9:30 AM - 9:45 AM
[S16-01] On the variability of the horizontal site amplification factors extracted from the observed Fourier spectra of the S-wave part and the whole wave
我々は一般化スペクトルインバージョン手法(Generalized Spectral Inversion Technique, GIT)を用いて、任意地点における地震基盤から上の地盤構造による水平動および上下動のフーリエ・スペクトルの増幅特性(サイト特性)を、我が国の強震観測データ(K-NET・KiK-net・JMA震度計ネット・JMA87型強震計ネット・関震協ネット)から分離・抽出してきた。その際に、まずS波部分のスペクトルを対象として、震源・伝播経路・サイトの各スペクトル特性を分離し、その後全波のスペクトルを対象として得られた震源および伝播経路特性の積でこれを割り込むことにより、全波のサイト特性を抽出している(仲野・川瀬, JJAEE2021)。これまで我々は得られたサイト特性の平均値に専ら注目してきたが、予測精度を考える上では個々のサイト特性における地震間のばらつきについても検討しておく必要がある。そこで本報告では、S波部分と全波部分に対して分離・抽出されたサイト特性の地震間ばらつきについて、各地点および全地点でのばらつき量を比較した。
GITの手法については仲野・他(JJAEE2015)および仲野・川瀬(JJAEE2021)を参照されたい。基本式はi番目の地震のj地点でのフーリエ・スペクトルFss_ij (f)は
FSS_ij(f) = SS_i(f) * PS_ij(f) * HSS_j(f) (1)
で表される。ここでfは周波数、接尾語のSSは地表面上のS波部のスペクトルであることを表している。S波部とは、JMAのS波の走時表を用いて,S波初動以降をマグニチュードに応じた時間区間(MJMA≤6で5秒、6<MJMA≤7 で10秒、7<MJMAで15秒)で切り出し,前後に2 秒のコサインテーパをつけたものである。一方、全波のフーリエ・スペクトルFsw_ij (f)を対象にした場合には、上記S波部の地震基盤波に対する相対的なサイト特性が得られるものとして
FSW_ij(f) = SS_i(f) * PS_ij(f) * HSW_j(f) (2)
により全波サイト特性を求めている。この物理的意味は、S波の散乱で生じる後続のCoda波や盆地の端部でS波から変換された盆地生成表面波も含めて、全波の観測スペクトルを入射した地震基盤波に対する相対的な増幅が生じた結果として評価するということである。全波スペクトルを式(2)のように評価する理由は、単純に式(1)のように全波スペクトルを評価すると遠地のサイトで大きな盆地生成表面波が生じていた場合、伝播経路上で振幅の逆転が生じ、特に低振動数域で負のQ値が得られるからである。その場合のサイト特性は安定して求められなくなっている(ちなみに距離減衰式で多用されている応答スペクトルでは継続時間が長くなっても振幅は頭打ちするのでこのような現象は生じない)。なお我々のGITでは拘束条件としてYMGH01の地表地中比から地盤構造を同定し、それから得られる理論サイト特性を観測波のスペクトルから剥ぎ取って露頭地震基盤波としたものを1として用いているので、得られるサイト特性は地震基盤波に対する絶対的なサイト特性となっている。
このようにして得られたS波部のサイト特性と全波のサイト特性を比較すると、NIG019を例に取って添付図に示したように、低振動数側で増幅が大きくなっていることがわかる。2Hz以上の領域では高振動数になるに従って両者の差は段々と小さくなっており、5Hz以上では比はほぼ1.3倍程度になっている。このS波部と全波の平均サイト特性の比を我々はWSRと命名し、それが空間的に滑らかに変化しているため単純な空間補間によってこれを推定することを提案している(仲野・川瀬, JJAEE2021)。
