The 2022 SSJ Fall Meeting

Presentation information

Poster session (1st Day)

Regular session » S16. Subsurface structure and its effect on ground motion

[S16P] AM-P

Mon. Oct 24, 2022 9:30 AM - 12:00 PM ROOM P-2 (10th floor (Conference Room 1010-1070))

9:30 AM - 12:00 PM

[S16P-07] Estimation of shallow subsurface structure in the Oharadai area, Yokosuka City, Kanagawa Prefecture, using H/V spectral ratios and borehole data

*Yasuyuki IWASE1, Kojiro Kato2, Yusuke Mizuno2 (1. Department of Earth and Ocean Sciences, School of Applied Sciences, National Defense Academy, 2. Japan Maritime Self-Defense Force)

神奈川県横須賀市にある標高80m~90mの台地の小原台は約10万年前の海岸段丘である。地質学的な調査により地表から、主に、火山灰(ローム層)、砂礫(小原台砂礫層)、礫(走水礫層)の順の地質構造であることが明らかとなっている(例えば、江藤、1998)。小原台砂礫層の分布域である小原台の最上部は防衛大学校によるボーリング調査により、約100地点で地下浅部構造が詳細に記録されている。

 ところで、常時微動H/Vスペクトル比を用いると表層地盤の厚さを推定することができる(中村・上野、1986)。この手法で必要とされる常時微動データは厚さを推定する地点の1点のみで良いことが特徴であるが、表層地盤のS波速度が既知でなければならない。また地層ごとのインピーダンス比が大きければ地層の厚さを推定することも可能である。

 本研究では、小原台でボーリング調査が行われている地点のうち、比較的データの信頼できる59地点の半径5m以内で常時微動観測を行った。観測には白山工業JU-410微動計を用い、サンプリング周波数100Hzで各観測地点でそれぞれ15分間の計測を行った。得られたデータは10.24秒、20.48秒、40.96秒ごとのタイムウィンドウに分割し、各タイムウィンドウの東西・南北・上下動のフーリエスペクトルを計算し、バンド幅0.05Hz~1HzのParzenウィンドウにより平滑化後、相加平均または相乗平均を計算した。さらに東西成分と南北成分の2乗和平方根を水平方向成分とし、水平方向成分を上下方向成分で割ることでH/Vスペクトル比を求めた。また、タイムウィンドウごとにH/Vスペクトル比を算出し、相加平均をH/Vスペクトル比とする計算も行った。

 H/Vスペクトル比が最大となる周期はローム層(地表の埋土などを含む)に対応していると考えられるため、最近接のボーリング調査地点のローム層の厚さと周期の関係から最小二乗法によりローム層のS波速度を求めた。その結果、H/Vスペクトル比の計算方法やパラメータによらず、ローム層のS波速度は約145~約150m/sと計算された。このときの決定係数はほとんどが約0.97であった。この値は、道路橋示方書(社団法人日本道路協会、2002)の推定式にボーリングデータの平均N値を代入して求めたS波速度である約160m/sと大きく矛盾はしない。

 次にH/Vスペクトル比が最大となるピークよりも低周波で、かつ、最大ピークとな周期は小原台砂礫層と走水礫層との境界深度に対応していると仮定し、ローム層および小原台砂礫層の厚さから小原台砂礫層のS波速度を求めた。この結果はパラメータや計算手法に依存し、約140m/s~約700m/s(決定係数は0.58~0.77)が得られたが、多くは200m/s~300m/sであった。しかし、最小二乗法の決定係数が0.73を超える場合には、約265m/s~約270m/sと安定した数値が得られた。なお、ボーリングデータの平均N値(約30)から推定したS波速度は約250m/sである。

 最後にボーリングデータ調査地点から離れた地点での常時微動データに本研究で得られたS波速度を用いて小原台のローム層と小原台砂礫層のそれぞれの層厚分布を推定した。ローム層は全領域に渡ってほぼ10m程度の厚さであり、小原台砂礫層は約5m~約10mの厚さという結果となった。ローム層ではボーリングデータと常時微動データから推定される層厚に大きな違いはなかったが、小原台砂礫層は両者の差異が大きい(~5m)地点があった。小原台砂礫層と走水礫層に対するH/Vスペクトル比のピークを正しく検出できていないことが原因かもしれない。

 本研究では、H/Vスペクトル比のピークの読み取りに主観を排除するために機械的に地表からの第一境界層を最大ピーク、第二境界層を最大ピークより低周波の最大ピーク(以下、第二ピークと呼ぶ)とした。その結果、最大ピークの検出には本研究で試みた方法やパラメータには大きな依存性はないことが分かった。一方で、第二ピークの検出には大きな誤差が見られた。この原因は、小原台砂礫層(第二層)と走水礫層(第三層)の速度コントラスト(走水礫層のN値を50とすると速度コントラストは約1.2)が、ローム層(第一層)と小原台礫層の速度コントラスト約1.8倍よりも小さいことからくるのかもしれない。複数のパラメータでS波速度の計算を試み、決定係数の高い結果を採用するのが最適であると考えられる。常時微動観測は簡単に観測密度を高くすることができ、層厚の計算も複雑ではないため最適なパラメータを探索することで、必要な精度の地下構造を得ることができる可能性がある。