The 2022 SSJ Fall Meeting

Presentation information

Poster session (1st Day)

Regular session » S17. Tsunami

[S17P] AM-P

Mon. Oct 24, 2022 9:30 AM - 12:00 PM ROOM P-3 (10th floor (Conference Room 1010-1070))

9:30 AM - 12:00 PM

[S17P-03] Capability of inversion of dense offshore tsunami measurements to constrain spatio-temporal evolution of tsunami source generation

*Hiroaki TSUSHIMA1 (1. Department of Seismology and Tsunami Research, Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency)

背景と目的
津波を早期に直接観測できる沖合の津波観測は,津波の即時予測に有効である.東日本大震災後,日本近海に海底観測網が急速に拡充され,その観測データを用いた津波予測の研究も格段に進んだ.本研究では,その1つであるリアルタイム津波波形逆解析に基づく予測手法に注目する.この手法では,地震発生時に瞬時に波源分布(初期水位分布)が形成されると仮定することが多い.一方,巨大地震では,断層破壊が長時間に及ぶなど,波源生成の時空間発展が複雑なことがあり,瞬時の波源形成の近似が不十分な場合がありうる.Tomita and Takagawa (2014)は,波源生成の時空間発展を考慮した波形逆解析に基づく津波予測を提案し,数値実験を通して巨大地震への有効性を示した.一方,波源の時間発展を表現するためのモデル・パラメータが増えると,時空間的なトレードオフが生じやすくなるため,瞬時破壊とみなせるような中小規模の地震津波に対して,かえって波源推定や津波予測の品質が低下するおそれがある.津波即時予測の場面では,破壊継続時間などがまだ明らかではないことも想定されるため,時空間発展を考慮した逆解析に基づく津波予測をより効果的に行うには,そもそも稠密な沖合津波観測データから波源の時間発展をどのくらい拘束しうるのかを把握しておくことが重要と考えられる.本研究では,数値実験でこの感度を調べるとともに,その実験結果に基づいて津波予測に適した津波波形逆解析について議論する.

実験方法
稠密な沖合観測網S-netがある日本海溝沿いを対象領域に,数値実験を実施した.まず,2011年東北沖地震の断層モデル(Fujii et al., 2011)から初期水位分布(実験での正解波源)を計算し,それを基にした津波伝播数値計算で得られた波形を観測波形だとみなした.そして,沖合津波観測点約170点の波形を用いて,波源の時間発展を考慮した津波波形逆解析で初期水位分布を推定し,正解波源をどのくらい復元できるかを評価した.とくに,逆解析で仮定した時間発展の長さが,正解波源のそれと異なる場合に,波源の時間発展をどのくらい拘束できるかに着目した.正解波源の時間発展としては,問題を単純にするため,破壊伝播速度は無限大とし,ライズタイムのみ様々な値を仮定した(最長5分).波源推定には,Tsushima et al. (2009)の津波即時予測向けの波形逆解析を,波源の時間発展を考慮できるように改良したものを用いた.具体的には,初期水位の発生を表現する基底関数を時間方向に1分間隔で複数配置した.実験では,基底関数の個数を増減させて,逆解析における波源生成の総時間長をさまざまに変化させた(最長10分).破壊伝播速度は無限大を仮定した.拘束条件としては,Tsushima et al. (2009)と同様,初期水位の空間分布に関する拘束を課し,時間方向の拘束は課していない.観測波形だけで波源を時間方向にどのくらい拘束できるかを調べるためである.また,十分な時間長の波形から時間発展をどのくらい抑えられるかを知ることがまずは重要だと考え,地震発生から30分間のデータを逆解析に用いた.

実験結果と考察
実験結果のうちの大半のケースでは,正解波源よりも長時間にわたって基底関数を展開しても,前後の時間帯に偽波源が若干求まることはあるものの,概ね正解の波源生成時間帯の範囲で初期水位が求まった.一方,時間的に隣り合う初期水位分布が逆符号の顕著な変位を持つなどして,時間方向に初期水位のトレードオフが起きてしまい,正解波源よりも長時間にわたって初期水位が求まるケースもみられた.これらのことは,稠密観測データを用いることで,波源生成の時間帯を一定程度は拘束できる可能性はあるものの,解析条件によっては過度なモデル・パラメータ設定になって波源解の推定精度が低下しうることを示唆する.こうした時間発展への拘束力の違いが生じる要因・条件についてはさらなる検討が必要である.

 謝辞:本研究の一部はJSPS科研費JP21K04621の助成を受けている.