10:00 AM - 10:15 AM
[S16-03] Construction of the Shallow Velocity Structure Model in the Kyoto and Nara Basins Using Boring Database and Microtremor Array Observations
令和元年度から3年度にかけて実施した「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」(代表機関:京都大学防災研究所)では、奈良盆地東縁断層帯の地震を想定した強震動予測の高度化のため、奈良盆地東縁断層帯に近い京都盆地(山科盆地、山城盆地を含む)及び奈良盆地等の深部及び浅部の地盤速度構造モデルを新規に作成するための各種の調査・解析が実施された。本発表では、京都盆地から奈良盆地にかけての地域を対象とした浅部地盤速度構造モデルの作成について報告する。本研究では、ボーリングデータベースの解析に基づいて作成した地質モデルと微動アレイ観測による位相速度情報を統合して解析し、浅部地盤のS波速度構造を250 mメッシュでモデル化した。ここでは、工学的基盤相当のS波速度を350 m/sと設定し、それ以浅を浅部地盤として取り扱った。
まず、世界測地系の4分の1地域メッシュ(250 mメッシュ)毎に、ボーリングデータベースに基づく浅部地盤地質モデルを作成した。関西圏では、これまでも自治体の地震被害想定や地盤工学的研究を目的に、各地でボーリングデータベース解析による地盤モデル作成が行われている。京都市域の一部については全国電子地盤図(地盤工学会, 2014)によるモデルを活用し、京都市を除く京都府南部については平成17年度京都府地震被害想定調査(京都府, 2006)により作成されたモデルを関西圏地盤情報データベースに収録されたボーリングデータで検証・修正することで活用した。京都市域の残余(京都盆地の一部及び山科盆地)及び奈良盆地全域について、関西圏地盤情報データベース及び新規に収集したボーリングデータを用いて新たにモデル化した。モデル化の方法は全国電子地盤図と同様である。各メッシュでは工学的基盤まで深度1 m刻みで、優勢土質と平均N値をモデル化した。既存ボーリングデータのないメッシュについては、微地形区分(若松・松岡, 2020)が同じ周辺のメッシュのボーリングデータから補間することでモデル化した。
また、地表から工学的基盤付近までの地盤構造に関する位相速度情報の取得のため、極小半径(半径0.6 m)~小半径(半径2~10 m)の微動アレイ観測を面的に多数実施した。京都盆地南部から奈良盆地にかけての176地点で実施した。調査地点の選定に当たっては、調査対象地域の浅部地盤構造を面的に把握するため、地表地質分布も考慮しながら、概ね2 km間隔で選点した。調査地点の多くは、沖積層分布域であるが、宇治丘陵、平城山丘陵などの大阪層群分布域、堆積盆地縁辺の段丘面の一部でも調査を行った。各微動アレイ観測では、白山工業製JU410を4式用い、正三角形アレイによる4点同時観測を行った。取得した微動波形記録のうち、上下動成分を用いて、空間自己相関(SPAC)法(Aki, 1957)により、半径毎のSPAC係数を求めた。最後に、各半径のSPAC係数を統合し、拡張SPAC法(凌・岡田, 1993)によって位相速度の分散曲線を得た。ほぼすべての観測点で、位相速度が400 m/sを超えるあたりまで得ることができた。位相速度の対象周波数帯域としては概ね2 Hz以上である。
浅部地盤のS波速度構造をモデル化するため、土質毎にN値と有効土被り圧からS波速度を与える経験式を作成した。山本・他(2005)が大阪平野の沖積層を対象として提案した経験式の形を用い、これの係数を土質ごとに与える。まず、本重点調査観測で収集及び既存データベースに搭載の計45地点のPS検層結果を整理し、粘性土、砂質土、礫質土のそれぞれの土質区分について、N値、有効土被り圧、S波速度の関係の経験式を求めた。得られた経験式を初期モデルとし、上述の極小~小半径の微動アレイ観測及び本重点調査観測で実施した小〜大半径の微動アレイ観測により得られた計197地点の位相速度をRayleigh波基本モードの位相速度分散曲線で説明できるよう、経験式の係数を遺伝的アルゴリズムで最適化することにより、適切な浅部地盤S波速度構造モデルを得た。その際、工学的基盤以深の構造が位相速度に及ぼす影響を適切に考慮するため、S波速度が600 m/sを半無限層とし、浅部地盤構造モデルの基底とS波速度600 m/sの半無限層の間に中間層を1層設定し、観測点毎にこの中間層の層厚とS波速度を求めた。中間層の層厚及びS波速度は、浅部地盤構造モデルの経験式の係数と同時に求めることは困難であるため、ここでは、浅部地盤構造モデルと中間層のパラメータを交互に求め、収束するまで反復した。