ここでは両者のばらつきに注目する。この例では明らかにS波部のばらつきの方が全波のばらつきよりも大きくなっていることがわかる。S波のばらつきに対する全波のばらつきの比を取ると0.12Hz~20Hzの全周波数平均で0.9、最も小さい3Hz付近で0.4となった。全波のばらつきの全周波数平均値は(対数平均を取って実数に直した値として)1.88で、これがこの地点での予測精度と言える。このばらつきの平均値はサイトによって多少異なり、当然サイト特性の大きな地点の方が大きい傾向にあるが、範囲としては1.5~1.9の範囲にあって安定した値である。S波部と全波のばらつきの平均値の比は90%前後となっている地点が多く、差としては小さいが、時間区間を短くして到来波動成分としてS波に限定したはずのS波部のサイト特性の方が、何も限定なく様々な波動を含んだ全波のサイト特性よりも予測誤差が大きいというのは意外な結果である。
GITの手法については仲野・他(JJAEE2015)および仲野・川瀬(JJAEE2021)を参照されたい。基本式はi番目の地震のj地点でのフーリエ・スペクトルFss_ij (f)は
FSS_ij(f) = SS_i(f) * PS_ij(f) * HSS_j(f) (1)
で表される。ここでfは周波数、接尾語のSSは地表面上のS波部のスペクトルであることを表している。S波部とは、JMAのS波の走時表を用いて,S波初動以降をマグニチュードに応じた時間区間(MJMA≤6で5秒、6<MJMA≤7 で10秒、7<MJMAで15秒)で切り出し,前後に2 秒のコサインテーパをつけたものである。一方、全波のフーリエ・スペクトルFsw_ij (f)を対象にした場合には、上記S波部の地震基盤波に対する相対的なサイト特性が得られるものとして
FSW_ij(f) = SS_i(f) * PS_ij(f) * HSW_j(f) (2)
により全波サイト特性を求めている。この物理的意味は、S波の散乱で生じる後続のCoda波や盆地の端部でS波から変換された盆地生成表面波も含めて、全波の観測スペクトルを入射した地震基盤波に対する相対的な増幅が生じた結果として評価するということである。全波スペクトルを式(2)のように評価する理由は、単純に式(1)のように全波スペクトルを評価すると遠地のサイトで大きな盆地生成表面波が生じていた場合、伝播経路上で振幅の逆転が生じ、特に低振動数域で負のQ値が得られるからである。その場合のサイト特性は安定して求められなくなっている(ちなみに距離減衰式で多用されている応答スペクトルでは継続時間が長くなっても振幅は頭打ちするのでこのような現象は生じない)。なお我々のGITでは拘束条件としてYMGH01の地表地中比から地盤構造を同定し、それから得られる理論サイト特性を観測波のスペクトルから剥ぎ取って露頭地震基盤波としたものを1として用いているので、得られるサイト特性は地震基盤波に対する絶対的なサイト特性となっている。
このようにして得られたS波部のサイト特性と全波のサイト特性を比較すると、NIG019を例に取って添付図に示したように、低振動数側で増幅が大きくなっていることがわかる。2Hz以上の領域では高振動数になるに従って両者の差は段々と小さくなっており、5Hz以上では比はほぼ1.3倍程度になっている。このS波部と全波の平均サイト特性の比を我々はWSRと命名し、それが空間的に滑らかに変化しているため単純な空間補間によってこれを推定することを提案している(仲野・川瀬, JJAEE2021)。
ここでは両者のばらつきに注目する。この例では明らかにS波部のばらつきの方が全波のばらつきよりも大きくなっていることがわかる。S波のばらつきに対する全波のばらつきの比を取ると0.12Hz~20Hzの全周波数平均で0.9、最も小さい3Hz付近で0.4となった。全波のばらつきの全周波数平均値は(対数平均を取って実数に直した値として)1.88で、これがこの地点での予測精度と言える。このばらつきの平均値はサイトによって多少異なり、当然サイト特性の大きな地点の方が大きい傾向にあるが、範囲としては1.5~1.9の範囲にあって安定した値である。S波部と全波のばらつきの平均値の比は90%前後となっている地点が多く、差としては小さいが、時間区間を短くして到来波動成分としてS波に限定したはずのS波部のサイト特性の方が、何も限定なく様々な波動を含んだ全波のサイト特性よりも予測誤差が大きいというのは意外な結果である。