2:30 PM - 2:45 PM
[S17-08] The origin of tsunami trace height in Atashika during the 1944 Showa Tonankai Earthquake
昭和東南海地震の波源断層モデルについては,津波波形逆解析に基づく検討(Satake, 1993; Tanioka & Satake. 2001; Baba et al., 2005)が行われている.一方,当該地震の津波痕跡高分布を説明するための波源断層モデルは矩形断層モデル(相田,1979;安中・他,2003)による検討にとどまっている.
本研究では,当該地震による津波痕跡高分布を説明することのできる昭和東南海地震の波源断層モデルの再評価を行い,さらに三重県新鹿の13.6 mにおよぶ津波痕跡高の励起源について検討を行う. 本研究で用いた津波痕跡高は既往報告(例えば,中央気象台,1945;表,1946;羽鳥,1974;飯田,1977;三重県,1995)や三重県沿岸の当該地震津波に関する石碑情報(新田,2016)を利活用して津波痕跡高の再調査を実施した.
断層構造は南海トラフ沈み込み帯の3次元構造モデル(Nakanishi et al., 2018)を参照し,地殻変動や津波高の痕跡分布を踏まえて東南海震源域に8枚の小断層を配置した.各小断層のすべりによる地殻変動はOkada (1985)の方法,津波は線形長波理論(空間格子間隔150 m,時間間隔0.2 s)に基づき計算した.津波痕跡点については空間格子間隔の問題や精緻な地形復元作業を必要とする痕跡点,内海の痕跡点を除いた50点を利用した.地殻変動量については当該地震発生前後の観測値(Satake, 1993)を用い,三重県沿岸の18点を利用した.これらの痕跡を説明する各小断層のすべり量は,誤差ノルムが最小となるようにSA(Kirkpatrick et al., 1983)を用いて推定した.地殻変動や津波痕跡高には観測誤差や本地震以外の地殻変動成分が含まれると考えられる.本解析ではこの誤差を±10%程度と仮定して一様乱数により与え,1,000回試行のアンサンブル平均処理を行い,各小断層のすべり量を評価した.本モデルの地震規模はMw 8.1程度となり,地殻変動や津波高の分布をおおむね再現できた.一方,三重県南部沿岸の新鹿では海岸近くの徳司神社での浸水高(7.5 m)を再現することができる一方で,津波遡上高(13.6 m)を再現することはできなかった.津波痕跡高の分布を考えると,新鹿の遡上高は局所的に高まっており,断層運動から説明することは難しく,地震に伴った海底地すべりによる影響の可能性が示唆される.
以上を踏まえ,新鹿沖の陸棚斜面上における海底地すべり痕や崩落崖によって励起され得る津波について検討を行った.海底地すべり痕については森木・他(2017)による判読結果を利用した.崩落崖については海底地形や反射断面(産総研による)による判読に基づき検討を行った.これらの地形に対してWatts et al. (2005)の方法で海底地すべりによる初期津波振幅を評価した.その振幅が1 mを越える場合には地形復元作業を行い,これを初期条件として海底地すべり津波解析を実施した.この検討において,海底地すべり痕から励起され得る津波についてはWatts et al. (2005)の方法を用いて評価を行うと,各地すべり面上での津波振幅は1 cm以下となり有意な津波を励起しないことがわかった.
陸棚斜面表層の地質性状について,地形表面に観察されるgully,海底面から深さ100 m程度は不安定な堆積層で構成されていることが反射断面から読み取ることができたため,大規模な土砂崩れに起因した崩落崖を想定して検討した.このような崩落崖は陸棚斜面法先に数点存在し,新鹿沖の崩落崖に対して海底地すべり津波解析を行うと,新鹿沿岸で10 m程度,その周辺では1~2 m程度の津波となり,新鹿で局所的な津波の高まりを再現し得ることが判った.崩落崖の規模については検討の余地はあるが,新鹿の津波痕跡高の励起源としては陸棚斜面法先の崩落崖生成時に励起された可能性を定量的に示すことができた.