最終的に得られたモデルによる理論分散曲線は各微動アレイ観測点の観測位相速度を概ね説明することができた。盆地端部で残差が大きい地点もいくつか見られたが、全体として初期モデルに比べて、本検討で最終的に得られた浅部地盤速度構造モデルにより残差が改善している。
謝辞:本研究は令和元~3年度科学技術基礎調査等委託「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」により実施しました。
まず、世界測地系の4分の1地域メッシュ(250 mメッシュ)毎に、ボーリングデータベースに基づく浅部地盤地質モデルを作成した。関西圏では、これまでも自治体の地震被害想定や地盤工学的研究を目的に、各地でボーリングデータベース解析による地盤モデル作成が行われている。京都市域の一部については全国電子地盤図(地盤工学会, 2014)によるモデルを活用し、京都市を除く京都府南部については平成17年度京都府地震被害想定調査(京都府, 2006)により作成されたモデルを関西圏地盤情報データベースに収録されたボーリングデータで検証・修正することで活用した。京都市域の残余(京都盆地の一部及び山科盆地)及び奈良盆地全域について、関西圏地盤情報データベース及び新規に収集したボーリングデータを用いて新たにモデル化した。モデル化の方法は全国電子地盤図と同様である。各メッシュでは工学的基盤まで深度1 m刻みで、優勢土質と平均N値をモデル化した。既存ボーリングデータのないメッシュについては、微地形区分(若松・松岡, 2020)が同じ周辺のメッシュのボーリングデータから補間することでモデル化した。
また、地表から工学的基盤付近までの地盤構造に関する位相速度情報の取得のため、極小半径(半径0.6 m)~小半径(半径2~10 m)の微動アレイ観測を面的に多数実施した。京都盆地南部から奈良盆地にかけての176地点で実施した。調査地点の選定に当たっては、調査対象地域の浅部地盤構造を面的に把握するため、地表地質分布も考慮しながら、概ね2 km間隔で選点した。調査地点の多くは、沖積層分布域であるが、宇治丘陵、平城山丘陵などの大阪層群分布域、堆積盆地縁辺の段丘面の一部でも調査を行った。各微動アレイ観測では、白山工業製JU410を4式用い、正三角形アレイによる4点同時観測を行った。取得した微動波形記録のうち、上下動成分を用いて、空間自己相関(SPAC)法(Aki, 1957)により、半径毎のSPAC係数を求めた。最後に、各半径のSPAC係数を統合し、拡張SPAC法(凌・岡田, 1993)によって位相速度の分散曲線を得た。ほぼすべての観測点で、位相速度が400 m/sを超えるあたりまで得ることができた。位相速度の対象周波数帯域としては概ね2 Hz以上である。
浅部地盤のS波速度構造をモデル化するため、土質毎にN値と有効土被り圧からS波速度を与える経験式を作成した。山本・他(2005)が大阪平野の沖積層を対象として提案した経験式の形を用い、これの係数を土質ごとに与える。まず、本重点調査観測で収集及び既存データベースに搭載の計45地点のPS検層結果を整理し、粘性土、砂質土、礫質土のそれぞれの土質区分について、N値、有効土被り圧、S波速度の関係の経験式を求めた。得られた経験式を初期モデルとし、上述の極小~小半径の微動アレイ観測及び本重点調査観測で実施した小〜大半径の微動アレイ観測により得られた計197地点の位相速度をRayleigh波基本モードの位相速度分散曲線で説明できるよう、経験式の係数を遺伝的アルゴリズムで最適化することにより、適切な浅部地盤S波速度構造モデルを得た。その際、工学的基盤以深の構造が位相速度に及ぼす影響を適切に考慮するため、S波速度が600 m/sを半無限層とし、浅部地盤構造モデルの基底とS波速度600 m/sの半無限層の間に中間層を1層設定し、観測点毎にこの中間層の層厚とS波速度を求めた。中間層の層厚及びS波速度は、浅部地盤構造モデルの経験式の係数と同時に求めることは困難であるため、ここでは、浅部地盤構造モデルと中間層のパラメータを交互に求め、収束するまで反復した。
最終的に得られたモデルによる理論分散曲線は各微動アレイ観測点の観測位相速度を概ね説明することができた。盆地端部で残差が大きい地点もいくつか見られたが、全体として初期モデルに比べて、本検討で最終的に得られた浅部地盤速度構造モデルにより残差が改善している。
謝辞:本研究は令和元~3年度科学技術基礎調査等委託「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」により実施しました。