiK-netの15観測点とした.観測増幅特性の評価には,厚い堆積層による低周波数までの増幅を評価するため,M7クラスの深さ4つの深発地震の記録を用いた.各地震の観測記録のうち,直達S波部分を含む40.96秒間を取り出しフーリエスペクトルを計算した.対象観測点のうちAVS30=1130 m/sと表層までS波速度の速いSRCH10を基準観測点とし,地震ごとに基準観測点のスペクトルに対する各観測点のスペクトルの比(観測増幅特性)を計算した.求めた1~4地震のスペクトル比から観測点ごとに対数平均と対数標準偏差を求めた.理論増幅特性には,レシーバー関数により求めた水平成層速度構造モデルの基盤に平面S波が鉛直入射した際の入射波動場に対する地表の増幅特性を計算した.観測と同様に,SRCH10の理論増幅特性に対する各観測点の理論増幅特性のスペクトル比を計算した(図).図に示したSRCH10の増幅特性は,解放地震基盤面に対するSRCH10のスペクトル比である.
理論と観測のスペクトル比は,約1 Hz以下ではほとんどの観測点で良く対応する.1 Hz以上では観測点により状況は異なるが,レシーバー関数のカットオフ周波数の3 Hz程度までは対応の良い観測点も多い.3 Hz以上では理論が過小評価の観測点が多い.また,ほとんどの観測点で,低周波数側ではスペクトル比が小さく,高周波数側で大きいスペクトル形状を示す.スペクトル比が大きくなり始める周波数は観測点ごとに異なるが,ほぼすべての観測点で理論と観測はよく対応する.
理論と観測の1 Hz以下の長周期側のスペクトル比や,スペクトル比の増大し始める周波数がほぼ対応することは,基本的にはレシーバー関数により求めた速度構造モデルによる増幅特性が妥当であることを示している.観測点によっては0.1 Hz前後から数倍程度の増幅が見られ,勇払平野の厚い堆積層により低周波数側でも増幅されることが分かる.なお,KiK-net観測点の速度構造モデルは、地表/地中スペクトル比の20 Hzまでを解析対象として浅部の速度構造モデルを調整しているが,今回の計算結果では高周波数側で観測と理論が必ずしも対応しなかった.
地震動増幅特性の評価の観点からは,基準観測点のSRCH10の理論増幅特性の妥当性は別途検討する必要があるものの,基本的には1 Hz程度以下の低周波数側では,レシーバー関数法による速度構造モデルにより厚い堆積層による地震動の増幅を概ね説明できていると考えられる.高周波数側の理論と観測は必ずしも対応が良くないが,平野内部の不整形などで励起された表面波の影響などいくつかの要因が考えられる.
謝辞:本研究の一部は,原子力規制庁平成31年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震による地震動の評価手法の検討)業務の一部として実施した.
地下構造モデルの作成手順を述べる.KiK-net観測点では,地表/地中スペクトル比の0.2~20 Hzを対象に地表~地中地震計間の速度構造モデルを調整した.次に,観測記録からレシーバー関数を求め,それを説明する地震基盤(Vs=3.4 km/sを仮定)までの速度構造モデルを求めた.レシーバー関数からの逆解析では,3通りの初期構造モデルを用い,最終的に速度構造モデルを3通り(A, J, I)求めた.レシーバー関数にはカットオフ周波数約3 Hzのガウシアンフィルターを適用した.求めた速度構造モデルは,理論地震波形の計算や,微動アレイ観測と比較し,妥当性を評価した.
深発地震を用いた観測増幅特性と,求めた速度構造モデルから計算した理論増幅特性を比較した.解析対象はK-NETおよびKiK-netの15観測点とした.観測増幅特性の評価には,厚い堆積層による低周波数までの増幅を評価するため,M7クラスの深さ4つの深発地震の記録を用いた.各地震の観測記録のうち,直達S波部分を含む40.96秒間を取り出しフーリエスペクトルを計算した.対象観測点のうちAVS30=1130 m/sと表層までS波速度の速いSRCH10を基準観測点とし,地震ごとに基準観測点のスペクトルに対する各観測点のスペクトルの比(観測増幅特性)を計算した.求めた1~4地震のスペクトル比から観測点ごとに対数平均と対数標準偏差を求めた.理論増幅特性には,レシーバー関数により求めた水平成層速度構造モデルの基盤に平面S波が鉛直入射した際の入射波動場に対する地表の増幅特性を計算した.観測と同様に,SRCH10の理論増幅特性に対する各観測点の理論増幅特性のスペクトル比を計算した(図).図に示したSRCH10の増幅特性は,解放地震基盤面に対するSRCH10のスペクトル比である.
理論と観測のスペクトル比は,約1 Hz以下ではほとんどの観測点で良く対応する.1 Hz以上では観測点により状況は異なるが,レシーバー関数のカットオフ周波数の3 Hz程度までは対応の良い観測点も多い.3 Hz以上では理論が過小評価の観測点が多い.また,ほとんどの観測点で,低周波数側ではスペクトル比が小さく,高周波数側で大きいスペクトル形状を示す.スペクトル比が大きくなり始める周波数は観測点ごとに異なるが,ほぼすべての観測点で理論と観測はよく対応する.
理論と観測の1 Hz以下の長周期側のスペクトル比や,スペクトル比の増大し始める周波数がほぼ対応することは,基本的にはレシーバー関数により求めた速度構造モデルによる増幅特性が妥当であることを示している.観測点によっては0.1 Hz前後から数倍程度の増幅が見られ,勇払平野の厚い堆積層により低周波数側でも増幅されることが分かる.なお,KiK-net観測点の速度構造モデルは、地表/地中スペクトル比の20 Hzまでを解析対象として浅部の速度構造モデルを調整しているが,今回の計算結果では高周波数側で観測と理論が必ずしも対応しなかった.
地震動増幅特性の評価の観点からは,基準観測点のSRCH10の理論増幅特性の妥当性は別途検討する必要があるものの,基本的には1 Hz程度以下の低周波数側では,レシーバー関数法による速度構造モデルにより厚い堆積層による地震動の増幅を概ね説明できていると考えられる.高周波数側の理論と観測は必ずしも対応が良くないが,平野内部の不整形などで励起された表面波の影響などいくつかの要因が考えられる.
謝辞:本研究の一部は,原子力規制庁平成31年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震による地震動の評価手法の検討)業務の一部として実施した.