謝辞:本研究はR2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一),科学研究補助金(研究代表者:谷岡勇市郎,課題番号:19H01977)の一環として行われました.
本研究では,当該地震による津波痕跡高分布を説明することのできる昭和東南海地震の波源断層モデルの再評価を行い,さらに三重県新鹿の13.6 mにおよぶ津波痕跡高の励起源について検討を行う. 本研究で用いた津波痕跡高は既往報告(例えば,中央気象台,1945;表,1946;羽鳥,1974;飯田,1977;三重県,1995)や三重県沿岸の当該地震津波に関する石碑情報(新田,2016)を利活用して津波痕跡高の再調査を実施した.
断層構造は南海トラフ沈み込み帯の3次元構造モデル(Nakanishi et al., 2018)を参照し,地殻変動や津波高の痕跡分布を踏まえて東南海震源域に8枚の小断層を配置した.各小断層のすべりによる地殻変動はOkada (1985)の方法,津波は線形長波理論(空間格子間隔150 m,時間間隔0.2 s)に基づき計算した.津波痕跡点については空間格子間隔の問題や精緻な地形復元作業を必要とする痕跡点,内海の痕跡点を除いた50点を利用した.地殻変動量については当該地震発生前後の観測値(Satake, 1993)を用い,三重県沿岸の18点を利用した.これらの痕跡を説明する各小断層のすべり量は,誤差ノルムが最小となるようにSA(Kirkpatrick et al., 1983)を用いて推定した.地殻変動や津波痕跡高には観測誤差や本地震以外の地殻変動成分が含まれると考えられる.本解析ではこの誤差を±10%程度と仮定して一様乱数により与え,1,000回試行のアンサンブル平均処理を行い,各小断層のすべり量を評価した.本モデルの地震規模はMw 8.1程度となり,地殻変動や津波高の分布をおおむね再現できた.一方,三重県南部沿岸の新鹿では海岸近くの徳司神社での浸水高(7.5 m)を再現することができる一方で,津波遡上高(13.6 m)を再現することはできなかった.津波痕跡高の分布を考えると,新鹿の遡上高は局所的に高まっており,断層運動から説明することは難しく,地震に伴った海底地すべりによる影響の可能性が示唆される.
以上を踏まえ,新鹿沖の陸棚斜面上における海底地すべり痕や崩落崖によって励起され得る津波について検討を行った.海底地すべり痕については森木・他(2017)による判読結果を利用した.崩落崖については海底地形や反射断面(産総研による)による判読に基づき検討を行った.これらの地形に対してWatts et al. (2005)の方法で海底地すべりによる初期津波振幅を評価した.その振幅が1 mを越える場合には地形復元作業を行い,これを初期条件として海底地すべり津波解析を実施した.この検討において,海底地すべり痕から励起され得る津波についてはWatts et al. (2005)の方法を用いて評価を行うと,各地すべり面上での津波振幅は1 cm以下となり有意な津波を励起しないことがわかった.
陸棚斜面表層の地質性状について,地形表面に観察されるgully,海底面から深さ100 m程度は不安定な堆積層で構成されていることが反射断面から読み取ることができたため,大規模な土砂崩れに起因した崩落崖を想定して検討した.このような崩落崖は陸棚斜面法先に数点存在し,新鹿沖の崩落崖に対して海底地すべり津波解析を行うと,新鹿沿岸で10 m程度,その周辺では1~2 m程度の津波となり,新鹿で局所的な津波の高まりを再現し得ることが判った.崩落崖の規模については検討の余地はあるが,新鹿の津波痕跡高の励起源としては陸棚斜面法先の崩落崖生成時に励起された可能性を定量的に示すことができた.
謝辞:本研究はR2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一),科学研究補助金(研究代表者:谷岡勇市郎,課題番号:19H01977)の一環として行われました.