日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15P] AM-P

2022年10月25日(火) 09:30 〜 12:00 P-2会場 (10階(1010〜1070会議室))

09:30 〜 12:00

[S15P-18] 九州新幹線沿線に既設の光ファイバーケーブルを用いたDAS地震観測

*片上 智史1、野田 俊太1、是永 将宏1、荒木 英一郎2、高橋 成実3、岩田 直泰1 (1. (公財)鉄道総合技術研究所 鉄道地震工学研究センター 地震解析、2. 海洋研究開発機構、3. 防災科学技術研究所)

多くの地震が鉄道に大きな影響を及ぼしており、その影響は鉄道の一部で運行が制限・停止されるものから、広範囲で極端な被害を受け、脱線するものまで様々ある。2004年の新潟県中越地震(M6.8)、2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.0)、2016年の熊本地震(M7.3)、2022年の福島沖地震(M7.4)では、新幹線が脱線した。さらに、上記より比較的規模の小さい地震において、特に都市部では点検に時間を要し、運転再開に多大な時間を要した事例もある(例: 2018年大阪府北部地震(M6.1)、2021年千葉県北西部地震(M5.9))。鉄道の場合、地震発生直後は早期の地震動検知、地震動到達後は早期の沿線の揺れ具合の把握(構造物の被害推定)が重要である。
 分散型音響センシング(DAS)は、光ファイバーケーブル内を進む後方散乱レーザーパルスの位相の変化を利用して、光ファイバーケーブルに沿った歪み変化を計測する(例: Miah and Potter, 2017、Ajo-Franklin et al., 2019、Sladen et al., 2019、Lindsey et al., 2020) 。鉄道には、数千キロメートルにわたって線路の横にファイバーケーブルが敷設されているため、DASモニタリングに適している(Kowarik et al., 2020)。しかし、DASで記録された地震波形の振幅の信頼性を評価し、議論した報告は少ない。これは、DASで記録される振幅に影響を与える光ファイバーケーブルと設置面とのカップリング、波線の到来方向、ゲージ長などの判断が困難であるためである。
 本研究の目的は、鉄道沿線の光ファイバーケーブルを用いた高密度地震観測網を構築することである。2022年1月22日に発生した日向灘のMj6.6地震の地震波形を、新幹線沿線に敷設された光ファイバーケーブルを用いてDASで観測し、その結果を紹介する。
 DASは九州旅客鉄道が運営する九州新幹線沿線のケーブルに接続され、2022年1月12日から2月10日まで地震観測を実施した。新八代駅から新大牟田駅まで約75kmに渡って観測し、橋梁、高架橋、堤防、トンネルなど、さまざまな鉄道構造物が存在する。DASはAPセンシング社の製品(モデルN5200A)を使用し、interrogator を新八代駅付近に設置した。時間sampling rateは500Hz、空間sampling間隔は5m、ゲージ長は10mであり、全15082チャンネルである。また、DASと地震計の観測波形を比較するために、鉄道構造物の上や下に5つの加速度計を設置した。
 2022年1月22日に発生した日向灘のMj6.6地震とその余震(震央距離; 130-160km程度)をDASと並行して設置した加速度計で観測することに成功した。光ファイバーケーブルに隣接して設置された加速度計とDASのデータを比較し、今回の観測条件におけるDASの測定感度の限界を20galと推定した。また、記録値の標準偏差の分布等から、電架柱がDASに記録するひずみ値に大きな影響を与えている可能性があることが示唆された。 鉄道沿線に既設の光ファイバーケーブルを用いたDASは、地震発生直後の早期警報の迅速化、地震動到達後の構造物損傷の検査区間をかなり高密度に制限することに役立つ。